淫魔モルとりょうたさん(涼衛)-誕生日-「…うん。うん……あは、そうだね。母さんも身体には気を付けて?…うん、ありがとう。またね。」
スマホで通話を終えると涼太は大きく伸びをした。
今日は6月6日…涼太の誕生日である。
日付けが変わった頃からお祝いのチャットでけたたましく通知音が鳴っていた。
母親との通話を終え大学へ通学をする準備をする。
目の前で嬉しそうにする涼太を見ながら淫魔で恋人のマモルが頭を傾けた。
「りょうたさん、今日はご機嫌ですね?」
「…ああ、うん。俺の誕生日だからね。皆からお祝いされて嬉しいよ。」
「えっ!?今日ってりょうたさんが生まれた日ですかぁっ!?」
何も用意してないですぅ…としょぼくれる淫魔。
涼太はそう言えば教えてなかったとヒヨヒヨするマモルにクスッとする。
「教えてなかったからね。…でもいいよ。こうやって日々面白いマモルが見られるから、それで十分だよ。」
「…イケメンな事言ってるなぁって思いましたが……それって俺が笑いものにされてる的な事ですか……?」
ニコリと王子様スマイルをみせる涼太。
からかいましたねと怒り出すマモルの頭をポンポンあやしながら、そういうクルクル変わる表情が楽しくて可愛くて飽きないんだよなぁ。とひとり心の中で惚気けた。
涼太が大学へ行き、ひとりお留守番になったマモルは悶々とした。
涼太への誕生日プレゼントはどうしようか…と。
家の中をウロウロとさまよっていると、物置部屋にしてある部屋に何かが布に掛かっているのを目にする。
マモルはそっと布を捲り中を覗いた。
「これは…………」
講義を終えた涼太は同じ講義を受けていた友人達に誕生会しないか?と誘われる。
自分を祝ってくれる気持ちは嬉しいが、この前の合コンの沙汰を思い出すと少し…
今回は合コンじゃないにしろ、またマモルが要らぬ勘違いで自分から離れようとしたらたまったものではない。
するとこの前の合コンの幹事が涼太の肩に手をついた。
「桜庭カノジョ持ちだから今日は忙しいと思うぞ〜?この前の合コン抜け出してカノジョの所に行ったぐらいだし。」
「うわ〜、マジかよ……ってか桜庭彼女いたのか〜誰だよ、連れて来いよ〜!」
悔しがる非リア充の面々。
彼女というか……彼氏……?人間ですらないから何と表現したらいいのか…。
とりあえず幹事からの助け舟に乗じてその場をしのいだ。
大学からアパートに帰宅し部屋までの通路を歩いていると、どこかの部屋からピアノの音が聴こえてくる。
それが自分の部屋からだと気付き、逸る気持ちで鍵を挿しドアを開けるとその音を強く感じた。
今涼太の部屋にいるのは淫魔のマモル1人だけだ。
「マモル?」
「あっりょうたさん、おかえりなさい♪」
「……ピアノ弾けたんだね?」
「はい!実は得意だったりします…」
クラシカルな曲をさらさらと演奏する。
あのマモルからは想像出来ない優雅さにギャップを感じる。
淫魔もピアノ弾けるのか……
「ピアノ勝手に使ってしまってごめんなさい」
「いいよ。……それよりもっと聞かせてよ。」
「はい…」
マモルは続けて鍵盤に指を置く。
電子ピアノなのが惜しい程綺麗な演奏だ。
涼太は暫く聞き入った。
「マモル、素敵なピアノ演奏だったよ?…マモルがピアノ弾けるなんて意外だったけど。」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます淫魔にしては珍しい趣味だと言われます…!」
マモルは淫魔の中でも珍しい音楽の才能を持していた。
中でもピアノは得意とするものだった。
淫魔が趣味を持つ事自体レアなケースであり、さらに性的な内容でない趣味は存在しないに等しい程である。
普段のマモルの鈍臭いとも言えるような行動の数々からは想像出来ない程の繊細な音を奏でる。
「まぁ……出会った時も何か変な淫魔だなって思ったしね。」
「え…そ、そんなに俺……変な淫魔ですか……?」
そういうところだよ。と涼太は笑う。
淫魔にしては律儀で健気な性格をしている。
今ではその言動の数多が愛しく感じる。
涼太はそっと衛の背中に手を置いた。
涼太の優しい微笑みに衛の表情も綻ぶ。
「あの…りょうたさん?実はもう一曲聴いていただきたい曲がありまして…」
「本当に?勿論、聴くよ。」
涼太は瞳を輝かせている。
この数時間ですっかりマモルのピアノ演奏の虜になっていた。
昔ピアノを演奏していただけに、マモルの技術の高さに感動し惚れ込んだ。
マモルは涼太が大学に行っている間に作った定規で線を引いたお手製の五線紙を楽譜台に乗せる。
涼太と出会ってからの事を音にして作曲した。
初めて出会った日の夜、桜の木の下での告白、心が通じ合った夜、そして一緒にいる幸せな今を。
涼太への大好きの想いも沢山音に込めて。
「りょうたさん、誕生日おめでとうございます!りょうたさんのために一曲作ってみました♪」
「最高だね。早く聴きたいな?」
「ふふっ。では……大好きなりょうたさんへ。『桜の邂逅』」
桜の香りような甘やかな旋律が部屋に響き渡った。
END