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    靴の夢

    #夢

    靴の夢 私は洗面所の隣の棚で予備の洗剤を探していた。
     玄関の鍵をかけ忘れていたのか、家の中に唐突に人間くらいの大きさの何かを引き摺る音と共に不審者が入ってきた。おそらく引き摺られているほうが同居人で、引き摺っているほうは知らない大柄の男性だ。
     男は引き摺ってきた同居人らしきものを寝室に置くと、のしのしと床を軋ませて家中を移動し始めた。部屋に他の人間がいるかどうかを確かめているのだろう。その足音はやがて洗面所にも近付いてきて、私は思わず死角になりそうな棚の隅と壁の隅の間に張り付いた。怯えると体が細くなるフクロウのことを思い出した。気持ちはそんな感じだが実際はいつも通りの太さだ。あるいはカメレオンにでもなりたかった。とにかく私は見つからないよう願った。私が隠れた棚のすぐ隣の壁には曇りガラスの大きめの窓がある。近付いてきた足音は窓の存在に気付くと歩みを止めた。窓に自分の人影が映るのを懸念したのかもしれない。そして反対側にあるトイレに入っていった。
     男がトイレの戸を閉めて鍵をかけた音を聞いて、私はそろりそろりとトイレの前を通り、寝室の横を通り抜け、玄関で黒い靴を履いて、扉を開けたあとは塀沿いに小走りで移動した。
     全力疾走したかったが、靴の大きさが左右で違う。
     片方は自分の靴だが、もう片方はぶかぶかの男物の革靴だ。あの男は追いかけてくるだろうか。同居人も私も女なので、あの家に大柄の男性が履けそうな靴はない。少し離れたところから奇妙な足音が聞こえてくる。角を曲がる際に、ちらりと見ると水色の可愛らしいワンピースを着た子どもがサイズの合わない女性物の黒の革靴と、更にサイズの合わない男性物の黒の革靴を履いて歩いていた。一見すると家族の靴で遊ぶ子どもに見えるが、無表情で全く楽しそうではないのが異様な雰囲気を醸している。
     その子どもはこちらに歩いてくる。
     私は角を曲がってすぐに民家のカーポートに無断でお邪魔した。そしてまるでそこの住人であるかのように生ゴミ用のゴミ箱の蓋を開けて中身を確認するふりをした。
     奇妙な足音の子どもはその横を通り過ぎていった。すれ違いざまに子どもは頭を動かさずに目だけを動かしてこちらを見ていた。肝が冷えたが住人のふりはうまくいったようだった。
     しばらくして私は子供に背を向けて、なるべく足音を立てずに歩き出した。追いかけてくる様子はなかった。
     住宅街によくある小さな公園の横を通ると、そこではフリーマーケットが開かれていて、それなりに賑わっていた。私の靴の左右の違いに気付いた女が不審そうに私に近づいてきて、執拗に世間話などを振りながら探りを入れてくる。私は不安と焦りから小声で答えた。
    「この靴は、家に不審者が入ってきて、慌てて家を出るときに間違えてしまったんです」
     素直にそう伝えると女は納得してくれたようだった。警察に連絡したかどうか尋ねられて、ハッとした。スマホを常にポケットなどに入れているので今回もきちんと持ってきている。ただ、自分が警察に電話をかけている隙にいつのまにか不審者のあの男が目の前に立っているかもしれないという根拠のない不安に襲われて、今すぐ警察に電話をする気にはなれなかった。どこかに落ち着いたら警察に電話をします、と伝えると、女は心配そうに手を振りながらフリーマーケットに戻っていった。
     その女とすれ違いに今度は小柄な男が靴を持ってニコニコとこちらに駆け寄ってきた。
     こちらを不審に思っている様子はなく、単にセールスチャンスだと思っているようで、執拗に靴を買うよう勧めてくる。私は断り続けた。フリーマーケットから少し離れたこの視界の開けた場所で悠長にメーカー不明の靴のサイズをあれこれ試す気持ちの余裕もないし、そもそも財布を持ってきていない。財布がないことを伝えると小柄な男は表情を歪ませ舌打ちをして去っていった。
     私は片足にサイズの合わない靴を履いたまま、車通りも多く商店もそこそこ並んでいる通りに出て、ベンチで一息ついた。この近くに住んでいて数日泊めてくれそうな信頼できる知り合いのことを思い浮かべた。ひとりだけ思い浮かんだ。その知り合いの家に辿り着けたら警察に電話をしよう。
     合わない靴で疲れた足を宥めつつ、私は少し落ち着いて自分の考えを整理した。
     私が家を出るときに玄関に子どもの靴はなかったはずだ。不審者のあの男は子どもを裸足で連れ回していたのだろう。同居人は世話焼きで正義に厚く子ども好きだった。何かの折に揉めたのかもしれない。追いかけてきたあの子どもは私を見つけても何かできるようには思えないし、単にあの男の靴を買いに行かされていたのかもしれない。でもすれ違ったときの視線の感じの異様さは、ずっとねっとりと背後につきまとっている気がする。
     まるで、振り向けば、目の前にいそうな…

    おわり。
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    IhaqrL

    MEMO祖母の遺品整理の夢
    祖母の遺品整理の夢 祖母が亡くなった。
     平均寿命は超えていたし、大病を患ったわけでもないので老衰や大往生という表現が合いそうな最期だった。
     今日は、祖母が病院に搬送される直前まで一人で暮らしていた市営住宅の団地に来ている。遺品整理がほとんど終わり、部屋には三人掛けの長いソファだけが残されていた。明日の朝に、このソファを廃品回収に引き渡し、それから家の床や壁の傷み具合を確認しに管理会社のひとが来るので、それに立ち会えば、この家は解約できる。場所が離れていて、早起きしても始発では間に合わないので、前日に来て一晩この家のソファで夜を明かそうという心算だった。
     カーテンも絨毯もない、ソファだけになった祖母の家は寂しかった。WiFiもないし、誰かに電話をする気にもなれない。財布とスマホしか持ってきていないので、やることもなく、ボロボロの三人掛けソファに横になった。錆びたスプリングの軋む音と共に祖母が作ってくれた筑前煮のことを思い出したのは、そういう匂いがソファに染み付いているせいかもしれない。寒いというほど寒くもないが、こころもとなさから、毛布のひとつも持ってくればよかったと後悔しながら目を閉じた。
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