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    ナンデ

    @nanigawa43

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    ナンデ

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    アデアレ
    短文

    #アデアレ

    アデアレ 洗わば恋 ファソンの町を出る時に、町の娘たちが駆け寄ってアデルの手に包み紙を渡した。その頃のアレインとアデルの関係はまだクライブが繋いだ縁の先と先という仲で、アレインにとってアデルとは騎士の一人であり、自分の身内ではなくクライブの知己だった。
     いつからだったろう?アデルの人となりを知り、馬の手綱を操る手腕に感服し、酔った彼の口から自分に対する想いを聞き……触れ合う機会が増える度、アレインの中でアデルという男はクライブの仲間ではなく、自分の親しい人、仲間、信頼出来る男とステップアップを遂げ、今では、とうとう、行き着くところまで行き着いた。好きな人、だ。
    「あの包み紙の中身?ああ、あの子たちは小間物屋の娘さんたちで……花の香りのする石鹸ですよ。店で一番人気の品を、と見繕ってくれたそうです」
     そうしてアレインは、出会いたてのアデルからしていた良い香りが、町娘たちの好意の香りと知ったのだ。今はもう、その石鹸は欠片も残っておらず、アデルの髪からも身体からも、クライブやロルフ、トラヴィスたちの使っている、解放軍で支給している石鹸の匂いだけがする。アレインの髪からも、身体からも、同じ匂いがする。同じ群れに属す、仲間の匂いだ。
     アレインは、アデルに自分の香りを纏わせたかった。


    「くすぐったくないですか?」
     ハーブの香りのする石鹸を買い求めて贈ったその日から、アデルはその石鹸でアレインの足を洗う。
    「……あぁ」
    「そうですか。ちょっと力入れますよ」
     たらいに水を張り、アレインの靴を脱がせて、まずは固く絞った布で軽く砂を拭き取る。アレインは椅子に座らされて、好きな人が自分の足を両手で包むのを見ている。布越しにアレインの足の指の間をアデルの指が這って擦る。「ん」と声が出るのを我慢して、今度はたらいの水に足を浸けられて、石鹸をこすって立てた泡を、今度は布越しではなくアデルの指がアレインの足先に塗りたくる。
    「殿下、乗馬が上達しましたね」
    「本当か」
    「そりゃ、もう。ふふ、初めて乗った時の殿下ったら……片足あげたまま固まって可愛らしかったですね」
    「言わない約束だろ、アデル」
    「ふふ、すみません。だってあんな殿下の姿を見られたのが俺だけなんて、こんなに嬉しいこと、ないですから」
     泡に隠れて、アデルの指はよく見えない。足先を見るアデルの顔も見えない。つむじだけが見える。ハーブの石鹸の香りだけがする。洗われる足が擽ったくて、足を優しく擦る指にドキドキして、アレインは今、恋を謳歌していた。
    「……石鹸は、アデルにあげたものなのに」
    「だから俺の一番大事なものを洗うのに使おうと思って」
     アデルの手が、足首をさする。アレインはアデルの言葉の続きを待っている。涙が落ちて、アデルのつむじに落ちる。
    「……殿下?」
     アレインは、アデルに自分の香りを纏わせたかった。顔をあげたアデルの瞳には、アレインだけが映っている。
     アレインは、アデルの特別になりたかった。アデルの口が、アレインを呼んでいる。
    「アデル、もう一度言ってくれないか」
     石鹸の香りがしている。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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