髪が二倍になる話 中学の放課後の教室の掃除時間に、ゴミを捨てにいくところだった。自分も中学生で、周りも当時の同級生だ。廊下はひとでごった返している。私は人気のないゴミ集積所まできて、ほっと一息ついたときに、ふと自分の髪の長さが気になった。腰まである長い髪は、今更ながら、他人からは少し気持ち悪く見えるかもしれない。私は髪を束ねているヘアゴムを少し下げて、ポケットからハサミを取り出して、一息に髪を切った。爽快だった。切った髪をゴミ集積所に置いて教室に戻ろうとしたが、切った髪を置いてみると、大変な気持ち悪さを感じた。切った髪がまるで巨大な虫か蛇のように見える。あるいは凄惨なイジメの痕跡か、ゴミの中にいじめられっ子が埋まっているようにも見えそうだ。見つけたひとが驚いて大騒ぎをしても困るなあと思い、私は髪を拾い上げ、ハサミについている「やりなおし(UNDO)」ボタンを押した。すると、髪の長さは元に戻ったが、巨大な虫か蛇のような切った髪は変わらず手元にあった。髪が二倍になってしまった。
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