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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860

    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
     井浦はあの日以降、山田と顔を合わせる機会が訪れることを心待ちにしていたのだった。根掘り葉掘り聞き出すのが目的なら霞の方がずっと扱いやすくはあるが、からかって楽しいのは山田の方に決まっている。野暮用で協会本部を訪れたこの日、偶然にもターゲットが居合わせてくれたのは幸運と言う他ない。できればもっと別の場面で運を発揮したいと思わなくもないが、そこは一旦忘れることにして。さてお次はどう仕掛けようかと井浦が思案していると、隣の男がたいそう深い溜め息をついた。溜め息の主、山田は横目でじろりと井浦の顔を睨みつける。
    「ったく、どうせお前も色々突っ込みたくてたまらねークチなんだろ。見え見えだっつの。俺はなあ、奥武の奴らから質問攻めにされてとっくに飽き飽きしてんだ」
     だから何聞かれたって俺ぁ動じねーからな、面白がれるもんなら面白がってみろ! 人差し指をびしっと井浦に向け、山田は強気に宣戦布告してみせた。この状況こそが既に井浦の心を楽しませているのだが、当の山田の知るところではない。
     しかし弱ったな、相当ガード堅くなってるぞこれ。——少し攻め方を変えてみるか。井浦は即座に頭を回し、己がより楽しめる方向へと誘導を試みる。
    「なーんだ、それは残念。お前がうろたえてくれるのを楽しみにしてたのにさ」
     山田はフンと鼻で笑い、勝ち誇ったような顔を見せる。
    「わりーな慶、肩透かしになっちまって。そう簡単におもしれーネタ与えるつもりはないんでな」
    「まだ付き合い始めたばっかなんだろ。初々しいところのひとつでも見せてくれりゃいいのに」
    「バカ言え、俺とあいつが何年一緒にいると思ってんだよ」
    「それもそうか。もはや熟年夫婦の域、ってとこか?」
    「そーそー。もう落ち着き払っちゃってんの、俺ら。だからボロ出させようとしても無駄だかんな」
    「……ふーん? こないだの霞君は、そういう感じには見えなかったけどなあ」
     山田の眉がぴくりと動くのを視認してから、井浦は言葉を連ねる。
    「『実は山田さんと付き合うことになって……』ってさ、指をこう、もじもじさせながら顔真っ赤にしちゃって。ホント初々しいったら。微笑ましすぎて、この俺がリアクションに困ったくらいだぞ?」
     ジェスチャーも交え、井浦はあの時の霞を再現して見せる。どうだ山田よ、恋人のことを他人の口から聞かされる気分は。自分が追及を受けるのとはずいぶん勝手が違うんじゃないか? 井浦はそっと横目で隣を窺う。そこには、片手で口元を覆う山田がいた。どうやら効果は抜群らしい。
    「第三者の俺でさえよーくわかったよ、マジで山田のこと好きなんだな、付き合えて嬉しいんだなって。あの時の霞君、お前にも見せてやりたかったよ」
    「慶、もーいいから、やめろ……」
     だんだんと項垂れていった後頭部が、蚊の鳴くような声で呻く。真っ赤に染まった耳を見て、井浦は得も言われぬ満足感を覚えた。よし、今日のところはこのへんにしといてやるか。俺の本性さえ知らず慕い続けてくれて、馬鹿正直なほど真摯に交際を報告してきた、後輩くんの顔に免じて。それに、もうじき水堀さんが戻ってくる頃合だろう。——弄って楽しんだ後は、しっかり釘を刺すのも忘れずに。
    「一応言っとくけどさ、山田。霞君のこと泣かせたら承知しないぞ、俺のかわいい後輩でもあるんだからな」
    「……それウチの奴らにも散々言われたけどよ、なんで俺が泣かせる側って決めつけてんだよ。どいつもこいつも、俺が冬居に泣かされる可能性は考えねえのか?」
    「そりゃあお前、信用がないからじゃねーの」
     井浦はクハハと笑い飛ばしつつ、確かにそちらのパターンの方が面白い匂いがするかもしれないなと内心頷いた。断じて、二人の仲がこじれることを期待しているわけではないけれど。己の好奇心をよりくすぐるのはどちらかまず天秤にかけてみる、これはもはや井浦の性分なのだった。
     納得のいかない様子でぶつくさ言っていた山田が、なにか気付いたように突然ぱっと顔を上げる。その鋭い眼光が、井浦の顔を視線に捉えた。
    「……っつーかよ、そもそもだなあ……冬居はてめーらの後輩である以前に、俺のかわいい幼馴染みなんだからな!」
     なのにわざわざ泣かせるような真似するわけねえだろ、少しは信用しやがれ! そう言って目を怒らせ啖呵を切る山田を、井浦はほんの一瞬、呆気に取られたように眺めた。
    「……クソ。こっちが油断した隙に惚気やがって」
    「ハ? 惚気だあ? どのへんがだよ」
    「自覚がないとは尚更タチがわりぃな。……ああもう黙れ、このバカップルがよ。二人揃って俺に惚気てんじゃねえ」
     取り繕いもしない悪態が、井浦の口をついて出る。当事者なはずの霞には到底聞かせられないような、荒い言葉ばかりが。
    「おいおい、先に首突っ込んできたのはそっちだろ」
    「そうなんだよなあ、困ったことに。突っついたらさぞ面白かろうって、つい思っちゃったんだよなあ」
    「……慶てめえ、漏れまくってんぞ本音が。ちょっとは隠しとけ」
     山田に楽しませてもらったのは事実だが、こちらも火傷を負う覚悟がどうやら足りなかったらしい。井浦は自省しながらソファの背もたれに体を預け、天井を仰いだ。
     ——次はもしかしたら、この初々しい二人と同時に顔を合わせる機会が訪れるかもしれない。もしそうなれば自分はどんな態度を取るのが正解だろうかと、井浦は瞼の裏に天秤を描く。優しくて裏表のない先輩の仮面と、面白そうなことに目がない素の自分と。すべては状況次第だ、これまでだって上手く使い分けてきたじゃないか。今日の山田を見る限り、彼らの仲が当分は円満に続いてゆくことはおそらく間違いない。まだまだ末長く、存分に楽しませてもらうとしよう。眼鏡の位置を直しつつ、井浦はひとりほくそ笑んだ。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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