大切な人やった、やっと越えられた。
幾多の毒矢が突き刺さり、アリーナの砂地に倒れ込むフィオルを、わたしはじっと見つめる。
この闘技場で彼女に何度負けたかわからない、負けた悔しさでなんど泣いたかわからない。
でも、やっと勝てた。乗り越えられたんだ。
フィオルの救護を待機していた薬師に任せると、わたしは宿舎へ脚を進める。かくかくとした脚はふらつくけど、今までのどのわたしの脚よりも軽くて前に進める気がした。
宿舎に着くと備え付けのベッドに身体をしずめた。身体を埋め尽くしてた高揚感がほんの少し抜けて、全身が鉛みたいに重くなる。
フィオルに斬りつけられた肩と脇腹が、ずきずきと痛みを発し始めた。脚は負荷を掛けすぎたのかぴくりとも動かせなくなって、わたしはただ昼上がりの景色を窓から見上げるだけになる。
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