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    タケオ

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    クリスマスプレゼントの話

    #千柳

    「柳岡はん、この後時間あるか?」

    練習上がりはすぐにジムを出て行く千堂が珍しく残り、事務所で残務整理をしている柳岡に声をかける。
    「おぉ、どうした?」
    「いやまぁ、ちょっとな」
    書類から目を離さずに返事をすると歯切れの悪い言葉が返ってきた。視線だけ千堂へ向けると、どうにも様子がおかしい。
    いつもならこちらの様子なんて構わずに直接用件から話し出すような男が言い淀み、視線を合わそうとしないのである。
    まさかまた何かやらかしたのか…と嫌な予感がよぎるが、まずは様子を見ることにした柳岡は視線を再び書類に戻す。
    「後はもうここ片付けて閉めるだけや。もう少し待っとけるか?」
    「わかった。ほなロッカーで待っとくわ」
    扉を閉めて遠ざかって行く足音を聞き、柳岡はため息と共に眉間に皺を寄せる。
    ———最近大人しゅうしとると思っとったのに、今度はなんや
    急ぎ残りの書類を片付ける為に、心なしか重くなったペンを走らせた。


    「すまんな、待たせて。で、どないした?何かあったんか?」
    柳岡がロッカールームへ入ると、そこには一人足を放り出してベンチに座っている千堂の姿があった。
    「あー話っちゅうか…これ、やるわ」
    ベンチに座ったまま手に持っていた物を無造作に放り投げる。
    慌ててその手に受け止めた物は、真紅の包装紙に包まれた小さな箱だった。
    「なんや急に。」
    「今日クリスマスやろ。それっぽい事したい思ってな」
    クリスマス、という言葉を聞いて柳岡は目を丸くした。事務所で声をかけられた時に予測していた事態からかけ離れた言葉だったからだ。
    ———そういえば、今日は24日だったか。
    「開けてええか?」
    「ん」
    包み紙を開き箱を開けると、そこには小さなブランドロゴが刻印されたシンプルなシルバーのネクタイピンがあった。
    「…お前が選んでくれたんか」
    少し驚いた表情でプレゼントと自分の顔を交互に見てくる柳岡の反応に居心地が悪いのだろう、千堂は横を向いて「まぁな」と一言言った後少し口を尖らせていた。
    普段慣れない事をした時、気恥ずかしい時にするその表情。それを知っている柳岡は思わず顔が綻ぶ。
    「ありがとうな。嬉しいわ。こっちは何も用意しとらんで…今度何かお礼させてもらうわ」
    「ワイがあげたくて買うてきたんや。別にお礼なんて」
    変わらず横を向いたまま無愛想な返事を返すが、お礼、と言う言葉を口にした千堂はふと頭を持ち上げる。
    「なら、今欲しいもんがあんねんけど」
    そう言ってベンチから立ち上がり柳岡の方へ向き直る。
    今?何も用意なんて、と言いかけた柳岡の目をじっと見つめ、その頬に手を伸ばす。
    「なぁ、もろてもええか?」
    「…………」
    千堂の言うお礼の意味を察した柳岡からの答えはない。
    しかし赤く染まった目元が、伏せられた睫毛が、言葉にするよりも分かりやすく返事をしていた。
    少しの間があった後、まるで覚悟を決めたと言わんばかりにぎゅっと目が閉じられたのを合図に、唇を重ねる。
    触れるだけのキスを何度か交わし、ちゅ、と小さな音を立てて上唇を喰むと柳岡の頬がピクリと動く。その瞬間、千堂の舌が柳岡の唇から侵入し上顎をなぞった。
    「んッ…」
    自分から漏れ出た上擦る声に驚き目を開けると、そこには真っ直ぐに見つめてくる千堂の目があった。
    その視線の熱さに思わず逃げようとするが、それを逃すまいと千堂の右手が頬から耳を沿い、うなじをするりと撫で、ぐっと頭を寄せ上げた。
    「ん……っは、せんど、」
    「…まだや、まだ十分もらってへん」
    「や、もう、んんっ」
    息も絶え絶えに唇を離してもすぐに追いすがり再び塞がれ、舌を柔らかく吸い上げられる。
    いつの間にか千堂のもう片方の手は腰に回されぐっと力を込められていた。
    (あかん、…もう、逃げられん)
    宙を掻いていた柳岡の手が千堂の腕に伸び、遠慮がちに掴む。それを合図に絡めた舌をぢゅう、ときつく吸い、やわやわと噛み付く。
    「あ、んッ…」
    柔らかく熱い口内を余すところなく舌を這わせると、柳岡から甘い声が漏れ出る。
    その声すら飲み込むように、深く深く口付けを繰り返す。

    「ふっ…」
    小さな息を漏らし柳岡の唇の端から溢れた唾液を音もなく舐めとると、薄く開かれた唇から、はぁと吐息が溢れた。
    (そんなんされたらもっと欲しくなるやろ…)
    うなじに置いていた手をそっと背中へ下ろし、さらに下の方へと滑らせる。が、
    「!……ちょっと欲張り過ぎるんとちゃうか」
    いつのまにか顔を伏せた柳岡から、少し不機嫌だが未だ熱を持った声音で抵抗をされる。
    「んー?もうちょい欲しいくらいやねんけど…そや、このまま持ち帰ろかな?」
    「アホか」
    ぺしっ、と音をたてて頭を叩かれると、意外にも素直に柳岡を解放しベンチ傍に置いていた荷物を持ち上げた。
    「まぁええわ。今日は帰る。来年は柳岡はんからプレゼント貰えんの楽しみにしてるわ。」
    …できれば柳岡はんの家でな
    すれ違いざま耳朶をかする程に近付きささやく。
    「な、何をお前考えて…!」
    「なにて、柳岡はんこそ何考えとるん?言うてみ?」
    意地悪く笑いながら振り向くと顔を真っ赤にした柳岡が、はよ帰れ!と拳を振り上げてくる。
    (慣れないとこで買うてきたんや、こんぐらいからかってもええやろ)
    内心舌を出しつつ、おぉこわ!ほなお先!と背中を向けながら手をあげ、上機嫌でその場を後にした。
    一人ロッカールームを出た柳岡は通路の壁に背を預け、ため息を吐く。
    「来年」
    一声漏らすと、ふいにあの熱い視線が頭をよぎり耳が熱くなる。
    いや、何かあの男が喜びそうな物はと無理矢理思考を切り替え、扉の鍵をかけた。


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