『人はそれも愛と呼ぶ』僕らの関係は、少し不思議な始まり方をしていたと思う。
雨だれが石を穿つように、四季を通じて木々が彩りを変えるように、ゆっくりと、けれど着実に心に芽生えた想いはあったのだろう。それを自覚する前に、ある日何気ないきっかけで、煮詰めた果実みたいに深い赤紫の瞳に僕の視線は絡め取られた。
相手の体温を肌で感じる距離まで顔が近づいた時、何をされるのか頭ではちゃんと理解していた。けれど体は、手を伸ばしてそれを遠ざける事はしないで受け入れるように瞼を閉じた。
その直ぐ後に唇に触れた熱は少しだけカサついていて、だけどとても優しくて、その時初めて僕は桔梗が好きなのだと理解した。
不思議なもので、一度自覚してしまうと僕らの関係は急速に縮まっていった。初めてキスをした日から程なくして二回目、三回目と数は増えていき、まるでそうなることが自然なようにそれ以上も求め合うようになっていった。
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