特製、生地薄ゴススーツハロウィンエリアの大鍋から飛び出た緑の火が、紺碧の掌(てのひら)に集まっていく。
円を描くような優美な仕草で光を纏め上げ、やがてそれらは胸の核へと消えていった。
しばし目を伏せて、全身に火が行き渡り核に光がみなぎる感覚に身を委ねてから、ゆっくりと目を開く。
青い瞳が、発光していた。
真っ白なまつ毛の先まで走る光、まばたくその動きさえ鮮やかで、雪白は目が離せず見つめていた。
光の吸収が終わり身体の発光もおさまると、紺碧は自分の身体を見下ろして言った。
「この衣装の薄さ、悪意あるよね」
胸元を睨む横顔に、雪白は苦笑する。
「ま...まぁ...薄いですよね...」
腕を組むふりをして、さり気なく身体を隠す雪白の上衣の生地も、薄い。
「タトゥーが透ける」
おもしろくなさそうに、紺碧がむくれる。
独特な紋様を描く胸のタトゥーは、奴隷時代にハイイロ(違法組織の元締め)に彫られたものだ。
知っている者が見れば、それがハイイロの関係者だということが分かるだろう。
それでガラの悪い連中に絡まれたからといってそれは問題ではないが、いかんせん煩わしい。
そんな輩に時間を取られるなら、捨て地の蟹の数を数えた方がよほど有意義だというものだ。
「雪白くん、どうしたの?」
ふと、雪白の様子がそわそわと落ち着かず、普段と違うことを察して紺碧は心配そうに問う。
「いや、あの、目のやりどころに困るなって...」
微かに頬を染め、明後日の方角に視線を向けて雪白は頭の後ろをかく。
「あー...」
紺碧も苦笑する。
そして雪白の両手を取って、やおら自分の両胸に当てた。
「じっくり見ちゃえば?」
悪戯っぽく笑いかければ、狼狽(うろたえ)まくった雪白のなかで何かがパリーンと砕ける気配がする。
「何度も見てきたくせに」
周りに聞こえないように低く声をひそめ、紺碧は雪白に顔を寄せる。
視線から逃げるように顔を背けたその頬は真っ赤で、分かりやすい反応は心底いじめ甲斐があるというものだ。
胸に置いた雪白の手を自分の腰に移動させ、身体を密着させると、紺碧は雪白を抱き寄せて視線を合わせた。
(き、す、される...ッ)
反射的に目を閉じる雪白。
しかし口付けは優しく目元に落とされただけで、すぐに身体も解放されてしまった。
拍子抜け、物足りない、と表情に出てしまっただろうか。
「か、からかわないで下さいよ...」
「からかってないよ」
照れ隠しで言うと、意外にも真剣な声音で否定される。
「触りたいと思ったから触った。キミの頬が可愛かったから口付けた」
「...な...」
ストレートに言われて、ますます恥ずかしくなる。
地団駄(じたんだ)を踏みたいほど、恥ずかしくなる。
「続きは、このエリアの散策を終えてからかな」
涼しい顔で言う、この人は...まったく...ッ
「楽しみだね♡」
語尾にハートすら付けて、満面の笑みで手を差し出してくる様子は、側から見たらエリアの散策が楽しみだと無邪気に笑っているようにしか見えないだろう。
翻弄(ほんろう)されてばかりなのが悔しくて、しかしその優しい手を取る瞬間はいつでも胸が高鳴ってしまって。
雪白はいつもより強く、その手を握り返した。