「柳岡はん、この後時間あるか?」
練習上がりはすぐにジムを出て行く千堂が珍しく残り、事務所で残務整理をしている柳岡に声をかける。
「おぉ、どうした?」
「いやまぁ、ちょっとな」
書類から目を離さずに返事をすると歯切れの悪い言葉が返ってきた。視線だけ千堂へ向けると、どうにも様子がおかしい。
いつもならこちらの様子なんて構わずに直接用件から話し出すような男が言い淀み、視線を合わそうとしないのである。
まさかまた何かやらかしたのか…と嫌な予感がよぎるが、まずは様子を見ることにした柳岡は視線を再び書類に戻す。
「後はもうここ片付けて閉めるだけや。もう少し待っとけるか?」
「わかった。ほなロッカーで待っとくわ」
扉を閉めて遠ざかって行く足音を聞き、柳岡はため息と共に眉間に皺を寄せる。
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