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    七海みなも

    執着×依存←〇〇推し
    共依存型ヤンデレ双子と不可思議骨董屋シリーズの小説と絵をマイペースに書いてます

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    七海みなも

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    骨董屋の縁側でお話をする傑とアヤ。
    悶々している傑視点です。

    ##不可思議骨董屋
    #創作BL
    creationOfBl
    #創作BL小説
    creativeBlNovels

    英雄の器とは 手土産片手に訪ねた骨董屋。
     パワーストーンだという貴石を惜しみなく敷いた中庭は、夏至の強い日差しを受け、今日も独特な色を放っている。
     夏の盛りにも拘わらず縁側が涼しいのは、もしかしたらこの妖しささえ感じる庭の所為なのかもしれない。
     そんな失礼な事を考えながら入道雲を眺めていると、不意に涼やかな声が耳膜を打った。

     「『英雄と云うものは天と戦うものなのだろう』……」
     「え?」

     視線を落とせば、俺の膝を枕に昼寝を楽しんでいた筈のアヤさんが、くふくふと喉を鳴らしている。
    いつ起きたのだろう。全く気づかなかった。
     睡魔の残る瞳を撓ませる彼は、無言で驚く俺を見上げて言葉を繋ぐ。

     「『英雄の器』に出てくる言葉だよ。急に思い出しちゃった」
     「へえ、何で?」
     「ふふ……何でだろうね。傑を見てたからかな」
     「俺?」
     「うん、いつも真っ直ぐ走る傑だから。多少の困難なら無意識に挑んで乗り越えちゃいそう」
     「そうかなあ……過大評価じゃない?」
     「そんな事ないよ、自覚が無いだけでしょ」
     「うぅん……」

     そうだろうか。
     アヤさんを疑うわけではないが、矢張り過大評価だと思う。
     俺は勇気があるわけでもなければ、行動力があるわけでもない。
     どちらかと言えば優柔不断で鈍臭い人間である。

     「傑、もしかして疑ってる?」
     「疑ってるって言うか……恥ずかしい、かな」

     ちょんと口を尖らせる彼の赤髪を、指先で丁寧に梳く。途端、彼の眼が擽ったそうに細まった。
     瞼動き一つ取っても絵になる人だ。
     美は得である。 

     「……アヤさんは戦うの?」
     「んぅ?」
     「ほら、さっき言ってた『英雄の器』の……」

     彼は、ああ、と頷くと白い手で口許を覆い、可笑しそうな表情で言う。

     「俺は戦わないかなぁ。だって疲れちゃうじゃない」
     「そこなの?」
     「うん。俺、面倒くさがりだもん。怒るのもそう、疲れたくないから怒らないの。ほら、ものぐさでしょ?」
     「うーん……」

     正直、同意しかねる。
     アヤさんはこう言うが、半分冗談な気がする。
     面倒くさがりの無精者は、態々他人の為に動かない。
     この骨董屋たちは憎まれ口を叩く割に見返りを求めず、善意で行動する節がある。
     先日の連続不審事故など良い例である。
     俺は静かに怒るアヤさんを思い出し、ぶるりと身を震わせた。
     美人の怒りは恐い。とても恐い。
     アヤさんは一人百面相をする俺を面白そうに観察していたが、不意に声を落とし、でも、と口を開いた。

     「そうだなぁ……必要なら最後まで戦うけどね」
     「え、結局戦うの?」
     「あくまで必要なら、だよ。さっきも言ったけど疲れちゃうし。それに俺、争いごとって嫌いなんだよね——」

     ——無意味に傷つけ合うだけみたいな気がしてさ。
     そう言って彼は再び瞼を閉じた。
     程なくして、規則正しい呼吸音が縁側に零れる。
    入眠が早い。今日は『おねむの日』らしい。

     暫く彼の髪を指先で遊んだり、形の良い頭を撫でたりしながら、手入れの行き届いた庭を観察していたが——ふと、腿の形に従い僅かに反る白い喉へ左手を乗せた。
     喉仏の浮き出るそこから、ゆっくりと下へ辿る。

     鎖骨、小胸筋、胸骨と進み。
     行き着いた先は、左胸。
     心臓の、上。

     掌を打つ確かな鼓動に、俺はほう、と息をついた。

     彼の昼寝に付き合っていると、時々怖くなる。
    白くきめ細かい肌や薄紅色の唇、長い睫毛に柔い赤毛。まるで精緻な人形のように整っているから。
     もしこのまま、眼を覚さなかったら——なんて。
     縁起でもない考えに、ふるりと背筋を震わせたその時、

     「——えっち」
     「!?」

     中性的な嗜め声に打たれた。
     ぎょっとして目線をずらすと、まんまるな眼が咎めるように俺を見上げ、口を尖らせている。

     「傑の手、動きがえっちだ」
     「ちょ、ちがっ……えっ、えぇ!?」

     厭らしいと称された左手を慌てて引っ込めようとするも、寸手のところで握り取られてしまい、失敗に終わる。
     無理矢理引っこ抜く事は出来ないし、しどろもどろに弁明するのもおかしい。
     視線を泳がせて狼狽する俺に満足したのか、アヤさんはゆっくりと左手を解放しながら愉快そうに笑った。

     「ふふ、冗談だよ。そんなにびっくりする事ないじゃない、俺だっておんなじ男だよ?」
     「いや、まあ…そうなんだけど……」

     アヤさんに言われると性別に関係なく、いけない事をした気になる。
     だがこんな事、馬鹿正直に言うわけにはいかない。
     上手い言葉が出て来ず、うぅ、と喉の奥で唸ると同時に、背後から襖の開く音がした。
     奥の台所に消えたユウさんが、三時のおやつを手に戻って来たようだ。
     口の悪い骨董屋は何かを察したのか、可笑しそうな息を零す。

     「アヤ、まあた傑を弄んでんのか?」
     「弄んでなんかないよぅ。ね、傑?」
     「え?! あー……、はぃ……」
     「別にどっちでもいいけど。早く食わねえと温くなっちまうぞ」
     「はぁい。行こ」
     「う、うん……」

     座敷へ戻るアヤさんを追うように立ち上がる。
     半歩先を行く彼の旋毛を呆と見ていると突然、墨染めの着流しが翻り、悪戯っ子な顔が俺の瞳を覗き込んできた。
     彼は瞼を撓ませ、まるで先の俺のを真似るように、俺の左胸へしっとりと掌を乗せた。

     「ねえ傑」
     「な、なに……?」

     囁くような声と戯れに動く手に、情けなく声が震える。
     羞恥心と僅かな期待から顔を熱くする俺に気づいているのか、いないのか。天然小悪魔の言葉は続く。

     「俺は必要に迫られれば戦うけど、傑は最初から戦う選択をすると思うよ」
     「へ……?」

     先の問答の続きを口にした彼は、何事も無かったような仕草で離れると、定位置に腰を下ろすなり俺を見上げてーー戦うよ、と繰り返す。

     「傑はきっと、俺よりずっと激しいもの」

     そう言って彼は満足そうに微笑み、水菓子の盛られた皿をいそいそと引き寄せた。
     今日のおやつはスイカとキウイらしい。

     アヤさんの真意は解らないけれど。
     まずは喧しく跳ねる心臓を何とかしようと思った。


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