【薫零】花見一仕事終えてから事務所で次の台本を読み込んでいたらいつの間にか数時間。どうりで集中力が無くなるわけだと気晴らしに散歩をしていたのだが。
「うわぁ」
近所の公園に植えられた木が桜だということを、花が咲くまで気づいていなかった、いや意識もしていなかった。
たまたま人の少ない時間に来られたおかげもあって視界を幻想的なピンクに染められると異世界に迷い込んだよう。
「零くん誘ってみようかな……??」
その光景を見て真っ先に浮かんだのは相棒だった。この景色を見せたい、一緒に見たい。零が初めてこの光景を見るとき隣にいるのは自分がいい、と。
「……桜が綺麗だから見に行こうって誘うのは普通だよね?」
記憶を辿って零の今日のスケジュールを思い出す。確か今日はロケだと言っていたが早朝からだったしそろそろ終わる頃。帰りに一度事務所に寄ると言っていたから、急いで戻ればちょうど会えるはず、と。脚を速めれば案の定、エレベーターホールで零と出くわした。
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