夢花火5「ご予約されてた○○様ですね、お待ちしておりました!ささ、どうぞ中へ!」
営業スマイル100%で手揉みしながら、女性を奥のソファへ案内する。
胡散臭すぎる霊幻に女性は一瞬戸惑いを見せるも、おずおずと促されるがままソファに腰掛けた。
座った後も女性は終始落ち着かない様子で、不安げな表情で辺りをきょろきょろ見渡していた。暫し事務所を見終わった後、女性は霊幻に対し気まずげに小さく謝る。
「すみません、こういうところに来るのは初めてで……」
「いえいえ、お気になさらず。よろしければお飲み物を、コーヒーでもお持ちしましょうか?」
「……いえ結構です。カフェインは控えてますので」
そう言って女性は自分の腹をゆっくり擦る。
よく見れば女性の腹は微かに膨らんでいた。
「……なるほど。大変失礼致しました。後ほど温かい緑茶をご用意致しますね。あ、ただいま”霊とか相談所、リニューアル記念”キャンペーン中でしてこちら、次回使える10%割引クーポン券となります、有効期限は今日から1年となりますのでご注意ください」
「は、はあ……」
「それで○○様、今回はどういったお悩みでしょうか?」
「そ、そうでした……実は……」
胡散臭さ全開の霊幻にこれまた怪しいクーポン券を手渡され、若干、いやかなり引いてた女性だが、霊幻に問われ気を取り直したようで。持参してきた紙袋の中を漁り出す。
「一週間前、義母から妊娠祝いの品で戴いたものなんですが」
女性が紙袋から取り出したのは高さ20センチほどの木像でーー”それ”は日本人なら一度は目にしたことがあるかもしれない。
ふくよかな体、小槌と大きな袋、温和な笑顔。
「これは……《大黒様》、恵比寿神ですね」
恵比寿神、大黒様。七福神の一人で大変縁起が良いとされる神様の像だった。
商売繁盛、大漁の御利益があるとされ、信仰心が薄れた現代においても、福の神として非常に人気が高い。
そのため日本各地でこの神は信仰され、この像自体、別段珍しいものではなく、むしろ、一般的にありふれた品だろう。
田舎の古い家の居間に飾られていても何ら可笑しくない。
夜な夜な髪が伸びるおかっぱ人形、呪われたパソコン、呪いのネックレスなどなど。
これまで霊とか相談所に持ち込まれた品々とは明らかに雰囲気が違う。
むしろ幸運の代物じゃねーか。
一体どんなヤバいものがでてくるかと身構えてた霊幻は、少し拍子抜けした気分だった。
「御利益があるからと、玄関に飾っておきなさいって渡されたんですが……」
しかしそんな霊幻とは対照的に女性は縁起物であるはずの木像に対し、
「これ……呪われてる気がするんです……」
明らかな恐怖、嫌悪の視線を向けていた。