Búsqueda reciente
    Puedes enviar más emoji cuando creas una cuenta.
    Inscribete ingresa

    ___

    SS置き場
    ある程度溜まったら支部に置きます

    ☆silencio seguir
    POIPOI 131

    ___

    ☆silencio seguir

    凛潔/😈👼パロ

    地獄の底で会いましょう 頭上で渦を巻く大気はけがれを孕んだ紫のもやと、全てを包み込むような慈愛に満ちた白い靄が均等に混ざり合って、薄い紫色をしている。
     じりじりと首の後ろを蝋燭ろうそくで炙られているような緊張感の中、イサギは背中に生えた純白の羽根と同じくシミ一つない白い衣服の裾をはためかせながら、はるか足元にぽっかりと開かれた底の見えない大穴を眺めていた。
     あまねく降り注ぐ神の威光でさえも届かないその穴の果ては、天使であるイサギにはあまりにも危険な場所。
     それを分かってはいても、折を見てはひっそりとこの場所に訪れるイサギの青い瞳は普段とは異なり、底知れぬ影を落としていた。
     だが、そんなイサギの憂いを察知したかのように、不意に背後からさらに黒い影に覆われる。
     「……ッ!?」
     上級天使であるイサギの危機察知能力を越える隠密性を兼ね備えているなど、どう考えても只者ではない。
     しかもわざと存在を知らせるように、急に感じるようになった魔力量の多さに息を呑んだ。
     そもそも、神の御遣みつかいたるイサギが天界と魔界の境目にあたるここに来るのですら、穢れを溜め込む事になるので禁忌とされている。
     だからこんな場所で魔物や階級の高い悪魔に出会ってしまえば、流石にイサギとはいえ無傷でいられるかどうか。
     瞬時にそこまで思考を張り巡らせたイサギの脳裏に一人の男の影が過ぎる。
     危険だと分かっていてもこの場所に来てしまうのは、イサギにとって忘れられない相手がいるからだった。

     いつだってイサギのピンチにはすぐに大きな翼で駆け付け、文句を吐きながらも危害を加えるモノから守ってくれた。彼の事を忘れた日などながい生を過ごしてきて、一度たりとも無い。
     まだ消滅するワケにはいかない。胸の奥に芽生えた確かな衝動のまま、咄嗟とっさに逃げようと純白の翼を素早く動かして振り向いたイサギは、信じられない光景に息をつめた。
     どれだけ姿が変わろうとも、目の前に立ち塞がった人物を見間違える事など無い。
     ──だって、ずっと彼を想い続けていたのだから。
     「……リン……」
     イサギの記憶の中とは異なり漆黒の衣装に身を包んだリンは、何も言わずにただまっすぐイサギを見つめていた。
     流氷のような冷たさを保ちながらも澄んだ美しい青色は記憶の中と寸分も変わらない。だが、それ以外は何ひとつとして同じではなかった。
     天使の隊服では無く、上級悪魔が着用する漆黒の衣服に身を包み、かつてイサギを守ってくれた大きな白い翼は悪魔の羽根へと変容を遂げている。
     けして清廉潔白とは言えない性格をしていたものの、リンが堕天しているとは思ってもみなかったイサギは驚きのままにその姿をじっくりと一往復してから、再び視線を絡ませた。
     もしかしたら、自分がもう一度だけでも良いから会いたいと願ったせいで、幻覚を見ているのかもしれないとすら思った。
     「イサギ」
     けれど、聞こえてくる声色も変わってはいない。
     自然と滲みかけた視界をどうにか歯を食い縛って堪えたイサギは、それでも表情の変わらないリンを睨みつける。
     怒りと悲しみ。それからどんな形であれ、まだ存在してくれていたという事実に空に渦巻く大気のように感情を揺さぶられているイサギの翼から一枚の羽根が落ちて足元の穴に吸い込まれていく。
     「俺と一緒に来い」
     そのまま続けて聞こえた言葉に、イサギが喉奥から湧き上がってきた唾を飲み込んだのはほぼ同時だった。


     かつて天界に住んでいたリンは、兄であるサエと同等、あるいはそれを超える天界11傑イレブンの一員になると噂される程の戦闘力を有していた。
     本人は兄であるサエと比べられる事が嫌だったのか、時々漏れ聞こえてくるそんな話を興味無さそうに流していたものの、同時期に産まれた天使の中で最強なのは事実だった。
     そのかわりに、というのも可笑しいが、強さと比例するように天使にはあるまじき不遜さや協調性の無さを隠さないリンには誰も近寄らなかったのだ。ただ一人、イサギだけを例外にして。
     イサギにとってリンは絶対的な存在だった。全ての指標であり、己が到達するべき強さに最も近い天使。
     だからその強さの秘密を知りたくて、どんな相手ですらも寄せ付けたがらないリンの背中を常に追った。
     そのうちにリンはイサギをその目に映すようになって、最強であるリンと張り合える宿敵ライバルだと自他共に認めるくらいの間柄になっていた筈なのに、突如としてリンは姿をくらませたのだ。
     元からイサギとサエ以外には言葉を交わす事すらも億劫にしていたリンが消え、さらにはリンを追うようにサエも忽然と姿を消してしまった。
     11傑イレブンのサエと同格の力を持つリンという二人を一気に失った事で、なにか恐ろしい災いが起こる前触れだと天界では大変な騒ぎになった。
     しかしながら、悠久の時間を生きる天使たちにとっては『そんな日もあったな』と、時間経過と共にイトシ兄弟失踪事件は風化してきている。
     けれど、けしてイサギだけは諦めていなかった。
     どんな理由があろうとも、何も言わずにイサギの前から消えてしまったリンとサエを、イサギなりにとても大切に思っていたからだ。


     だからこそもう一度、目の前に居るリンの姿を見つめるイサギの眼光は鋭い。
     リンの頭部に存在していた筈の光輪は消え、かわりに二本の立派な角が生えている。
     天使であるイサギとはもう相容れない存在である悪魔にリンはなってしまったのだというのを改めて理解したイサギは、掠れた声を絞り出した。
     「……お前、それがどういう意味なのか分かってて言ってんだよな? リン」
     リンと共にいくという事は、イサギもリンと同じ存在になるという事だ。
     これまで生きてきた役割や仲間を放棄し、リンと共に底知れぬ深い地獄に向かって堕ちていく。
     堕天すれば最後、もう二度と天界で待つ友人や家族とは会えない。天使に戻るのも絶対に叶わないだろう。
     イサギの前で黒い口紅で淡く彩られたリンの唇が動く。
     「当たり前だろ。お前は俺だけを永遠に見ていればいい」
     イサギが避ける間もなく、瞬時に近寄ってきたリンの手がイサギの腰を抱き寄せ、はらりとイサギの背から再び抜け落ちた羽根が周囲に舞う。
     当然の権利を行使するだけだ、とでも言いたげなリンの瞳は、かつてイサギの前で小さなワガママを叶えて欲しがっていたのと同じだった。

     一瞬、全てを許してやりたくなる。なにもかも投げ出して、広い胸板に身を素直に預けられれば簡単なのだろう。
     でもリンはきっとそうなっても本当の意味で満足はしないし、イサギもまた、"そう"ではない。
     あえて強くリンの胸元を押して離れる。分かりにくいが少しだけ傷ついた表情を見せたリンの細い尻尾が苛立ちを示すように鋭く空を切った。
     「……俺が欲しいなら、壊してでも奪いに来い」
     「……テメェ……」
     「何も言わずにいなくなったくせに、急に現れて『俺だけを見ろ』なんて虫が良すぎるッつってんだよ」
     息を吸い込み、吐き出す。リンが堕天した理由は何となく分かっていた。
     消える直前まで共に居たリンの瞳に映る鉛のような重さを伴った感情を、イサギだって察せないほど"天使らしく"はなかったから。
     そうしてイサギもリンが居なくなって、ようやく、当たり前に傍にいたリンの影をずっと追ってしまうのに気が付いた。
     主に遣える事を至上とする天使にとって、主以外に向ける雑念はご法度だ。だからその邪念が隠せないくらいに大きくなってしまった異端者は、天使としての誇りでもある翼を切り落とされる。
     平穏で何の苦痛も存在しない天界を自由に飛び回る権利を剥奪され、混沌と愛憎に塗れた地獄へ追放されてしまう。
     さながら、禁断の実を食べて楽園を追放された原初の二人のように。
     そうしていっそのこと、そうなってしまっても構わないと考えていたイサギは、この地獄と天国の狭間でリンの影を少しでも忘れてしまわないように必死に記憶を繋ぎ止めていた。
     もう二度と叶わぬ事の無いであろう初恋を、忘れてしまわぬように。
     「俺はまだお前を許したわけじゃないから。……簡単に堕ちてなんてやらない」
     リンがどうやってこの場まで戻ってこられたのかは知らない。けれど、理不尽だと分かっていても、もっと早く来られなかったのかという文句を言外に乗せる。
     「だから、お前がそのつもりなら俺を負かしてみろよ。リン」
     その言葉を聞いた途端、ギラギラとリンの瞳が美しい青だけを残して黒く変化していく。

     かつて何度か共に戦った時に感じた事のある天使にあるまじき破壊衝動と、タールのようにねばつく殺意。しかも昔はそれを隠そうとリンが努力していたのに、今は隠す気など微塵も無いのか全身から発せられる殺気がイサギを包む。
     それでもイサギは恐れなかった。何故なら、その執着心を向けられるのがあまりにも心地よかったから。
     とっくの昔にイサギも堕天してしまいそうなくらいの溢れて止まない感情を持っていた。
     それこそ主への信仰よりもリンへ向ける眼差しの方が熱を帯びてしまう己を知っていた。
     だが、どうせ向かう場所が決まっていると分かっていても、この男と運命を共にしても良いと信じられないならば、その立ち位置に価値は無い。
     一直線にイサギの名を呼びながら突っ込んでくるリンの姿を見ながら、イサギは悪魔のような笑みを唇に乗せていた。
    Toque para pantalla completa .Está prohibido volver a publicar