座椅子「コーウ、おいで」
不意に読書に浸っていた水奈瀬コウの耳に、自分の名を呼ぶ同居人の声が届く。
本から視線を外し声がしたほうに顔を向ければ、タカハシが胡座をかきながら膝をポンポンと叩き、何が楽しいのか微かに横に揺れながら笑っていた。
小さく息を吐きながらコウは諦めたように本を下ろし、口を開く。
「……なに」
「見たらわかるでしょ、コウ専用座椅子だよ」
「……そう、今日は使わないからしまっといて」
あしらうようにおざなりに手を振って再び本に視線を戻すコウに、タカハシはあからさまに不満気な表情を浮かべると徐に立ち上がると、そのまま本の虫の真後ろに無理やり座り込んだ。
「ちょっ、お前なぁ」
「勝手に座椅子するのでお構いなく」
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