不器用なひと、優しいひと「いつでも、連絡してくれて構わない。こまめな返信は……約束できないが」
そう言ってオプティマスプライムは、膝をついて目線を合わせようとしてくれた。
だけど、私は――その目を、正面から見られなかった。
素直に喜べず俯いてしまったのは……
時が経ちすぎていたからなのか。それとももう、あの頃の2人ではないからなのか。
私が思ってるほど、彼はもう気にしてないのかも。
これはただ、関係の終わった“旧友”への社交辞令……なのかもしれない。
そんな思いが頭から離れなかったから。
その日の夜。一日の仕事を終えた後、私はベッドの上に仰向けになりながら、
小さな紙を見つめていた。
オプティマスがくれた、連絡先のメモ。
彼の筆跡は、昔と変わらない。真面目で、力強くて、少しだけ不器用な字。
(いつでも連絡していい、か……)
嬉しかった。……でも、何を伝えたらいいだろう?
元気? いや、変かな。
今なにしてる?……って、本当に知りたい訳じゃない。
次はいつ会える? ……これは、言うべきじゃない。
戦争が終わっても、彼はまだ仲間の平和な暮らしのために戦い続けているのだから。
考えれば考える程、彼の心が遠ざかっていくような気がした。
私は深呼吸するとスマートフォンを手繰り寄せ、通信アプリのメッセージ画面を開いた。
送信先は【Optimus Prime】。その名前を見ただけで、ドキリとしてしまう。
メッセージを打って、消して、また打っての繰り返し。
散々迷った末、素直な気持ちを打ち込むことにした。
> あまり会えないからここで言うね。
> 大好きよ。
震える指先で送信ボタンをタップする。と、同時に心臓が跳ねる。
送ってしまった。私ったら何を、あの頃の……
年頃の少女みたいなことをしているんだろう……!
……いや、むしろその頃よりずっと勇気がいる。
「重かったかな」と思った瞬間――通知が届いた。
> Optimus Prime:
> ❤️❤️❤️🔥🔥🔥🌈🌈🌈✨✨✨
「……えっ?」
一瞬見えた文字に、思わず体を起こしてしまった。
見間違い……?と、もう一度画面を凝視する。
でも、絵文字のシャワーは変わらずそこに降り注いでいた。
画面いっぱいに、彼の感情が爆発している。
“真面目で、力強い、不器用な司令官”のイメージは、脳内でふっと崩壊した。
脱力し、もう一度ベッドに倒れ込む。
「……オプティマス、そんなに……?」
緊張が緩んで、ふっと笑みがこぼれる。
胸の奥から、温かいものがゆっくりと広がっていく。
……こんな風に返してくれるなんて。
メッセージなのに、まるで昔の様に……優しく抱きとめられたみたい。
彼の気持ちがまっすぐに胸に届いたようで、
笑ったはずなのに、瞳の奥が熱くて――。
まさか、こんなことで“可愛い”と思ってしまうとは。
まだ彼について知らない一面があるなんて思いもしなかった。
そう考えながら、私は今度は送信ボタンを軽快にタップした。
> ありがとう。ちょっと可愛いって思っちゃった。
> 今度会ったら、ちゃんとあなたの顔を見て伝えるね。