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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    ふせった~に投げていたモブシェズ♂+ユーリス&アッシュの散文サルベージ第一弾。「三年目の同窓会」で展示していました。221103

    「ん? あれは……」
    「いてっ、ユーリス、どうしたの?」
     前を歩いていたユーリスが急に止まったので、アッシュはその意外にびくともしない肩に体をぶつけると立ち止まった。ひょいと前を覗き込むと、我らが傭兵隊長、シェズその人が裏路地からちょうど出て来るところが見えた。
    「シェズじゃないか。でも、何だか様子が……」
     二人が様子を見ていると、シェズは後から出てきた人物から何かを受け取ると、手の中のそれを確認した。よくは見えなかったが、恐らく金銭だ。相手は、随分年上の男のようだった。平民にしては整った身なりをしている。この辺りに住む貴族の一人だろうか。いやに親しげな仕草でシェズの体に触れて、下品な笑みを浮かべている。そこで、ユーリスはピンときた。向こうの通りには、連れ込み宿が軒を連ねていたはずだ。逢瀬を楽しむ商人や兵士、街娼を連れ込む傭兵なんかが利用するような、安価で粗末な、狭い空間と寝台を貸すだけの場所。そこからシェズは、年上の男と一緒に出てきた。つまり、それは……
     男はシェズをぎゅっと抱きしめると、最後に口づけをねだったようだった。少し疎ましげにそれをかわし、眉を顰めた傭兵隊長はユーリスたちの方を見た。おそらくユーリスと同じ解にたどり着いていたのであろうアッシュが息を呑む。シェズは前髪に隠れていない方の目を見開き、明らかに「まずい」と言いたげな顔をした。その隙をつき、男が唇を奪う。
    「んっ……! おい、やめ……!」
     低く笑って体を離すと、男は立ち去り、シェズたちの間に気まずい空気だけが残された。

    「二人とも、いつから見てたんだ?」
    「お前があのおっさんと裏路地から出てきたところからだな」
    ユーリスの答えに、シェズは頭を掻く。
    「はあ、……それならもう、言い訳も必要ないな……」
    「シェズ、もしかして……あの人に脅されてるの?」
    「それとも、王国傭兵隊の将ともあろう者が、娼婦の真似事か?」
     アッシュは真剣な顔でシェズに詰め寄る。まごうことなき、純粋に彼のことを案じている目だ。
    「僕もああいう人に騙されたり、脅されたりしたことがあるから分かるよ……安心して、力になるから」
    「待てアッシュ、逆にお前の方が心配だぞ。騙されたことがあるのか?」
    「娼婦の真似事だってんなら、自分を安く見積もりすぎだな。俺様がもっと金払いの良い貴族と顔を繋いでやろうか? もちろん、紹介料はいただくけどな」
    「ユーリス、お前はお前で何言ってんだ……この金は確かにあの人にもらったが、多分お前ら勘違いしてるぞ」
    「どういうこと? あの男の人に無理やりいやらしいことされてるんじゃないの?」
     シェズはアッシュの想像力から、過去の彼の体験とやらがますます心配になる。仕方なくため息を吐くと、シェズは真実を語り始めた。
    「あの人は何ていうか……ここの前哨基地に来てから再会した、昔世話になってた貴族で……」
    「えっ……? 知り合い? ってことは、宿には行ってないの?」
    「どういうことだ?」
    「いや、宿には行ったし、やることはやったけど、お互い合意の上だから問題ないぞ」
    「「はあ?」」
     アッシュとユーリスは驚き、顔を見合わせた。
    「俺は育ての母を亡くしてから、いくつかの傭兵団を点々としてたんだが……もちろん、最初から傭兵として働けたわけじゃなくて、最初は雑用係や従者みたいなものからやらせてもらってたんだ。天涯孤独のガキの扱いなんてそんなもんさ。そうしたら、そう沢山の金が手に入るはずもないだろ。俺はいつも腹を空かせてて、武器も防具もろくなもんじゃなかった。それで、傭兵団がこの辺りで仕事を受けていた時に、あの人に助けてもらったのさ」
    「助けてもらった?」
    「ああ。あのおっさんに声をかけられてな。一緒に食事をしたり話をしたり寝たりして、金をもらってたんだ」
    「おい、娼婦の真似事で合ってんじゃねえかよ!」
    すかさずユーリスの突っ込みが入る。
    「俺は娼婦じゃないさ。あの人、家では奥さんや子どもに無視されてて、かわいそうなんだよな……ちょうど俺も父親ってもんを知らなかったし、居心地良くてな。金払いもいいし」
    「シェズ……嫌じゃないの?」
    「全然? 隊長って立場からすると、女みたいに抱かれてるとなったら沽券に関わりそうだが、俺は自由な身だしな……それでも、ディミトリに迷惑はかけられないから、こっそり会っていたってわけさ」
    「「……」」
     ユーリスとアッシュはまた顔を見合わせると、どうしたものかと思案する。
    「お前、今は立場も立場だし、金には困ってないだろ。なのになんで……」
    「まあ、それは……つまりこう、溜まる物があるってのは、お前らもわかってくれるだろ? そういうことだ」
    「……え? あの人のことが好きなの?」
    「いや、話を聞いてたかアッシュ。どう聞いても体だけの関係だろ。金は、小遣いだって言って押しつけられたが、次会った時に返しておくか……」
    「そういうことなら、正当な対価だと思うがな。俺だったらきっちりう貰っておくぜ」
     ユーリスはちょっと呆れたようにシェズを見る。要は、あんなおっさんを相手にして性欲を発散していたということか。歪んだ趣味だと言ってやりたいが、自分にそれを言う資格はない。
    「お前の好みにどうこう言える立場じゃないが……兵士の中には、傭兵上がりのお前を良く思ってない奴らもいる。そういう奴らに隙を見せねえよう、もうちょっと慎重に行動するんだな」
    「ああ、肝に銘じよう。……お前らのことも、口止めしたほうが良いか?」
    「僕たち、誰にも言わないよ。でも……君に、自分を大切にして欲しい」
    「……分かった。なんか悪かったな、二人とも心配してくれてありがとう」
     実に爽やかにそう言ってシェズが去っていくので、ユーリスとアッシュはただその背を見送ることしかできなかった。
    「……なんか、やっぱりすごいね、シェズって……」
    「悪趣味なだけだろ」
     

    終わり

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