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    ku_row3

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    ※知己設定の忘羨

    #CQL
    #忘羨
    WangXian

    気付けば君はすぐそこに藍忘機は真っ暗な世界で夢を見る。
    その男は座学時代、私の心を掻き乱し、固く閉ざされた心にずけずけと入り何度もその扉を叩いてきた。家規は守らず、穏やかだった日常を悉く騒がしくして来る男だった。だが、その心の根源にあるものは確かに真っ直ぐなモノだった。

    魏無羨は何もない世界で夢を見る。
    その男に初めて出逢った時のことを、今でもよく覚えている。美しいものを人の形で体現したら、きっとこういう風になるのだろうというくらい、絶世の麗人だった。だが、その中身は融通の効かない石...いや、岩のように硬く頑丈なもので、規律を重んじ模範解答しか許さない、そんな頑固な男だった。だけど、その心の根源にあるものは、純粋で無垢なモノだった。

    ぽつぽつと雨が降り始めた真っ暗な世界で、藍忘機は後悔する。
    あの時、彼を守れなかったこと。彼の本心を分かってやれなかったことを。私がきちんと君の本当の言葉を聞き漏らさずにいたのなら、君が君自身を追い詰めてしまうことなどなかったのに。君と同じ道を歩めなくなってしまった私自身を、恐らくあの日から許せなかった。罰せられなければいけなかったのは、あの日の私自身だ。彼がどれだけ自分を犠牲にしてきたのか、彼がどれだけの重荷を背負っていたか、あの頃の私は見ていた世界があまりにも狭かった。

    何もない世界にぽつぽつと雨が降り、魏無羨は恐らく空であろう場所を見上げる。
    あの時、俺はあいつと道を違えた。そしてあいつ自身を苦しめてしまったことが、いつの間にか心の片隅で傷痕になってしまった。あいつは俺と違って立場もあるし、間違ったことは許せない真っ直ぐなやつだから、どうしようもなかったことだ。だからあいつが気にすることなんて何にもないのにな...本当に真面目な男だ。俺はさ、俺のせいで大切な人達がどんどん消えていくのが、もう耐えられなかったんだよ。だからきっと、これで良かったんだ。

    雨は雪に変わり、藍忘機はその男の背中を見つける。
    だが藍忘機の声は届かず、男は雪の中をどんどん進んでいく。
    「魏嬰!そちらに行ってはいけない!」
    これほど大きな声を出すのは、家規を逸脱しているだろう。罰せられても仕方がない。でも、そんな些事を気にしている場合ではない。罰なら幾らでも受ける。君だけに重荷は背負わせない、君が罰を受けるなら私も受ける。だが歩けば歩くほど、彼の背中は遠くなる。近付いている気配がない。それでも声をかけ続けていれば、いつか振り返っていつものようにあの屈託のない笑みをこちらに向けるかもしれない。




    「ん、雪か?どうりで冷えたきたと思った」
    何もない世界で降ってきた雨は雪へと変わり、とりあえず前へと進んでみようと思った魏無羨は一つの笛を大切そうに握りしめ、何もない道を進んでいく。
    ここが何処か分からないが、ここは酒も飯もない。一人だと暇を持て余しすぎる。あぁ、天子笑が飲みたい...。そうだ、林檎を見つけたら姑蘇へ買いに行こう。でも藍湛に見つかったらまた小言を言われそうだなぁ...。吹雪いてきた雪に負けないようにしっかりと両腕で庇いながら前へと進んでいく。

    暫く歩くと、目の前に師姐が立っていた。一番幸せになって欲しかったのに、俺のせいで不幸にしてしまった俺の大切な人。
    「阿羨」
    師姐、そこにいると雪が積もるよ。ほら、俺の上着を着て?風邪でも引いたら大変だから。
    「阿羨、貴方のことを大切に思っているのは、私だけじゃないのよ。貴方は、貴方が思っている以上に沢山の人から愛されているの。だから、貴方が今持っている重い荷物はここに置いていって。そのままだと、この吹雪で貴方が埋もれてしまうわ」
    荷物?俺はこの笛しか持っていないよ。随便はもう使わないから置いて来ちゃったんだ。
    「師姐、俺は沢山の人に迷惑をかけたんだ。俺のせいで、皆が傷付いた。師姐も、俺を恨んでもいいんだよ。だって師姐の大切な人達を俺のせいで失って、金凌をひとりぼっちにさせたんだし。...俺さ、夷陵老祖って呼ばれてるんだ。悪の親玉、夷陵老祖とは俺のことさ!」

    我ながら芝居がかった様子で話せば、師姐はふるふると頭を振りいつもみたいに優しく笑って、俺の頭をそっと撫でてくれた。俺はそんなことしてもらう資格なんてない。恨まれて、憎まれて、殺されて当然の男だ。自分の夫を殺され、生まれたばかりの大切な赤ん坊を一人残して自分も命を奪われて、恨んでいないはずがない。江澄の言った通りだ、俺のせいでこうなったんだ。
    「阿羨、貴方のせいじゃないわ。私もあの人も、貴方を恨んだりしていない。だから自分を責めないで...私も阿澄も、そして彼も貴方を大切に思っているの。大丈夫、私達はずっと一緒よ...」
    師姉は小さい子に言い聞かせるみたいに、その小さい体で俺を包み込むように抱きしめてくれた。その温もりが消えると、遠くから聞こえた声はハッキリと聞こえてきて、俺は思わず振り返った。


    「藍...湛?」
    「魏嬰!!」
    二人が邂逅を果たした瞬間、まるで時間が動き出したかのように雪は止み、突然真っ白な光に包まれた。

    次に目を開けると、そこは森の出口だった。
    「あれ...?俺達、確かこの森の入り口にいたはずだよな...。出口まで歩いた記憶がないんだけど...」
    キョロキョロと辺りを見回す魏無羨に、ボサッとするなと言わんばかりに林檎が鼻を鳴らす。
    「林檎ちゃん!お前どこに行ってたんだよ〜。探したぞ〜」
    「魏嬰、無事か」
    魏無羨が林檎の首元に抱きつけば、藍忘機の声にハッと振り向く。
    「藍湛!あぁ、何ともない。お前も無事だったみたいだな。流石、我らの含光君だ!」
    「問題ない。どうやら、この森自体に強力な幻術がかかっていたようだ。恐らくここを通る者の記憶を走馬灯のように流し、精神的に未熟な者は入り口に戻され、心が折れなかった者のみが出口に辿り着くような仕組みになっているのだろう」

    ふと、魏無羨はこの森に入ったことのある仙師達の話を思い出した。森に入ったはずが、何故か入り口に戻されてしまったと口々に話していたが、中には気が付いたら森を抜けていたと言っていた仙師もいた。そしてその仙師達に共通していたのは、『心の支えになる者が現れた』ということだ。その姿は、家族や恩師、師兄や師弟、恋人だったりと様々だった。

    (あれ?師姐と話した時は戻ってなかった、よな。なら、戻ったのは藍湛と出逢った時...?)
    考え込んでいた魏無羨に、藍忘機は悲しげに目を伏せて口を開く。
    「...君が、吹雪の中どんどん前に進んで行く姿を見た。あの頃のようにまた君が一人で何処かに行ってしまうのでは、と思って気が付いたら君の姿をただ追いかけていた。何度も君を呼んだが、君は気付くことなく進んで行った」
    「え?そうなのか?悪い!全然気付かなかった...」
    落ち込んでいる藍忘機に両手を合わせ謝り、顔を上げた。
    「俺さ、師姐に会ったんだ。そしたら師姐に、俺の抱えてる荷物を置いていけ、なんて言われたよ。もう今の俺にはこの陳情しかないから、荷物なんてないのにさ...。でも師姐と話して、ちょっと胸の辺りが軽くなった気がしたなぁ...。」
    どこか遠くを見つめる魏無羨に、藍忘機は何と言えばいいか分からず、その横顔を見つめるしか出来なかった。

    「でも俺が戻れたのは、お前と出逢った瞬間だった。だから俺にとって心の支えは、きっとお前だったんだなぁ....って思ったんだ」
    ニッと屈託のない笑みを浮かべると、一瞬藍忘機は目を見開くも「そうか」と一言素っ気なく答えて歩き出した。
    「なぁなぁ、藍湛は誰と会ったんだ?やっぱり沢蕪君?それとも藍先生?あ、もしかして思追?でも、藍湛は俺と同じ時に出口にいたってことは俺が心の支えだったってことだよな?」
    次々と質問を投げかける魏無羨を一瞥することなく、藍忘機はスタスタと歩いていく。
    「なぁ〜藍湛!藍忘機!含光君!藍兄ちゃんってば!無視するなよ〜。羨羨泣いちゃうぞ〜」


    林檎を連れて楽しげに藍忘機の後ろをついていく魏無羨は、藍忘機の耳が僅かに赤く染まっていることに気付き、一人穏やかな笑みを浮かべた。
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