テントの中を覗けば、果たして目的の人物はそこにいた。
こちらに背を向けて読書に没頭している。冒険者には気づいていないようだ。
彼の手元にある重厚な装丁の、両手で開くほど大きな本は、第六星歴以前の歴史がまとめられたものだ。付箋があちこちに張られたそれは、一般的に出回っているものよりも詳しい内容が書かれているらしい。応じて記された文字もはるかに細かいのだが、彼の目線は星を読むかのように、紡がれた歴史を追っていく。
冒険者は思わず感嘆の息をついた。
彼とは共に未知の場所へ冒険しに行ったこともあれば、一杯のエールをかけて早駆け勝負をしたこともある。(その時は冒険者の惨敗だった。得意げに笑って勝利の杯を傾ける奴の小憎たらしさったらなかった。再戦したあかつきには必ず勝つと固く心に誓っている)どちらかといえば活動的な印象が際立っていたのだが、意外な一面を見た気がする。賢人は言われるべくして賢人なのだなぁ、と、本人に聞かれたら失礼だと怒られそうな感想を抱いた。
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