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    既刊『お日さま色のTea Time♪』に収録している短編のうちのひとつを再録します。
    スバルの為に『スバルブレンド』を作ることになった創くん。付き合っていないけれどお互いのことが大好きなスバしののお話です。

    キラキラブレンドとある休み時間、創が夢ノ咲学院の廊下を歩いていると、前方にスバルの姿が見えた。
    (あっ、明星先輩。今日は登校している日だったんですね)
    ESが設立されてからというものの、アイドルとしての仕事が入った際には授業を欠席しても問題ないという規定が出来た為、ある程度名の知れているアイドルは平日の日中にも仕事が入ることが多くなり、結果的に皆夢ノ咲学院で授業を受ける時間が少なくなってしまっていた。その為、昨年度までのように学院内で自分のクラスや部活以外の知り合いに会う機会も減ってしまい、スバルもその例外ではなかった。
    だからこそ、思いがけない場所でスバルに会うことが出来た喜びに、創の心臓はトクンと音を立てて跳ねるような心地がした。早速「明星先輩」と声を掛けようと小走りに近付いていく。しかしふと悪戯心が芽生えて、創はそっと息を潜めながら距離を縮め始めた。そしてスバルの背中に手が届く距離になったところで、両手でその肩をポンと叩いた。
    「明星先輩っ!」
    「わっ! しののん⁉ びっくりした~!」
     突然背後から声を掛けられて、スバルは大きな目を丸くして後ろを振り返った。創の思いついた作戦はうまくいったようだ。
    「えへへ、いつも明星先輩がぼくのことをびっくりさせることが多いので仕返しです」
     些細な悪戯を仕掛けてみたことをおどけて伝えると、スバルは「やられた~」と言いながら両手で頭を押さえた。と思うと、すぐに創のことを後ろからぎゅっと抱きしめた。
    「いたずらするしののんも可愛いっ! 可愛いからハグしちゃうっ!」
    「わあっ、苦しいですよ~」
    「だって学校に居る時にしののんに会えるの、ちょっと久しぶりだったから嬉しくて!」
     スバルの腕の中で抱かれながら、先ほど自分が考えていたことと同じ想いをスバルも感じていたのだと分かって嬉しくなり、自分を抱きしめているその腕に両手を添えてぎゅっと力を込めて握った。
    「ぼくも学院で明星先輩に会えると思っていなかったので嬉しいです。最近は平日の日中もお仕事があって、登校する日も少なくなりましたからね」
    「そうそう。去年は学院で過ごす日々が中心だったから、偶然ガーデンテラスでしののんを見かけてお茶を飲ませて貰ったりもしたのにね。甘い紅茶とシフォンケーキ! 美味し
    かったなあ」
     その言葉に、去年のある日の幸せな一幕のことを思い出す。ガーデンテラスで紅茶を淹れていた創の近くを偶然通りかかったスバルが、その紅茶を飲んでくれて「すっごく美味しいよ! これぞ『しののんの味』って感じ」とスバルらしい表現で褒めてくれたのだ。
    「そうでしたね。最近では星奏館の共有ルームでご一緒することはあっても、学院ではなかなか会えないですもんね」
     昨年度の思い出を懐かしむと共に、最近のなかなか一緒に過ごせない日々への寂しさが滲むような声色でそう言うと、スバルは少しだけ間を空けてから「そしたらさ!」と何かを閃いたように目を輝かせた。
    「今度、ガーデンテラスで二人きりのお茶会がしたいっ! 俺がお菓子を持っていって、しののんはお茶を淹れる! どうかなっ?」
    「いいんですか? とっても素敵です! 是非そうしましょう!」
     創にとっても非常に魅力的なその提案に、ぱっと後ろを振り返る。すると思っていた以上にお互いの顔が近い距離にあって、創は気恥ずかしさから目を反らした。しかしスバルの方は気にする様子はなく「やった~! 楽しみだなあ」と上機嫌に笑っている。
    「えへへ、ぼくも楽しみです。明星先輩はどんなお茶が飲みたいですか?」
     自分だけが意識してしまっているような気がして少し悔しかったが、その思いを紛らわすように創はお茶会の具体的な計画を立てようと話を進めた。
    「どんなお茶? うーん……」
    「お疲れでしたら疲れに効くハーブをブレンドしますし、気持ちが明るくなるようなお茶もご用意できますよ」
    「それも魅力的だけど、そうだなあ」
     折角お茶会を開くのであれば、忙しいスバルの為に少しでも心が安らぐようなものにしたい。そんな思いからお茶の効能などの方面でアプローチをしてみたが、どうやらあまりピンと来ていない様子だ。
    「……じゃあさ、ちょっとわがまま言ってもいい?」
    「はい、何でしょうか?」
     スバルにしては珍しく遠慮がちな物言いに、どんな要望をされるのだろうと少しだけ身構える。するとスバルは思い切ったように大きく腕を広げた。
    「しののんが、俺のことをイメージして作ったお茶を飲んでみたいっ!」
    「明星先輩をイメージしたお茶、ですか?」
     思いもよらない提案にその言葉を繰り返すと、スバルは「うんうんっ!」と頷いた。
    「しののん、いつも一緒にいる相手の気分とか、その時の身体の具合に合わせたお茶を作るのがとっても得意でしょ? だから、そんなしののんが俺のことをイメージしてお茶を作るとどんなお茶になるのか知りたいな!」
     その言葉から、スバルが創の腕前を信頼してくれていることが伝わって来る。そして、その期待に応えたい、という思いから創は両手をぐっと握りしめて返事をした。
    「分かりました! 任せて下さい!」
    「やった~! 楽しみにしてるねっ!」
     両手を挙げて心からの嬉しさを表現するその姿を見て、創はスバルにより喜んでもらえるような良いお茶を作りたい、という思いが増すのであった。


    スバルとお茶会の約束をした数日後、創は個人の仕事の合間の休憩時間が重なった友也と共にESビルのラウンジで雑談をしていた。そこで先日スバルと学院で出会った時にお茶会を開く約束をしたこと、そして創が作った『明星先輩ブレンド』を振る舞うことになったことを伝えると、友也は何かに納得したように「そういうことか」と頷いた。
    「創、それで最近そわそわしてたんだな」
    「えっ? ぼく、そんなに態度に出ちゃってましたか?」
    「いや、そうでもないけど。俺だから気付いたんじゃないか?」
    「友也くんはなんでもお見通しですね」
    流石は創の一番の親友である。よく見ているなあと感心していると、友也が「でも」と言って不思議そうに首を傾げた。
    「創、結構色んな人に対してその人をイメージしたブレンドティーを作ってるような気がしてたんだけど、明星先輩には作ってあげてなかったんだな」
    「はい、実はそうなんですよね」
    「というか、前に明星先輩のイメージでブレンドティー作ってなかったっけ? それこそ一年生の時くらいから」
     友也の指摘に、創は少しだけ間を空けて返事をした。
    「……はい、作ってました。色んな茶葉や香りの組み合わせで、何種類か。でも、完成させられてないんです。明星先輩の大好きなところを全部詰め込もうとすると、うまく選べなくって……」
     親しい仲であるスバルに未だにオリジナルブレンドを作ったことがない理由を小さな声で吐露すると、友也は大きく相槌を打った。
    「創、明星先輩のことが本当に大好きだもんな。大好きな人に渡すものほど悩む気持ちはすっごい分かる! 俺も北斗先輩の誕生日に何を渡そうかって悩んだからさあ」
    「えへへ、友也くんはいつも僕の気持ちを分かってくれるので嬉しいです」
    「全部分かるって訳じゃないけどな。でも、大好きな先輩が居て、その人に憧れてる気持ちは同じだからさ。まあとにかく、明星先輩は創が作ったお茶ならなんでも喜んでくれるだろうし、気負い過ぎずに作ってみたらいいんじゃないか?」
    「そう、でしょうか。とにかく、頑張ってみますね。ありがとうございます」
     友也の言葉に勇気を貰い、創はずっと未完成のままになっていた『明星先輩ブレンド』を完成させることを決意したのであった。


    「そうは言っても、やっぱり難しいです……」
     友也と話をした翌日、ティーパーティー『フレイヴァー』の活動時間を利用して『明星先輩ブレンド』を作ろうとしたものの、やはり昨年から悩み続けているものをそう簡単に完成させられるはずもなく、様々な種類の茶葉を前に頭を抱えてしまう。
    (明星先輩の個人カラーはオレンジですし、オレンジや柑橘系の香りを付けるのがいいでしょうか? でも、お日さまみたいにあったかい人ですから、身体が温まるジンジャー系のものも捨てがたいですよね)
     腕を組みながら考えていると、突然耳元にぞわりとした感覚が走った。
    「は~くん、何やってるの?」
    「わひゃっ⁉ 凛月お兄ちゃん⁉」
    囁き声に驚いて振り返ると、そこにはニヤニヤと笑う凛月の姿があった。
    「もうっ! びっくりしたじゃないですか~?」
    「ふっふっふ、油断しているは~くんが悪い」
     お得意の悪戯っぽい笑みを浮かべていた凛月であったが、その表情はすぐに拗ねたよう
    なものに変わった。
    「だってみんなでお茶会してるのに、は~くんってば全然帰って来ないんだもん」
    「そ、そうですよね。すっかり遅くなってしまってすみません」
     ふと時計を確認すると、サークル活動のお茶会を途中で抜けてブレンドティー作りを始めてから随分と時間が経ってしまっていることに気が付いた。他のサークルメンバーは日頃からの活動場所であるガーデンにてお茶会を続けているはずなので、凛月はいつまで経っても戻って来ない創を心配して迎えに来てくれたのだろう。
    「もしかしては~くん、俺たちとはお茶会したくないの~?」
    「や、やめてください~。そんな訳ないじゃないですかあ」
     今度は創の肩に凭れ掛かって不満を訴える凛月から逃げるようにそう言うと、凛月は「じゃあ何してるの?」と最初の疑問を再び口にした。
    「ブレンドティーを作ろうと思っているんですけど、どの茶葉を選ぶか悩んでしまって」
    「ブレンドティー? エッちゃんがよくは~くんに頼んでる『しののんブレンド』の新作でも作るの?」
    「いえ、今回はそういう訳ではなくて、個人的なもので……」
    「また誰かにプレゼントするの? は~くんの茶葉選びはセンスがいいし、は~くんの感性を信じて作ればいいのが出来ると思うけど」
    「ありがとうございます。でも、今回はぼくの中でいつもとちょっと違っていて……」
     自分が悩んでいる内容について上手く言葉に出来ずそう濁して伝えると、凛月は何かを察したように「なるほどね~」と呟いた。
    「は~くん、好きな人にお茶を作ってあげようとしてるんでしょ」
    「すっ……⁉」
    「あ~、図星の顔だ」
     凛月にずばり言い当てられて創は顔を一瞬赤くしたものの、紅茶部として夢ノ咲学院内で活動をしていた時から凛月や英智には度々スバルとの関係について相談に乗って貰っていたことを思い出す。それを考えれば、今更自分がスバルに好意を寄せていることについて触れられることは恥じることでもない、と思い直し気持ちを切り替えた。
    「……そうです。明星先輩のことをイメージしたブレンドティーを作ろうと思っているんです。でも、明星先輩の好きなところって沢山ありすぎて、何を軸にして作ればいいのか悩んでしまって……」
     創が悩みを打ち明けると、凛月は「ふぅん」と小さく呟いた。
    「じゃあさ~、とりあえずは~くんが好きだと思ってるところを口に出して言ってみれば? 話してるうちに考えが纏まるかも」
    「ええ? 何だかちょっと恥ずかしいですけど……そう、ですね」
     自分はスバルのどんなところが好きだろうか。頭の中で纏めようとする前に、自然と口から言葉が溢れ出してきた。
    「ぼくは、アイドルとして舞台に立っている明星先輩が好きです。見ているみんなを楽しい気持ちに、笑顔にしてくれるところがとっても素敵です」
    「それから、ぼくの紅茶を『美味しい』って言って飲んでくれるところも好きです」
    「あと、すごく忙しいのに、いつもぼくを気にかけてくれるところも好き」
    「舞台の上ではかっこいいのに、Trickstarの皆さんとふざけている時や大吉ちゃんと遊んでる時に子どもみたいに笑う可愛いところも好き」
    「……他にも、まだまだ沢山あります」
     ゆっくりと噛みしめるように沢山の言葉を紡ぐと、凛月が「へえ~」と感心したように呟いた。
    「すごいねえ。本当に大好きなんだ」
    「えへへ、やっぱり言葉にして言うのって照れちゃいますね」
     熱くなった頬を両手で覆う。手のひらは冬の空気に晒されて少しひんやりとしていて、頬の熱を冷ますのにちょうど良かった。
    「じゃあさ、は~くんは大好きな人と一緒に居る時に、どんな気持ちになる?」
    「ぼくの気持ち、ですか?」
    「そうそう」
     先ほどまでスバルのどのようなところが好きであるかを話していたのに、また違う方向から自分の気持ちを見つめ直すことになり、今度は少し考えてから言葉を選んでいく。
    「……あったかくて、胸がぽかぽかして、心の中にキラキラしたものが溢れて来るみたいな、そんな気持ちになります」
     胸の中にある宝箱の中身を広げるような気持ちで呟くと、凛月は優しく相槌を打って聞いてくれた。
    「じゃあ、そのは~くんの気持ちをイメージして作ってみるのは?」
    「ぼくの気持ち?」
     自分では思い至らなかった提案に、創は首を傾げる。
    「そんなことでいいんでしょうか」
    「それが一番大事なんじゃない? だって、は~くんからのプレゼントなんだから」
     凛月の言葉に、なるほどそうかもしれない、と思い創は深く頷いた。
    「分かりました。ぼくの明星先輩への気持ちを表現出来るように作ってみます」
    「うんうん。きっといいお茶ができるよ~」
    「凛月先輩、ありがとうございました」
    「いえいえ~。今度は俺がま~くんのことをどれだけ愛してるかも聞いてねえ」
    「勿論です!」
     創が素直にそう返事をすると、凛月は「何それ」と言って吹き出した。どうやら冗談のつもりだったようだ。
    「相変わらずは~くんらしいよね。とりあえず俺はお茶会に戻るけど、は~くんもそれが出来たら戻っておいで。折角のサークル活動なんだから、みんなで過ごそうよ」
    「はぁい。完成したらすぐに戻りますね」
     そう返事をすると、凛月は「じゃあね~」と軽く手を振ってサークルメンバーが集って
    いるガーデンの方へと戻っていった。
    「……よしっ! 頑張ります!」
     両手で小さく握りこぶしを作って意気込み、創は再び茶葉の調合に勤しむのであった。


     それから数日が経ち、約束のお茶会の日が訪れた。昼下がりのガーデンテラスでティーテーブルの椅子に腰掛けて待っていると、間もなく「おーい!」という声が聞こえてきてガーデンテラスの入り口の方から走って近付いて来るスバルの姿が見えた。
    「しののんお待たせっ! 遅くなっちゃってごめんね?」
    「いえいえ、ぼくもさっき来たところなんです。まだお茶は淹れていないので、少し待っててくださいね」
    「もちろんっ! そうだ、まずは俺が持ってきたお菓子を見せるね!」
     そう言ってスバルが紙袋の中から「じゃーん」という効果音と共に取り出したのは、どうやら型抜きクッキーのようである。
    「わあ、お星さまのクッキーですね。あ、これってもしかして……」
     既製品のような均一の大きさではない、星型に型抜きされたそれを見て思わず言葉を零すと、「へへ、ばれちゃった?」とスバルがはにかむ。
    「去年の秋にしののんがかぼちゃのクッキーを焼いてくれたのが嬉しかったから、俺もクッキーを手づくりしてみたんだ。簡単なやつだけどね。お菓子作りはちょっぴり苦手だけど、しののんがお茶を手作りしてくれるんだからって思って俺も頑張ってみたよ」
    「そうなんですね。食べるのが楽しみです。とっても美味しそうな香りがしますね」
     創がもっとその香りを嗅ごうとして鼻を近付けると、スバルは指でつまんでいるクッキーを創の口元へと運んだ。
    「それなりには美味しく焼けたと思うっ! はい、あーんして?」
    「えっ? は、はい!」
    咄嗟のことでどぎまぎしながらも、「あ、あーん……」と小さく口を開けてひとくちかじってみる。すると香ばしい香りと優しい甘さが口いっぱいに広がった。
    「わあ、サクサクしていて美味しいです~」
    「ほんと? 良かった!」
     その安心したような笑顔を見て、スバルも自分と同じようにこのお茶会の為に沢山考え
    て準備をしてきてくれたのだろうかと思い、じんわりと胸が温かくなる。創がクッキーを咀嚼して飲み込んだのを見て、スバルはまた満足そうに笑った。
    「じゃあ次はしののんの番ね。どんなお茶を作ってくれたのかな~?」
     『わくわく』という効果音が聞こえてきそうなほど期待に満ちている青色の瞳を向けられ、創は「これから準備しますから少しだけ待っていてくださいね」と言って、持参したティーセットをいそいそと広げ始めた。

    「お待たせしました。『明星先輩ブレンド』ですよ~」
     湯を借りる為に厨房とガーデンテラスの間を行き来した後、創は完成したブレンドティーをお気に入りのティーカップに入れてスバルの元へと差し出した。
    「ありがとっ! ていうか『明星先輩ブレンド』って長くない? 『スバルブレンド』でいいよ!」
    「そ、それもそうですね。では、『スバルブレンド』を召し上がれ……?」
     話の流れとはいえ普段呼ばない下の名前を呼ぶことに気恥ずかしさを感じていると、スバルが「わーい! しののんが俺の下の名前呼んでくれたっ!」と無邪気に喜ぶのでますます頬が熱くなる。しかしすぐにスバルの興味は創が提供したブレンドティーに戻ったようで、「うわあ!」と感嘆の溜息を零した。
    「これ、すっごくいい香りがするね。お花の香り?」
    「はい。ぼく、明星先輩のことを見ていると、いつも心の中がキラキラした気持ちでいっぱいになるんです。だから、そのキラキラを表現できるように茶葉にピンクやブルー、イエローの花びらをたっぷり混ぜてみました。色とりどりの花びらがあるとキラキラしていて綺麗だなって思って。それから、香りがもっと華やかになるように桃の風味も付けました。明るくてフレッシュで元気が出る香りです。明星先輩って、お日さまみたいに明るくて、見ているだけでも元気が出るので」
     創がブレンドティーの説明をする様子を、スバルはうんうんと頷きながら聞いていた。
    「そっかあ。俺のことそういう風に思ってくれてるんだね。それじゃあ、冷めないうちに、いただきまあす」
     嬉しそうに目を細めたままスバルがティーカップに口を付ける。スバルにお茶を飲んでもらう機会は今までに何度もあったものの、今日はいつもよりも少し緊張してしまう。
    (明星先輩、『美味しい』って言ってくれるでしょうか)
     しかし、頭を過ぎった不安は次の一言であっという間に消えていく。
    「美味しい~! これ、すっごく美味しいよ!」
     そのスバルの笑顔があまりにも眩しくて、創の心の中も一瞬でパッと明るくなる。
    「良かったあ。喜んで頂けて嬉しいです!」
    「うん! 俺の為に作ってくれて本当にありがとっ!」
     創ははにかみながら「えへへ、どういたしまして」と返す。そして、創はこっそりと用意してきていた、簡単なラッピングを施した紙袋を鞄から取り出した。
    「あの、もしよかったら持ち帰って飲めるようにティーバッグタイプのものもいくつか作ってみたので、お部屋で寛ぐ時とかに飲んでくれたら嬉しいです。ティーバッグの中の茶葉の色を見て頂くと、さっきぼくが話した明星先輩のイメージがより伝わると思います」
    「いいの? ありがとう!」
     スバルはその紙袋を受け取り、早速中身を確認し始める。紙袋の中には透明な袋にいくつかのティーバッグを詰めたものが入っていることに気が付くと、スバルはそれを取り出して「わっ! ほんとだ!」と小さく叫んだ。
    「ティーバッグの中に色んな色の花びらがいっぱい入っててとってもキラキラしてるね!
    俺、こういうの大好きっ!」
    「ふふ、気に入って頂けましたか?」
    「うん! とっても!」
    スバルの言葉を聞いて創が微笑むと、スバルは取り出したティーバッグの詰め合わせを再び紙袋の中へとしまい、その紙袋をぎゅっと胸に抱えた。
    「このお茶を飲む時は、しののんと一緒に居る時のことを思い出しながら大事に大事に飲むね」
    「ぼくのことを思い出しながら……嬉しいです」
    「うん。だってしののんのことを思い出すといつだって元気が出てくるからね」
    「ほんとですか?」
     創は確かめるように、しかし期待を帯びた声色で問い掛けた。自分がいつもスバルから元気を貰っているように、スバルも創の存在に元気づけられているのだとしたら、こんなにも嬉しいことはない。
    「ほんとだよ」
     創の言葉を受けて、スバルが柔らかく微笑んだ。
    「嬉しいです。ぼくも、おんなじだから」
     同じ思いを抱えていたことへの喜びを噛みしめるようにそう言うと、スバルは愛おしそうな眼差しで創のことを真っ直ぐに見つめた。
    「初めて会った時からずっとずっと、しののんは俺に元気をくれるんだ。俺は、可愛くて頑張り屋さんで一生懸命なしののんのことが大好きだから。そんなしののんを見てると俺も頑張ろうって思えるんだ」
     その温かい言葉が創の胸の中に広がって、キラキラしたものが溢れ出す。好き。大好き。何度でも声に出して言いたくなる。しかし全て声に出すのは少し恥ずかしくて。
    「……ありがとうございます。ぼくも、明るくて優しくてあったかい、そんな明星先輩のことが、大好きです」
     心の中のひとかけらを大切に届けるようにそう告げると、スバルが「うん」と頷く。その頬が赤いのは、今口にした温かいブレンドティーのせいだろうか。
     二人はお互いへの想いを確かめるように見つめ合い、少しの間を空けて同時に笑みを零した。
    昼下がりのガーデンテラスは、甘く柔らかな香りに満たされていくのであった。 
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    DONE既刊『お日さま色のTea Time♪』に収録している短編のうちのひとつを再録します。
    スバルの為に『スバルブレンド』を作ることになった創くん。付き合っていないけれどお互いのことが大好きなスバしののお話です。
    キラキラブレンドとある休み時間、創が夢ノ咲学院の廊下を歩いていると、前方にスバルの姿が見えた。
    (あっ、明星先輩。今日は登校している日だったんですね)
    ESが設立されてからというものの、アイドルとしての仕事が入った際には授業を欠席しても問題ないという規定が出来た為、ある程度名の知れているアイドルは平日の日中にも仕事が入ることが多くなり、結果的に皆夢ノ咲学院で授業を受ける時間が少なくなってしまっていた。その為、昨年度までのように学院内で自分のクラスや部活以外の知り合いに会う機会も減ってしまい、スバルもその例外ではなかった。
    だからこそ、思いがけない場所でスバルに会うことが出来た喜びに、創の心臓はトクンと音を立てて跳ねるような心地がした。早速「明星先輩」と声を掛けようと小走りに近付いていく。しかしふと悪戯心が芽生えて、創はそっと息を潜めながら距離を縮め始めた。そしてスバルの背中に手が届く距離になったところで、両手でその肩をポンと叩いた。
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