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    ましわか丸

    @kusattamagokoro

    こうまもおいしぃ。

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    ましわか丸

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    てんぞくまぞくさいどすとーりー

    ##てんまぞ

    なんかけんりょけんとかまこみつとか【天風先生と助手さんの話】

    「ーーーーーー………」
    地の底から這い出でるような極めて低い音が、この中性的な美青年から出ているとは誰が思おう。
    天族のリョウタは仕事を小説家として活躍する一方、オフは自ら作成したウェブサイトに趣味用で小説を執筆している。
    「小説家 天風桜」として一定のファンがいる中で、更にコアなファンだけが開ける幻のサイトである。
    地鳴り声をあげる今、趣味用の小説をアップロードし終わったところだ。
    普段のリョウタは髪を編んだハーフアップにしており見た目麗しい姿をしているが、今の姿はというと…
    「眼鏡に前髪を上げて髪を一本に束ねてる……誰が美意識高いリョウだと気付くんだろーな。」
    声が聞こえる方を見なくても分かる。
    親友のケンスケだ。
    タイミングを見計らっているのか、いつも修羅場が終わる頃にリョウタの元に現れる。
    「うるさいよ。…こんなのじゃ俺の美は損なわれるわけないだろ。」
    「ははっ。自信を持って言えるところがさすがば!」
    茶化してるの?と文句を言いたいところだけど、出来るだけ省エネにしたいので堪える。
    リョウタが机に突っ伏してる横を、ケンスケの手が通り過ぎマウスを握った。
    一つのクリック音が聞こえると、画面は先程仕上がった趣味用の小説のリンク先へ切り替わった。
    「うっわー……今回も中々にエグいなぁ(笑)俺の乱れ方ヤバくない?」
    「……ケンが受けすぎるのが悪い。」
    「そんなキレ方初めてされたわ。」
    理不尽極まりない物言いをされたケンスケは流石に呆れた。
    だが、それも承知の上でリョウタの元へ来ている。
    「天風せんせーはお疲れの事だし……労わってあげてもいーけど?」
    これがケンスケの誘いの言葉だ。
    直接的ではない言葉で甘えさせる。天邪鬼なリョウタの事を熟知してのことだ。
    「いや……きょうはそっちの気分じゃない……から……譲ってあげる…。」
    「え、めっずらし。了解!…じゃあ、まずは散らかってるこの紙を片付けないとな先生の修羅場は激しいから…」
    「…はいはい。わかった、わかった。」

    所謂「そういうムード」も「甘い言葉のひとつ」もなく事は始まり、更に上下すら気分で決まる。
    この二人にしか分かり得ない世界があり、深い愛があるのだろう。




    【いつの間にか熟年夫婦の生活を送っていた二人】

    「ねー。マコトは良い子いないのー?」

    天族のミツルはおやつのケーキを頬張りながら、同じく天族のマコトに話しかける。
    言うなれダル絡みというやつだ。
    質問の意図が見えないマコトは眉間に皺を寄せたが、見上げてくるアメジストの瞳は答えを待っていた。
    マコトはひとつ溜息をつくと、とりあえず意味不明の問いに返答する事にした。
    「んなもんいねぇよ。」
    「えー?なんだよーつまんなぁーい!」
    何故突然そんな事を聞いてくるのかは分からないけれど、ミツルは時々何か心配事や悩み事があると寂しそうな困り顔をしながら謎の質問をしてくる。
    軽い奴だと思っていたが、長く付き合ってみれば意外と繊細な性格をしていると気付いた。

    注いだばかりの紅茶を冷ましながらひと口啜ったミツルは、ふぅっ…と短い溜息をつくと再び喋り出した。
    「もし良い子がいたらそっち行ってもいーよ。」
    「…何だ急に」
    「ん〜?別に対じゃなくてもパートナーになれるじゃん?……俺とずっと一緒なのもかわいそーだなって思って。」
    それを聞いたマコトは、お前そんな事考えられるのかと驚愕したが今は真面目に相手した方が良いと判断し、一旦心の中に押し留めた。

    ミツルとは生まれた時から隣にいて、当たり前の様に対だと思って育ってきた。
    時が経って天族として成人する前に案の定ミツルはマコトの対であると分かり、心底どれだけ嬉しかったか。
    長い関係が故に、つい照れ隠しでお互いの関係を腐れ縁だの何だの言ってきた。
    だが、今こそしっかり対である事に後悔は無い事を伝えるべきだ、不器用でも言葉にするべきだとミツルが不安になっているこの状況になって思った。
    「お前こそずっと俺と一緒で飽きないのか?…その、なんだ……面白くないだろう?」
    「え……あ、飽きるワケないじゃん!マコトのリアクションマジでツボだし、何だかんだ付き合ってくれるし…悔しいケド男前でカッコイイし?」
    「……そうか。…なら問題無いだろ。」
    「ちょっと待って……どうしたのマコト?何か変なものでも食べた…?」
    「ああ、そうかもしれない。本音を言うキノコでも食ったかも。」
    「本音を言うキノコって…」
    「いいから聞け。…俺の対は生まれた時からお前で、俺はお前といて…その…楽しいと思ってる。…で、お前も俺といて飽きてない。…一緒にマモルの事に一喜一憂して楽しく暮らしてる…わざわざ俺が他のパートナーを作る理由があるか?」
    ミツルの瞳が揺らいだ。
    ぎゅっと口元を結ぶと、少しわなないた声で今度はマコトの質問に答える。
    「……ない……です……」
    「じゃあ、今まで通りだな。これからも一緒に暮らそう。」
    「…フツツカ者ですが……。」
    「ふっ……熟年離婚にならなくてよかったな?」
    「も……もーーー!!!!ホントなんなのーー!!!!信じられなーーい!!マコトって俺の事超好きなの!?言葉にしろよーー!!!!いつも言ってよーーー!!!!」
    「俺のキャラじゃないだろ」
    いつもより素直に答えたマコトに対して照れギレしたミツルは、手を付けていないマコトの分のケーキを横取りしてヤケ食いした。




    【人間界でお仕事する天風先生と助手さんの話】

    「へぇ〜、これが天風せんせー由来の花なのかぁ〜」

    桜並木を並んで歩いている天族のリョウタと魔族のケンスケは人間の姿をしている。
    「天風桜」のペンネームで執筆しているリョウタの小説を気に入り、出版社が雑誌のコーナーでの連載を提案してきているそうだ。
    「それよりさ〜…なんで女装してんの?」
    「…人間って色々面倒くさいんだよ…。まぁ、女の俺の美貌でコネを作るっていうのもあるんだけど。」
    「闇深っ。人間のお偉いさんってのはスケベが多いのか…」
    今のリョウタの姿は、白のフリルブラウスにタイトなスカートを召した所謂オフィスカジュアルのスタイルである。
    リョウタ曰くこのスタイルがお偉いさん受けが一番良いらしい。
    「一部ね。…俺はまだその一部にしか会ってないけど。」
    「逆に運が強い。」
    「まぁ、今日はへっぽこだけど助手がいるからね。…か弱い乙女を全力で守れよ?」
    「か弱……はい。仰せのままに…」
    桜並木は一歩進む事にどんどん彩を深めていく。

    すっかり日も暮れて藍色の宙が広がっている。
    出版社での交渉も終え、今度は夜桜の桜並木を二人で並んで歩いている。
    行きとの二人と違うのは、何処かこそばゆい気恥しい雰囲気を纏っていることだ。
    「…ケンごめん。あんな事言う予定は無かったんだ…。」
    「いや…あの場面ではああ言わないと無理ゲーだったんだろ?」
    どうやらリョウタはまた「一部」に引っ掛かってしまったらしい。
    下心が透けて見える「お偉いさん」からしつこくディナーに誘われたようだが、あまりにもしつこいので控え室にいたケンを連れ出し「最愛の夫が待っているので今日はすみません〜♪あ、連載よろしくお願いしま〜す♪♪」と言って出版社を後にした。
    何故あんな行動に出てしまったのだろう。冷静に考えたら他にいくらでも回避方法があったじゃん…と顔から火が出る程の思いを蒸し返すリョウタは夜桜を見る事なくずっと顔を手で覆っている。
    すると、ケンがスっとリョウタの腕を優しく掴み、顔を覆っていた手を剥がす。
    「でも頼ってくれて嬉しかったぜ?…人間の世界では最愛の夫演じてやるから……リョウも俺の最愛の妻演じてよ…?」
    「……そんなに人間界来ること無いだろ?…って言うか、ケンからプロポーズとか2000年早い。」
    「プロポーズ…これプロポーズ…か。…よく考えたらそうかも…?」
    「はぁ。…また出版社から呼ばれたら連れ出すから…覚悟して精々いい夫演じなよ?」
    「…!…もちろん!せんせーと最愛の妻のためなら!」
    「調子に乗るなっ」
    「あでっ」
    人間界で仮の夫婦となったリョウタとケンによる「一部」との戦いはまだ始まったばかりだ。

    【媚薬が効かない天風先生の話】
    「ねぇ、コレ食べてみて?」

    だる絡みとも取れるような声音で天族のリョウタは何かを差し出してくる。
    それが何かを知っていながら律儀に魔族のケンスケは受け取り、それをおてだまの様に手の上でぽーんぽーんと投げては受け止める。
    「せんせーさぁ?こんなん食わせて……ナニする気…?」
    「顔がうるさいよ。…何個食べたら言葉だけでイケるか知りたくて。」
    「至極真面目な顔してエグい事言いおる……「エロ同人みたいに…」って台詞あるけど…せんせーはエロ同人そのものだよな。存在がエロ同人?歩く同人?…あ。飛びもするか。」
    リョウタは顔に魔族の衣装の様な真黒い笑顔を貼り付けて思いっきり背中を叩く。
    見事に痛点にクリティカルヒットし、床で熱に躍る鰹節のようにヘナヘナとケンスケは崩れ落ちた。

    「…で、マジでなんでそんな実持ってるの?」
    「…気になるんだよね…………効果。…どんな気分になるのか…どこまで理性が働くのか…。ケンはスグにグズグズに蕩けるから参考になんないし。」
    「薬盛っといて…散々な言われようだな。」
    ケンスケが手にしている白くて丸い実は「たまごの実」である。
    この実は野生に生息しており、見た目がぷるんとしていて毒性が無いように思える。
    実際毒は持っていないが、その実の果汁に媚薬成分が入っている。
    耐性にもよるが、ひと口で火照り、ふた口で全身が性感帯になり、さん口目で思考停止。といった効果が昔から言い伝えであるとか無いとか。
    「俺は身をもって体験出来る事は何でもやってみたいって思うんだよね。…小説家としても。永く生きる者としても。」
    「へぇ〜、チャレンジャーなんてかっこいいじゃん?」
    「……みかん。そこの棚に入ってる。」
    「うっそ……マジで?サンキュー♪」
    「……スランプ…なんだよね。」
    「リョウでもそんな事あるのか…」
    「ケンは俺のこと何だと思ってるの…」

    官能小説の仕事を一件引き受けて、その内容がマンネリを機に媚薬を使用した男女の話であった。
    リョウタは今まででも媚薬を使う話を書いて来たが、今回はガッツリ媚薬がメインの話なので困り果てている。
    経験をすればとケンスケの持っているたまごの実に手を伸ばしても、リョウタにはただの甘ったるい果汁を滴らせる木の実でしかない。

    リョウタには媚薬が効かないのである。

    「本来なら効かなくていいんだけど…」
    はぁ……と吐かれた重い溜息がリョウタにとってどれ程深刻なのかを物語らせる。
    「でもさ、それって全部の媚薬で試したの?」
    「いや…全部ってワケじゃないけど…この世界で一番効き目があるのも効かなかったし…」
    う〜ん…と腕を組みケンスケは考え込む。すると答えが導き出されたのか頭上に電球マークを出し、勢いよく椅子から立ち上がった。
    「せんせー!今から人間界に行かない?」
    「え…何しに…?」
    「秘宝を探しに☆」
    「秘宝…?」

    ケンスケに連れられて降り立った地は人間界の秘宝館と呼ばれる場所だった。
    店内に入ると眩しいぐらいカラフルなネオンといかがわしいとも思えるポスターやPOPがびっしりと張り巡らされている。
    ケンスケが何故こんな場所を知っているのか…それはもう一人の魔族の親友による入れ知恵であることは明らかだ。
    リョウタも何度もこの手の場所をその親友からオススメされていたが、己の美学に反する(単に下品だと思う)場所だったので入店しようなんて一ミリも思っていなかった。
    「なに…秘宝館ってアダルトショップの事だったの…。俺、こういう場所キライなんだけど?」
    「まーまーまー。…ここには沢山の種類の媚薬があるってコウから聞いたからさ。」
    「…だと思った。…そんなに種類があるの?」
    「らしいぜ!もしかしたら人間界のは効くかもじゃん?」
    「まぁ…無きにしも…」
    「なら試す価値あんじゃね?」
    リョウが苦手なら俺が買ってくるからとケンスケはその場を離れようとすると、リョウタはケンスケの服の裾を引っ張った。
    「…こんなところで『愛する妻』をひとりにする気?」
    「リョウ?」
    リョウタの方を振り返ると、後方の商品棚の物陰から男たちが数人こちらを見ている。勿論、視線は全て目の前のリョウタに向けてのものだった。
    今のリョウタは女装をしていて、どこから見ても美しく可憐な女性の姿をしている。
    棚の奥の男たちは女装しているのリョウタの事を狙っている。
    ケンスケはこの姿に見慣れてしまっている事を悔いた。
    リョウタの手を取り指を絡めて恋人繋ぎにすると、棚の奥の男たちを睨みつけると足早にその場を去った。

    「なんとか買えたなぁ〜」
    「中々…面白かった」
    「あらま、お気に召したようで?」
    「あの野郎共は気色悪かったけどね。…ケン、助かったよありがと。」
    「へへん♪せんせーの旦那やれて楽しかったぜ?」
    気になる物も買え上の世界に帰る流れであったが、流れを思いっきり断つような一言を発する。
    「ラブホ……連れてって。」
    それはもう小さなか細い声で強請る。
    勿論ケンスケは喜んで了解!と返し、再びふたりは指を絡め恋人繋ぎをしながら夜の眠らない街へと消えて行った。

    翌日、上の世界に帰ってきたふたりはというと…
    ケンスケは目元が赤く腫れ、声もガラガラに枯れていた。
    対するリョウタは肌ツヤがとても良く、元気に原稿に取り掛かっていた。

    人間界の媚薬は天族と魔族には強すぎたようで、媚薬が効かないはずの天風先生はバッチリケンスケを抱き潰したらしい。
    さすがの天風先生も効いたようです。
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