「あれこれ考えんと、ワイのもんになる言うたらええのに」
「………もうとっくにお前のもんや」
弾かれたように、伏せていた視線を戻す。
柳岡はいつのまにか背を向けていた。表情が見えない。
わずかに見えるのは、赤く染まった耳元。
「なあ、顔、見せて」
「……あかん言うたら、」
最後まで言わせず、肩を掴み無理やり自分の方へ振り向かせる。頬を両手で包み覗き込むとそこにはいつもの柳岡はいなかった。
少し不機嫌そうにしかめられた眉、所在なさげに伏せられた目にはうっすらと涙が浮かべられていた。その表情はまるで、
───まるで拗ねている子供のようだ
そう思った瞬間、ふっと笑みが溢れる。
「おっさんの顔がそんなおもろいか」
目線だけを逸らし、震えた声で精一杯の憎まれ口。頬が少しずつ紅潮していくのが手のひらから伝わる。