KISS ME LIGHT 聞きたくもない言葉や知りたくも無かった情報を耳にした時、人間というのはあまりの衝撃で"無"になるのだと初めて知った。
じわじわとその虚無感から立ち直っていく間もどうにか握り込んだままでいられたドリンクボトルは掴む力が強すぎて、ミシミシとプラスチックの軋む音がする。
中身がほとんど残っていなかったのだけが幸いだった。もしも満タンの状態だったなら、勢いよく壁に投げつけて辺り一面がスポーツドリンクまみれになっていた筈だ。
簡単に思い描けるその行動を実行しなかったのは、プライドと理性、それからほんのひとさじの好奇心が顔を覗かせたから。
本当なら今すぐにでもこの場を立ち去るべきだと分かっている。けれど、ついつい聞こえた会話の続きを求めて足は勝手に歩みを止めていた。
6644