ルチルから見たフィガロ先生の話 ひょっこりと扉の隙間から顔を覗かせると、診療所の主であるフィガロ先生は安心させるような笑顔を浮かべて手招きをしてくれた。部屋に入ると音を立てないように慎重にベッドに近付く。するとさっきまで真っ赤な顔をして息を切らしていた弟が安らかな表情をして眠っているのが見えた。ようやくほっと息を吐くと、力が抜けたのかその場でしゃがみ込みそうになった。
「深く眠っているみたいだ。もう心配しなくて大丈夫だよ」
昨日の夜はいつも通りだったのに、朝目が覚めたら額が沸騰したポットのようだったミチルをおぶってフィガロの診療所を訪ねたのはつい先程の事。幼い子どもはしょっちゅう熱を出すとはいえ、ミチルの事となると一抹の不安が過るのだ。もしもの時の事を想像すると心底恐ろしくて手足が震えたというのに、あっという間にフィガロ先生は安心感をくれる。
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