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    凛潔/アリナミンボイスネタ

    グローグリッター 人混みの中でも分かるくらい体格のいい背中。その後ろ姿を一歩引いたところから追いかける。
     腿辺りまで長さのあるブラックのジャケットに、差し色めいた落ち着いた淡いブルーのマフラー。それからダークブラウンのパンツを履いた凛は帽子など被っていないからか、歩いている間も周囲の視線をさらっていく、
     きっとモデルか何かだと思われているのだろう。すれ違う度に可愛く着飾った女の子たちが口元を抑えてきゃあきゃあと騒いでいる声が聞こえた。
     確かに喋らなければ滅多にお目に掛かれないくらいのイケメンだ。でも、口を開けばすぐに『時間のムダ』やら『雑魚・カス・アホ』なんて暴言はしょっちゅうだから、潔は騒いでいる女の子たちに糸師凛の口癖を逐一ちくいち教えて回りたくなる。
     けれど、そんな年下の暴君エゴイストに親しみを覚えているのも事実で、潔は結局何も言わないまま凛の後ろを追いかけている。というよりも、スマホを開いていないから凛を見失ってしまったら迷子になってしまう恐怖もあった。
     クリスマス間近かつ、人の密集している都心でこうしてたまたま出会ったのは本当に奇跡だろう。
     しかもそんなつもりなど凛には全く無いだろうが、まさか一緒に買い物に行けるとは。潔は吐き出した息が白く流れるのを無視して、気を緩めれば一瞬で距離が空いてしまうと必死で足を動かしていた。

     "青い監獄ブルーロック"の機材調整の関係で、わずかな期間だけ自由を認められたストライカー達は殆ど自宅に帰る者ばかりだった。
     どうしようかと悩んでいたものの、どうせここに居てもサッカーは出来ないと告げられた潔も仕方なしに帰宅し、久しぶりに再会した両親からは盛大な出迎えを受けた。
     出てくる料理ひとつとっても、一人息子である潔の意思を尊重してくれる優しい親の勧めもあり、せっかくのフリー期間は家に閉じこもるよりかはちゃんと外出しようと一念発起した潔は、目的地にたどり着く前に既に疲弊しきっていたのだ。
     収監されている間に季節は移り変わり、至る所にクリスマスセールのポスターや煌びやかなオーナメントなどが飾られている。
     しかも”青い監獄ブルーロック”に居る間にすっかり曜日感覚を失ってしまっていて、今日はクリスマス前最後の土曜日だった。
     だからぎゅうぎゅう詰めに押し込まれた電車から吐き出されるように駅のホームに降り立った時、潔は自分の目を疑ったのだ。
     でもけして見間違えるはずはない。だってここ数か月間、生活を共にしてきてずっとその背中を追いかけてきたのだから。

     いきなり話しかけてきた潔に怪訝そうな顔をしていた凛はすぐに不機嫌そうな表情に変わったものの、それでも一緒にスポーツショップには行ってくれるらしい。
     凛の素直ではないが、意外にも良い奴なところを潔はものの数日で察していた。
     現に、足早になっている潔を察したのかスポーツショップの前でさりげなく振り向いた凛は、ちゃんとついてきているのを確認してから店舗に入っていく。
     慌てて開かれたドア内に滑り込めば、入り口から効いている暖房の温かさにホッと体の力が抜けた。
     広い店内には所狭しと色々な商品が並んでいるが、いくつかの階に分かれているのもあって、目的のサッカー用品は二階にあるらしい。
     元々ここのショップに来ようと考えていたのもあって、事前にネットで調べてきていた。
     「凛、二階行こ? サッカー用品はそっちらしいし」
     その言葉にチラリと潔の方を見た凛は、そのままエスカレーターへと向かう。
     店舗内は外よりか人は少ないが、それなりに混雑している。やはり土曜日は人がどこでも多いのだろう。エスカレーターの順番を待つ人の列に並ぶと、不意に潔のすぐ後ろに立っている凛が声を発した。
     「お前、何買うつもりなんだ」
     「んー……レガースとか買おうかなーって。あとは新しいスパイクがどんなの出てるか見たくてさ。凛は?」
     「適当に見る」
     「そっか。なぁ、お前が普段使ってるやつ色々教えてよ。っうわ……!」
     「バカ。前見ろ、怪我すんぞ」
     会話している間にエスカレーターが昇り切り、降りようとした際、段差に足を取られそうになる。
     鍛えているのもあって瞬時に腿に力を入れた潔よりも先に、支えるように腰をあっさりと抱き寄せた凛はサラリとそう言って一度潔の腰を叩いた。
     コート越しにでも分かる力強さとさりげない優しさに潔が礼を言うよりも先に、フン、とバカにしたように鼻を鳴らした凛の顔がいつもよりも近くなる。
     けれど、そのまま離れていく凛は特に気にした様子も無くて、潔は自然と火照ほてる頬を隠す為に巻いているマフラーに顔を埋めたまま小さなうなり声をあげるしか出来なかった。

     □ □ □

     てっきり別行動になるかと思いきや、意外にも潔の横にずっと居た凛は、ショップ内ですら注目の的だった。
     女の子たちから向けられる眼差しとはまた違ったそれは、服の上からでも分かるくらいに凛の身体が仕上がっているからなのだろう。
     けれど凛はそんな羨望の視線すらも慣れ切っているらしく、どうでも良さそうにしながらも暴言交じりに的確なアドバイスをくれた。
     自分の強さの糧になるのなら、凛は色々な物を調べたり試したりするのを怠らないのだろう。
     結局、潔は凛に言われるがまま気になっていたアイテムをいくつか入手し、巨大なショッパーを片手に店舗のドアを開けた頃には、既に外が暗くなり始めていた。
     「結構時間経っちゃったな……、あ……凄い、キレー……」
     店舗から出てすぐの大通りに立ち並ぶ他のブランドショップや、街路樹に取り付けられていたLEDライトが薄闇を照らすように徐々じょじょに端から光を放っていく。
     キラキラと輝く淡い光は瞬く間に周囲に広がって、あっという間に潔と凛の頭上をも照らし出していた。
     特に行く宛も無いまま人の流れに乗ってイルミネーションの下を歩く時間は、もどかしさと優越感を潔へと与えてくる。
     この優越感が一体なんなのか。──答えはすぐ傍にある気がするけれど、見つけてしまうのは少し怖い。
     ふと、顔を横に向ければ同じように潔を見ている凛と視線が絡む。
     ターコイズブルーの瞳は無機質さと涼やかさを保っている事が多いが、降り注ぐ光によって普段とはまた違った色に見えた。
     「……今日、付き合わせちゃってごめんな。別の用事あったんじゃねぇの?」
     「……ただ行き先が同じだっただけだろ」
     「そうなん? それならいいんだけど……、……」
     妙な沈黙に堪え切れず先に声を発した潔が一度目線を外す。凛に向けた謝罪の半分は本心で半分は嘘だった。

     本当に悪いと思うなら、別行動にしようと自分から提案すればよかったのも分かっていたし、さらには途中から凛との会話が面白くてわざと時間を費やした自覚があったからだ。
     だってこの機会を逃したら、恐らくもう二人っきりで出かけるなんて難しいだろう。
     "青い監獄ブルーロック"で出会わなければ凛と潔の存在が交わる事は無かった筈だ。その上、地元も離れている。
     そして"青い監獄ブルーロック"に戻ればまたサッカー漬けの日々が始まって、こんな風に他愛もない日を過ごすのだって難しい。
     「あのさ……」
     もう少しだけ一緒に居ない? という提案をする前に、耳へと入り込んできた言葉に意識が奪われて口をつぐむ。
     声の出所を見れば、お洒落な格好の美人二人組が立っていて、凛の容姿についてひどく騒いでいた。しかも片方は今にも凛に声をかけようとしている。
     五感が鋭い潔にとって、人混みでも細かな声を聞き分けるのは容易い。それを求めるかどうかは別にしても、勝手に聞こえてきてしまうのもあって無意識に身体が反応してしまう。
     「おい」
     だが、一瞬でも意識を反らしたのを許さないとばかりに、薄がりの中で潔の腕を掴んだ凛が強く潔を睨んだ。
     そのまま背後に一瞥いちべつだけを投げつけると、駅へ向かう人たちの流れに逆行するように進んでいく凛に流石の潔も驚くばかりで声すら出ない。
     しかも掴まれていた腕から段々と凛の指先が下りて行って、手首を握り込まれている。
     手を繋いでいるワケではない。でも、ほぼそうなっている事実に混乱している間に大通りから離れたひと気の少ない路地まで連れてこられた潔は、ようやく口を開いた。
     「……凛、急にどうしちゃったんだよ……」
     「テメェが……」
     「俺が……?」
     首を傾げた潔に特大の舌打ちをした凛は、そのまま握っていた手を払うように離す。
     ここだって人が全くいないワケではないし、遠くの方ではイルミネーションだって見える。でも、伝えられなかった言葉や出来なかった行動が今なら出来る気がした。

     持っていたショッパーに手を伸ばし、中からラッピングされた物を取り出す。
     黄緑と白のストライプ柄の包装紙にたんぽぽのように黄色のリボンをあしらった箱。会計の際に凛が近くに丁度いなかったのもあって、折角ならと綺麗に包んでもらったものだ。
     中身は凛が実際によく使っていると言っていたサッカー用品がいくつか入っている。
     これを渡したかったのもあって、もう少し時間が欲しかったのだが、渡すなら今しかないだろうと潔の直感が告げていた。
     「……これ……」
     「……なんだよ」
     「今日、付き合ってくれたから……あと……その……クリスマスも近いし……いらなかったら捨てて」
     半歩前に出て、凛の胸元へとそれを押し込める。潔が持っていた時よりも一回り小さく見えるのは、体格差のせいだろう。
     それこそすぐさま突き返される可能性もあると考えていた潔の予想を裏切って、眉根をしかめたままではあるが凛はプレゼントの箱を抱えたまま、困惑したように囁いた。
     「お前、本当にムカつく。……しかもこのまま持って帰らせる気か?」
     「ムカつくってどういう意味だよ?! 確かに袋は用意してなかったけどさ! ……どっかで袋とか買う?」
     「買う。……お前もついてこい」
     「うん」
     しかしすぐには動かない凛の横に立った途端、肩にかけていたショッパーを取られてしまう。
     そしてそこに持っていたプレゼントをもう一度しまった凛は、そのままショッパーを自分の肩にかけた。
     「え、あの、凛……?」
     「袋買うまでこの中に入れとく」
     「それは全然良いけど、そしたら俺が持つよ」
     「うるせー」
     有無を言わせぬ行動の割に、歩く速度は先ほどより緩やかな凛のすぐ横に立った潔はそっと凛を見上げる。
     風によって揺れる前髪を煩わしそうに顔を振って避けた凛を見る人は今、潔の他には誰も居ない。
     そうして再び潔を見下ろした凛の瞳は冬の湖のように穏やかだった。
     「行くぞ、潔」
     自分だけに向けられた視線と言葉。その貴重さを潔はよくよく知っている。
     ここは街灯の明かりだけだからと、潔はわざと凛に肩先が触れ合うくらいの距離まで近づくと、今度こそ凛と同じ速度で歩み始めた。
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