ガラス越しのかくれんぼ 2*
月島さま。
耳慣れない呼ばれ方に気後れしながら鯉登に促されるまま、店の奥まった場所へ案内される。月島を導く手は指先が五本きっちりと揃っていて隙がない。掌の色だけ少し薄い肌色なのが目に入った。
「よろしければお荷物はこちらへどうぞ」
鯉登がそう言うので、近くにあった一人がけのソファにどっさりと大量の紙袋とほぼ空っぽの鞄を置く。
大きな姿見の前へ立つと自分の姿だけしかけ絵本の飛びだす人形のように浮いて見えた。いかにいい服を着ていても、高級店に慣れている面々とはまず立ち方や手先の仕草が違う。
それに健康的な鯉登と並ぶと自分の肌の青白さというか、生気のなさがひどい。
ずっと死ぬことを考えて生きてきた、今日出所したての服役囚だぞ、当然だ、と内心で誰に言い訳するでもなく諦めまじりの弁明を吐く。
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