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    ナンデ

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    長柴 本編から五年後妄想

    #長柴
    longChai

    特上寿司十人前、純米大吟醸と山盛りの唐揚げを添えて 高校を卒業し、周囲への宣言通りお笑い芸人養成所に入った長嶋は、成長期をとっくに終えていたにも関わらず高校生の時よりも身長を5センチ伸ばし、足のサイズも大きくなった。胸板は相変わらずひょろひょろで、腰周りも薄ペラのままなのに。
    「ジブン、靴今いくつなん」
    「サイズ?28」
    「はー。靴屋行ってあるん、それ」
    「んー、まあ。あるにはある。デザインはないことも多いかな。でも今、ネットもあるし」
    「はあ、難儀すんなぁ」
     フランチャイズチェーンの様式で経営している中華料理屋の座敷席、並べられた二足の靴を見て年上の恋人は気の抜けた返事をしながら餃子をかじる。長嶋は自分の靴を見る。28センチのコンバースは平ペったくて分厚い。それから恋人、柴垣の靴を見る。目測、25センチ前後。男性にしたらずいぶん、小さい。その感覚が一回り以上年上の柴垣にとっても同じなのかは、分からないけれど。
    「エビマヨ追加しようかな」
    「お前まだ餃子残っとるやろ」
    「それ柴垣さんの分でしょ。分けようって言ったの柴垣さんじゃん」
    「あほ。ラーメン食って餃子もなんて歳ちゃうわ。二個で限界やわ、お前若いんやからもう二個くらい食うてくれて」
    「いや、俺エビマヨ食べたいんだってば……」
     養成所に入ってからもラジオにはハガキを送り続けたし、小戸川を中心とした付き合いで何度も大人数での飲み会に行きそこで出くわすこともあった。ただ高校生の時と違って、今や柴垣は『大好きなお笑い芸人』である前に『業界の大先輩』になってしまったから、新人お笑い芸人長嶋聡としては、同期や先輩のいる前ではおいそれと気軽に口をきけない。ラジオで送るハガキも本名をやめて、ラジオネームになった。あのころみたいな評論家気取りの内容もなしだ。なってみて痛感する、お笑い芸人という生業の難しさ。よくもまあ、目の前の恋人は二十年近くも続けてこれたものだと思う。
    「ほんならエビマヨお土産にしたらええやん。パックもらってな、おばちゃーん、エビマヨ持って帰るからパック詰めてやー!」
    「えっ!やだよ、エビマヨ温め直すとまずいじゃん!」
    「おばちゃーん、すまーん、うちの坊がワガママ言うからエビマヨやめて餃子にしてやー!」
    「餃子はまだある!」
     長嶋の叫びもむなしく、カウンター席の片付けをしていた中年女性店員から「あいよ!」と威勢の良い返事が帰ってくる。柴垣も長嶋の言うことなんて全然聞かずに「俺は温め直したエビマヨもイケるけど、お前繊細やもんなあ」などとにやにやしている。長嶋はもう諦めて、柴垣の残した餃子を箸で掴み、ラー油をたっぷり入れたタレにほんの端っこだけつけてから口にまるまる放りこむ。柴垣は水を飲みながら嬉しそうにしている。彼は長嶋がよく食べるのが好きなのだという。自分はもう歳でそこまで入らないから、と。まだそんな歳じゃないだろ、と22の長嶋は思う。食べられないという感覚が、よく分からないから。まだ、嫌いなものや食べたくないものを避けることはあっても、胸焼けして揚げ物が入らなかった経験がないのだ。若いから。
    「で、どうなん。最近」
    「何が?」
    「仕事や。やっていけそか」
    「うん。まあ……。まだバイトは辞められないけど」
    「何事もそんな都合良く行かへんわ。まあ、ええんやないの、ゆっくりで」
    「うーん、どうだろ」
     長嶋は最後の餃子も腹におさめた。柴垣は空になった水のコップを見つめるばかりで顔をあげない。
    「コンビはええんか」
    「ええんです。柴垣さんは馬場さんとしか組まないんでしょ、これから先も」
    「……おん」
    「だからいいんだ。俺、相方できたらその人に柴垣さんを求めちゃうし。ていうか求めちゃったし。さすがに懲りたよ」
    「この前の子ォ、駄目やったんか」
    「いや、アイツは家業継ぐって実家帰った。父親が腰やっちゃったから畑仕事するんだって。姉夫婦が嫌がったからって」
    「ああ、まあ。野垂れ死にするよりはええわ。大人やからな、そういうこともある」
    「うん。ていうか俺に相方できたら、夜のツッコミもそっちに乗り換えちゃうかもよ?」
    「……おん」
    「いや、否定してよ。嫉妬してよ。恋人でしょ」
     柴垣はピッチャーの水をコップにどぼどぼ注ぐ。注ぎおわったら、飲まずにそのままにした。長嶋は手を伸ばし、勝手にそのコップを掴むと一息に水を飲む。柴垣はうんともすんとも言わずにそれを見ていた。
    「ええんやで。お前の幸せが他の奴ンとこにあるなら、正直に言うてくれな。俺覚悟できてるから」
    「ぜんっぜん覚悟出来てない。言っとくけどうちの親が許さないよ。明日連れてくって言ったら寿司とる!って叫んでたもん父さん」
    「は?まじか?あー!手土産もっとええやつに変えよ!な!」
    「堂島ロールは充分ええやつです」
    「もっとええやつにすんの!」
    「食べきれなくなるからいいの、あれで」
     女性店員が、簡素な無地の白ビニール袋に入ったプラパックに入った餃子を持ってくる。柴垣が会釈して受け取り、長嶋に手渡す。
    「今日もう入らないよ」
    「明日食うたらええやん」
    「明日は昼は駅で食べて夜はうちじゃん」
    「あ、朝食べたらええがな」
    「ニンニク臭させていくの、俺んち」
    「う……」
     腰を浮かせて、二人揃って靴を履く。自分より小さな、薄汚れたスニーカーの紐を結ぶ恋人が長嶋は愛おしい。自分よりもうんと年上で、雲より上の人だった。それが今はこうして、安いチェーンの中華料理屋で向かい合って飯を食い、並びあって靴を履いている。
    「柴垣さん」
     餃子の入った袋をおいて、頭を抱えるようにしておでこにキスをした。柴垣は一瞬固まって、それから耳まで真っ赤になって「なんや、酔っとるんか!」と大声をあげる。その声でザワついていた店内の目がふとこちらに集まった。長嶋は目を細めて「あーあ」と心の中だけで思う。あーあ、だーれも見てなかったのに、柴垣さんたら墓穴掘っちゃって。
    「うん、そう。酔っちゃった。柴垣さん支えてよ」
     わざとらしく首に手をかけて寄りかかったら、柴垣はオロオロしながら「酔ってないやろ、水しか飲んでへん」だとか「調子悪いんか、食べすぎたか」だとか見当違いのことをまくしたてる。それが面白くなってきて、長嶋は耳元に唇を寄せて「これなら人前でイチャイチャできるじゃん」とささやいてあげた。
    「あほ」
    「うん」
    「あほっ。お前、おまえっ」
    「うん」
    「……あー、かなわん。お前にはよぉかなわん」
    「うん」
     誰ももうこちらを見ていなかった。柴垣はため息をついて立ち上がり、長嶋も上機嫌で続けて立ち上がる。
     レジまで並んで歩き柴垣がお金を払っている間、長嶋は後ろでニコニコして立っていた。柴垣がレジ横の募金箱に、お釣りからじゃなくて財布からわざわざ五百円玉を出して入れたのを「いいことするね」と茶化したら「願掛けみたいなもんや」と返ってきた。
     店を出たら、思った以上に寒かった。二人揃って肩をすくめ、白い息を吐き「さむ!」と叫ぶ。街はイルミネーションできれいに飾り付けられて、そこかしこにツリーと、サンタのコスプレをしたキャッチのお兄さんたちが溢れてる。
    「初詣行こうね」
    「あほ、お互い仕事やろ」
     並んで歩いて、家に帰る。二人で住んでる。半年前から。帰って寝たら、明日は出かける。長嶋の実家、電車とバスで二時間半。
    「柴垣さん」
    「どした」
    「俺、柴垣さんのこと好きだよ」
     年上の恋人は、耳まで真っ赤になっている。長嶋は餃子の袋を左手から右手に持ち替えて、柴垣の手を握る。柴垣はゆるく力を込め返し、いつもだったら考えられないくらい小さな声で返事をした。
    「なんやねん、もぉ……」
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