Danceable*Holiday (Γ+M)街を歩けば、こんにちはマリオさんと声をかけられる。
朗らかな笑顔で挨拶を返して、足取りも軽い。
トレードマークの帽子もオーバーオールも身に着けず、
しかし有事があればすぐにでも動けるような軽装で、マリオはオフの日を過ごしていた。
時刻はお昼過ぎ。
カフェはランチタイムで忙しいし、キッチンカーも行列だ。
ルイージは別の用事で家を空けている。
今日の昼食はどうしよう、そこで浮かぶのがあの場所。
ええと、小銭はあったっけ。
小さな財布の中身を確認。
ちゃり、と小気味良い音。大丈夫。
少しだけ歩みを早めてマリオが向かったのは、街の外れのゲームセンター。
お昼時だけあって、少々客は少ないけれどむしろ好都合。
店内に入るなり、一直線にとある筐体へ。
王国でちょっとしたブームになっている、ダンスゲーム。
二つ並んだ筐体の、一方の台にマリオが立った。
軽く握っていたコインを一枚、ちゃりんと入れる。
ズンズンと響くやや大きな音楽とSEに、ゲームセンターの客が何人か振り返った。
マリオの姿を見るなり、あっという間にギャラリーが出来る。
……ただ、ボクはすぐにゲームをプレイする訳じゃない。
なんせこの筐体は二つ並んでいるのだから、"一人でプレイするんじゃ味気ない"。
音楽を割くように、別の足音が近付いてくる。
もう一方の台に上がり、筐体のライトに照らされた人影はなんだかぬうっと大きい気がする。
ギャラリーが「来た来た」と盛り上がり始めた。
その声でマリオが振り向くよりも早く、コインが投入される。
筐体の真ん中の画面をすいすいと操作し、「2Pモード」を選択する細い指。
「ようマリオちゃん、お邪魔するぜ」
「来ると思ってたよワルイージ」
というかいつも待ってるでしょ。
マリオがくすくす笑うと、ワルイージがちょんとマリオの額を小突く。
彼もまたいつもの服ではなく、すらりと着こなした軽装だ。
何故かルイージをライバル視する紫の長身痩躯、ワルイージ。
ワリオの相棒、頭脳派と自称する彼のファンも少なくない。
……そんな彼とちょくちょく遊ぶようになったのはいつからだっけ。
確か、前にカフェでたまたま相席になってからかな。
「どの曲にすんだよ、まあオレ様は全部コンプ済だけどな」
「ボクの得意なやつでもいいかい?」
「全然構わないぜ」
ワルイージがぐうっと腕を伸ばす横で、マリオが曲を選ぶ。
目に入ったのは、満月がジャケットになっているダンスナンバー。
ゲームセンターでのダンス勝負のきっかけになった、思い入れのある一曲。
「――じゃあいつも通り、得点負けた方が昼飯代奢りな!」
「いいよ!」
今やこのゲームセンターの名物にもなってる、ボクと君のダンス勝負。
でもね。
君がいつも一回だけGOOD判定を出すのを知ってるよ。
それがわざとでも、わざとじゃなくても。
「だーーーーっまた負けかよ!!」
「あそこだけ振り付けのクセが抜けてないね、ワルイージ」
「いやどう見たってオレ様が考えた方がイカしてるだろ!?」
「はいはい。じゃあいつものカフェに行こうよ」
「……次は負けねぇからな」
「うん。ボクも手は抜かないからね、ふふ」
〆