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    七海みなも

    執着×依存←〇〇推し
    共依存型ヤンデレ双子と不可思議骨董屋シリーズの小説と絵をマイペースに書いてます

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    七海みなも

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    以前画像で上げた骨董屋さんのハロウィンSS🎃
    白バイ隊員の伊織と骨董屋二人のちょっとしたお話。

    ##不可思議骨董屋
    #創作BL
    creationOfBl
    #創作BL小説
    creativeBlNovels

    白バイ隊員の悪戯いつも通りの警邏。
    いつも通りの休憩時間に、矢張りいつも通り相棒を放置して、俺は骨董屋へ向かった。
    連続不審事故や餓鬼玉事件で世話になった骨董屋である。
    何の因果か知らないが『はい、さようなら』と切れる縁ではなかったらしい。
    否。
    あの変わり者たちに進んで関わろうとしている自分も、多少いるのだが。

    ただのオブジェと化している可哀想な軽自動車の隣に白バイを停め、見た目以上に重い引き戸を潜り店内へ踏み入る。
    迎えてくれたのは白檀の香りと、普段は漂って来ない蓮華の匂い。
    どうやら今日は『当たり』らしい。
    広めなコンビニ程の店である、目的の場所は直ぐに現れた。
    店の最奥。会計処の小机に向かって座る、二人の男性。
    ジャージ姿の仏頂面と、蓮の浮く墨染めの着流しに身を包んだ麗人——店主のユウさんと従業員のアヤさんだ。
    常なら昼寝に興じているアヤさんが店番をしているのだ、矢張り『当たり』日である。

    「よう、性悪にサトリ。今日も閑古鳥が鳴いとるな」
    「おう、税金泥棒。今日も堂々とサボりか、良いご身分だな」
    「いらっしゃい伊織。ふふっ、また相棒さんは一人ご飯なの?」
    「あいつは強メンタルやからな、強制ぼっちでも気にせんよ」

    俺と性悪店主が軽口を叩き合い、それを天然サトリがぽやぽや眺める。
    これまたいつも通りのやり取りである。

    ——しかし今回はその『いつも通り』を壊しに来たのだ。

    式台に設置された小机の上へ、俺は『それ』をどんと置いた。
    ユウさんの片眉がひょいと上がる。

    「何だこの袋」
    「なになに? 美味しいものが入ってるの?」
    「残念やったなサトリ、食いもんとちゃうねん」

    お菓子じゃないのかぁ、とアヤさんの肩が分かり易く落ちる。
    そのブレない食い意地に俺はにんまりと口角を上げた。

    「食いもんとちゃうけどな、こいつがあれば仰山菓子が貰えるで?」
    「ほんとっ?!」

    途端、ぱあっと表情を明るくしたアヤさんと、その横で訝しげな顔をするユウさん。対照的な二人の反応にくつくつと喉が鳴る。

    「こんな日に『いつも通り』は面白んないからなあ」
    「んぅ? こんな日?」

    唇をつんと尖らせ首を傾げるサトリをさり気なく庇いながら、性悪店主がどう言う事だと眼で問うてくる。
    オカルトやら民俗学やらの知識はふんだんにあるくせに、揃ってイベント事には疎いらしい。

    「こういうのは楽しんだモン勝ちや言うとんの。取り敢えず、座敷に上がってええか?」



    座卓を挟んだ向かいで白いウサ耳が、成る程ねぇ、と上下に動く。

    「今日はハロウィンだったねぇ。道理で街の浮遊霊や障気が落ち着かないわけだ」
    「何でも取り入れて自国流にアレンジするあたり、流石日本って感じだよな」
    「……あんたらにまともな感想求めた俺が阿呆やったわ」

    うんうん、と得心いったように頷くサトリの頭には、白兎の耳のあしらわれたカチューシャが乗っている。
    持って来た俺が言うのも何だが、似合い過ぎていて逆に違和感を覚えてしまう。顔が良いのも考えものだ。

    ——それにしても。
    何の抵抗もなくウサ耳を着けたアヤさんもアヤさんだが、数あるコスプレグッズの中からこれを選んだユウさんもユウさんである。
    このむっつりめ、と言ってやりたいが同類だろうと返されるのが目に見えている。
    沈黙が吉である。

    「で?」
    「なんよ」
    「態々休憩時間削ってこんなモン持って来たんだ。何かあるんだろ、伊織?」
    「いや、別に」
    「……は?」

    珍獣でも見るような眼になった骨董屋には悪いが、本当に何も無い。
    強いて言うなら警邏へ出る前、本庁でぎゃあぎゃあ騒いでいた一課きっての変わり者と新米刑事に、間接的な悪戯を仕掛けたかった。
    それだけである。

    「あの新米刑事が喜びそうやなー思うて持って来たんよ。ほんまそれだけやねん」
    「新米刑事って……傑が? まっさかー。俺がこんな格好して喜ぶのなんてユウだけだよ。ねえ?」
    「何で本人に訊くんだよ、頷き辛ぇだろうが」

    いや好きだけど、と続けるユウさんは矢張りむっつりだと思う。
    普段はそんな素振り、微塵も見せないくせに。

    二人の世界でわちゃわちゃ会話をする骨董屋たちを眺めながら、俺はすっかり温くなった湯呑みを傾けた。
    全く、傑のヤツも難儀な恋をしたものだ。
    天然サトリをものにするには、むっつり性悪店主の攻略が必須なのだから。

    ——あのわんこが二人の関係に気づいとるのか知らんけど。

    「ははっ! どいつもこいつもけったいやなぁ」

    座卓へ頬杖をついたまま笑みを零した俺に、四つの瞳が向けられる。
    未知の生物に遭遇したような表情を作る骨董屋は、罪作りな白兎を中心に起きるであろう珍騒動を、どう治めるつもりだろう。
    平生通り面倒臭ぇとタマキさんへ放るのか、サトリを抱えて逃走するのか。
    どちらも有り得そうである。
    頬を赤らめ慌てふためく傑と、存外過保護なタマキさんの姿を脳裏に描き、俺はもう一度大きく笑った。


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