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    yuysn_2gk

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    yuysn_2gk

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    割泡さんのツイートを元に書かせて頂きました。許可くださりありがとうございました!

    ※現パロ
    ※ひたすら月島目線で話が進みます。
    ※それらしいことを言っていますが、それらしいことを言わせているだけです。ふんわりと読んで頂ければ幸いです。

    鯉月 / 美術館デート この絵は、一体何を表しているのだろうか。何を伝えたいのだろうか。
     誰が描いたものなのか、何時描かれたものなのか。
     絵を見ただけでは何一つわからない。けれど、謎だらけのそれを静かに眺める彼の横顔は、その場にあるどの絵画よりも綺麗なのだということだけは、はっきりとわかった。

     彼とともにこのような施設を訪れることは何度目だろうか。指を使って数えようにも、自分一人の手だけでは足りない。多少ズルだが足の指を使っても、それでもまだ足りない。それだけたくさん絵画を見る機会を与えて貰えているのに、やはりこれらの良さがいまいちよくわからないままだった。
     ――この場所では、壁に掛けてある謎だらけの絵画が、ショーケースに入れられているよくわからない陶器が、いつまで経っても同じポーズを取り続ける彫刻が、鑑賞をして回る我々“観客”からしたらどれもこれもが主役なのだ。そんな主役を照らすスポットライトのおこぼれを受けて凹凸をはっきりさせる彼の横顔を眺める。それが、こういう場を訪れた際にのみ出会える一等好きな瞬間だった。
     観客である彼は、その役割通りに主役をじっくり観察しては感嘆の声を上げる。その姿はあまりにも様になっていて、観客であったはずの彼までもが主役になってしまったような、そんな感覚を抱いてしまう。
    (まるで絵じゃないか)
     そんな思考が急激に彼の存在を遠くに感じさせてしまうようで、行かないでくれと彼の服の裾を咄嗟に掴んでしまった。
    「どうした?」
    「いや、別に」
     ひそひそと声を潜ませて交わすやりとりに安堵の息が漏れる。近くにいなければ聞こえないようなささやかな声がちゃんと聞こえる。彼の存在を近くに感じることが再び出来たならば一安心。普段着回しているスウェットやパーカーに留守を頼んでまで着て来たカジュアルスーツが少し窮屈で、安堵のため息を漏らすついでにシャツの襟元に指を一本引っ掛けてゆとりを持たせた。自分が肥えた可能性なんかには見向きもせず、小さくなったかななんて、この息苦しさをスーツの所為にした。
    「喉が渇いた。少し休憩しよう」
     またですかと顔をしかめれば、彼は困ったように笑みを浮かべながら小さな謝罪を二度囁いた。
    (さっき紅茶飲んでたよな)
     彼がティーカップに鼻を寄せる姿は記憶に新しい。美術館内にある喫茶店で茶を飲んだのは、つい三十分ほど前の話だ。目敏い彼はきっと、窮屈な襟元を引っ張り息をつく姿を疲労によるものだと考えたのだろう。折角気を回して自分が休憩をしたいと訴えたんだ。彼のさりげない気遣いを冗談めかして暴いてやるのは気が引けて、口を閉ざして彼の後に続いた。
    「息が詰まるか?」
    「そういう訳では。……ただ、何回来ても自分が来るべき場所じゃない気はしますね」
    「誰が何処に行こうとその人の勝手だろう」
     一度外に出て、小さな缶コーヒーを一つ自販機で購入する。そのすぐ近くにはここで休めと言わんばかりに設置されたベンチがあって、自販機と向き合う彼を一瞥してからそれへと腰掛けた。次いで隣へと腰を下ろした彼の手には、案の定何も握られてはいなかった。
    (やっぱり喉渇いてないじゃないか)
     背もたれに寄りかかり空を見上げる彼を盗み見て、缶コーヒーのプルタブを押し上げた。
    「様々な人物が、様々な時代に、様々な場所で感じ得たものを絵や彫刻、作品として後世に残している。素晴らしいと思わんか?」
    「はぁ……まぁ、それは確かにすごいことだとは思いますが……」
     あまりピンときていないように見えたのだろう。彼は可笑しそうにクスクスと笑って、見上げた空を指差した。
    「写真ならば、今そこにあるものを間違いなく記憶させることができる。しかし人の感性とは不思議なものでな。この青空を夕焼けだ、夜空だと思う人もいるかも知れん。その人それぞれの感性によって生まれた未知の世界があの場所にはあるんだ」
     そう言って、すぐ近くの美術館を見やった。
    「そういう風にあの絵画や何やらを見ることができる、そんな鯉登さんの感性と俺の感性が違うのも、人それぞれってやつですかね」
     そう返せば、彼は参ったなと言うように頭を掻いてぎこちなく笑った。
    「そういうことを言いたかった訳ではないんだが……。でも確かに、そういうことなのかもな」
     ふぅっと、息を吐き出した彼は再び空を仰ぎ見る。彼の目には、この青空は何色に映っているのだろうか。純粋に、興味が湧いた。
    「……感じるものが全然違うのなら、知りたいです。貴方の目で見る世の中も、遠くの誰かが描いたものも」
    「私も、もっとお前のことが知りたい。随分と知った気になっていたが、まだまだ知らないことも多そうだ」
     外気に晒されて冷えた鼻先をちょんと指で弾かれる。一瞬触れたそこが想像以上に冷たかったらしい。驚いたような顔をした彼が館内に戻ろうと立ち上がる。座ったまま目線を上げて、飲みかけの缶コーヒーを差し出した。中身は彼が好んでは飲まないブラックで。
    「俺の感性です」
    「……これは感性とは言わんぞ月島ぁ」
     仕方がないと、缶コーヒーに口を付け傾ける。即座に顔を歪めるその人を見上げて笑って、先程までより身軽になったような晴れやかな気持ちで、今度は彼の隣を歩いて、感性の海へと足を踏み入れた。



    「これは随分と良い体だな。見てみろ!腹筋なんて月島みたいだ!」
    「鯉登さん、ちょっとこの彫刻と同じポーズとってみてください。貴方体幹良いからできるでしょう?」
     なんて、スマートフォン片手にはしゃいだことなんて過去にあっただろうか。撮影可能な場所で、どのようにして形作ったのか想像もつかないそれらの真似をして遊ぶだなんて。過去の自分に「こんなことをしたぞ」と教えてやったら驚愕の表情を浮かべるだろう。
     今までは、彼の話を聞きながらも何も感じず、ただぼんやりと眺めていただけだというのに。清々しい心が気分を高揚させていることが手に取るようにわかって、我ながら単純だと自嘲してしまう。
    「こういう楽しみ方もあるんだな」
     新たな発見に心を弾ませているらしい。音量を絞った彼の声が楽しげに空気中を跳ねた。
    「……月島はどうだ?楽しいか?」
     キョロキョロと人目を気にして、隙をついた褐色の指が頬を撫ぜた。
    「今まで何回も美術館に連れてきて貰いましたけど、今までで一番今が楽しいですよ」
     キメ細かい白い肌をした、誰かの感性の産物を見上げる。無意識の内に頬が緩んでいたらしい。彼の嬉しそうな声が「確かに楽しそうだ」と、優しく鼓膜を揺らした。



    「お土産?」
     珍しいなと、驚く彼の声が後ろから聞こえた。少しだけ、ほんの少し覗けたら良いのでと手を引けば、されるがままについてきてくれる。パタパタと駆ける音が思いの外館内によく響いて、顔を引き攣らせながら足を止めた。
     足音を最小限に体を滑り込ませたそこは、土産屋というには少々小ぶりな店だった。バリエーションとしては決して豊富ではない土産の並びを視線でなぞったその最果てで、その視線は動きを止めた。自身の瞳が釘付けになってしまったそこには、絵画を片面いっぱいに印刷した複数のポストカードがあって。
    「ポストカードが欲しいのか?」
     上から降ってくる声に頷き、足を目当ての売り場へと向けた。正直、これらの絵画を館内で直接見はしたが、未だに意味だ何だはわからないままだ。彼の横顔を写したポストカードがあるならそれを買うのだが。そんな本心を彼に伝えたところで、恐らくは照れ臭そうに冗談はやめろと呟いてそっぽを向いてしまうだけだろう。
     結局、絵画のことはよくわからないまま、一番在庫が減っているように見えるポストカードを一枚だけ購入した。そのポストカードに描かれている絵は、何やら覚えがあるような気がした。

    「そのポストカード、どうするつもりだ?」
     らしくもない買い物だったからだろう。帰路に、彼の不思議そうな声が添えられた。
     夕陽に染まる地面を踏み締めながら、ポケットに滑り込ませたそれを引っ張り出す。角が少し曲がってしまった。今度からは気を付けなくては。
    「……貴方との思い出にと。こういう手軽な土産や、パンフレットなんかを集めて、たまに眺めるんです。あの時はああだったこうだった、と」
     言いながら恥ずかしくなって顔を伏せる。視線を落とした先に見えたポストカードが夕陽を浴びて朱色に輝いている。それを見て、ハッとした。
    「良かね、それ。思い出がどれだけ分厚うなっか、今から楽しみじゃ」
     楽しそうに歩き出し、少し前に出た彼が振り返り手を差し出す。その手を取りながら思い出す。あの場所で、このポストカードに使用されている絵画を見つめる彼の瞳を。
     主役の美しさを際立たせる為のスポットライトの光が反射している。それを眺める彼の瞳に映る絵画は、反射した光を含んで、まるで夕陽を浴びたように朱色に見えた。
     彼の瞳が見るものをほんの少し垣間見ることが出来た気がして、やっと、彼の言ったことが僅かばかりでも理解出来た気がした。
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