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    さとこ

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    さとこ

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    アンソロ原稿に提出しようとしていたけど、あまりに松戸要素がなく(ほぼ一刻堂さんと戸田くんのお話)ボツにした作品の供養です。

    松戸+誰かのお話、3期の山田の話も書いたんですけど、それの4期verみたいな……一刻堂さんの方がだいぶ好感度高いのがわかりますね……

    【松戸と一刻堂さん】言霊遣いと妖怪少年【戸田くんのことが気に入った一刻堂さんと(だから合わせたくなかったのに!)となっている松岡くんの話】

    【言霊遣いと妖怪少年】

    「ところで君は……」

     ぎろり、とこちらを睨むような鋭い目つきに、戸田は身体をわずかに強ばらせた。いつでもオカリナを取り出せるように、そっと懐に手を忍ばせておく。

     戸田が今、対峙しているのは、言霊使いと呼ばれている人間である。黒ずくめの和装は、得体の知れない存在感をかもしだし、その視線はこちらの正体を明かしてやろうとばかりに鋭く戸田を射抜いていた。

     一見、敵意は感じないが、まだ分からない。中には、敵意を隠すのが得意な人間もいる。男については、話には聞いたことがあっても、顔を合わせたのは初めてであり、共通の知人を介しての知識しかない。共通の知人こと、後輩の松岡は、よほどこの目の前の男が苦手らしく、『味方にいると便利だけど、敵に回せば僕ら妖怪の天敵のような人間』と、要注意人物として教えられていた。

     一刻堂が再度口を開く。戸田は、構えの姿勢を低く保ち、すぐにでも相手に飛びかかれるように身構えた。が、その次に一刻堂の口から紡がれた言葉は戸田の予想だにしなかったものであった。

    「甘味は好きかね?」
    「……はい?」



     どうしてこうなったのだろうか。ちらりと目の前の席に座る黒ずくめの着物男を上目遣いに見やって、戸田は内心ため息を吐いた。

     言霊使いの男こと一刻堂と、三代目・『ゲゲゲの鬼太郎』こと戸田は、現在とある古書店街の一角にある甘味処にいた。

     悪く言えば古びた、よく言えば味のある店構えの甘味処である。老舗らしく、それなりに客足もあって人でにぎわっている店内に、どうみても不釣り合いな大人と子どもの奇妙な組み合わせの二人は、向かい合って神妙な顔でクリームあんみつを囲っていた。

     いくら敵意は感じられないといえども、味方とも言えない人物と卓を囲んでいる現状に、戸田は戸惑っていた。戸田の目の前には、問答無用で一刻堂により注文されたクリームあんみつが鎮座している。よりによって店で一番高価なメニューである。こんな場面でなければ、素直に美味しそうだと喜べたものを。

     眉間に深いしわを刻んだ見事な仏頂面で、一刻堂はもくもくとクリームあんみつを口に運んでいた。一見、美味しそうに食べているようには見えないが、しきりに匙を口に運んでいるところをみると、案外甘党なのかもしれない。

    「どうしたのかね?早く食べたまえ。アイスクリームが溶けてしまう」

    どうにも、人の好意を無碍にできない戸田である。

    「はっ、はい……いただきます……」

     頷いて、慌てて匙を手にとって、アイスクリンを掬って口に運んだ。



     言霊遣いと戸田が奇妙なお茶会を始める一時間ほど前、今日の昼過ぎのことである。戸田が松岡の家を訪ねたところ、家の主は留守であった。事前に連絡を入れていなかった自分が悪い、と戸田が松岡に会うことをあきらめて帰ろうとしたところ、ちょうど通りかかった西村から、松岡が人間界の古本屋街の祭りがあるらしく遊びに行っているという情報を得た。なるほど、それは松岡にとっては見逃せない催しだなぁと頷く。

     『西村ちゃんは一緒に行かなかったの?』と戸田が尋ねたところ、『鬼太郎の読む本はむつかしすぎてあたしにはわからないもの』という答えが返ってきて、二人して顔を見合わせて笑ってしまった。戸田だって、似たようなものだ。本を読まないわけではないが、松岡の好む内容は戸田にとってはあまり興味を引くものではない。時折、松岡とは本の貸し借りもするが、その時は松岡は自分の好みよりも戸田が好みそうなものを選りすぐって持って来ていた。

     一度、自分の好きなものを持ってきたらどうか、と松岡に提案したところ、

    『君と世界を共有したいからね』

    と口説き文句のようなことを言われ、『それこそ、君の好きなものでいいじゃないか……』と顔を赤くしたことを思い出す。

     どうせ、現役を引退してから依頼の数も減り、時間にも余裕がある。せっかくだし、途中で松岡に遭遇するかもしれないという期待もあって、戸田は西村と別れた後、松岡の次元の古書店街に赴いたのであった。

     だが、そこで遭遇したのは、顔なじみの松岡ではなく、知り合いの知り合いといった間柄でしかない目の前にいるこの仏頂面の男だったわけであるが。

     目の前の男に意識を戻すと、なるほど、この男もこの古書店街の雰囲気にはよくなじんでいた。

    「あの、僕はあなたの……」
    「『僕はあなたの知っている鬼太郎ではありませんよ』、とでもいうのかね?」
    「……はい」

     先取って台詞を言われてしまった戸田は面食らった。

    「私にとってはそれはさほど重要事項ではないのだよ」
    「はぁ……」
    「君たちは同一の存在なのかね?」
    「同一……ではないですね。彼も僕も等しく”鬼太郎”ですが、」
    「なら、君と彼の境界はどこにある?」
    「僕と貴方が別々の”個”であるように、彼と僕もまた別々の存在ですよ」

     のんびりと茶を飲みつつも、戸田に考える余裕もないくらいに矢継ぎ早に出される問答に、直感で答えていく。見かけ通り、目の前の男は頭の回転がたいそう早い。相手の間合いを作らせず、”言葉”によって、自身の間合いに引きずり込む。なるほど、これが『言霊遣い』たる所以かと、戸田は内心舌を巻いた。戸田の次元では出会ったことのない人種である。
     だが、普段、戸田の周りにはこういった問答をする相手はいないからか、一刻堂のとのやりとりは戸田にとっても非常に興味深く、おもしろいものであった。口喧嘩は強い自信はある。戸田が言霊遣いとの問答に再び口を開こうとした、その時。

    「戸田くん!!」

     ぐい、と後ろに身体が引っ張られる感覚の直後に、ドッ、と背中に衝撃が走った。続いて、何者かに肩を抱かれる感触。気配にはとうに気が付いていた。

     松岡が、息を切らして甘味屋に飛び込んできたのだ。

     周囲の客や店員が一瞬ざわつくが、二人がまるで双子のような格好をした子どもだとみると、すぐにまた元の静けさに戻る。

     イスごと戸田の身を抱き寄せ、腕の中に囲い込んだ松岡は、威嚇する猫のように気を逆立てて目の前の人物を睨みつけていた。客も多い店内だというのに、ざわつきうねり始める松岡の髪に、戸田は(まずい……!)と直感的に感じ取った。

    「お前……戸田くんに何をしようとしていた?場合によっては……」
    「松岡くん」

     戸田は、一言、松岡に呼びかけて、とん、と背中から肩に回された腕に手を置いた。ただ、軽く触れるのみで、力を入れたりはしていない。それでも、途端に松岡の逆立っていた気が少し緩んだ。

    「……ほぅ?」

     言霊遣いも、片眉を上げて目を見開いた。そして、ニヤリと笑うと、楽しげに『はははっ』と笑い声をあげた。ここまで仏頂面ばかり見ていて、相手が笑う事なんてないと思っていた戸田はその様子に目を丸くし、松岡は眉間のシワを深くして、目の前の男を睨みつけた。

     一刻堂はそんな松岡と戸田にかまわず、上機嫌に片手を上げ、店員を呼びつけた。

    「すまない、クリームあんみつをもう一つ。それ含めて会計を」
    「いったい、なにを……」

    そうして、松岡が口を開こうとするのにもかまわず、戸田の方を向いて、

    「また会おう。異世界の鬼太郎くん」

     とだけ言い残して、黒の羽織をなびかせて甘味屋を出て行った。

     一刻堂の姿を見送ると、松岡は緊張の意図が切れたように、ドッ、とその場に座り込んだ。

    「ちょっ、松岡くん、大丈夫かい!?」
    「大丈夫……。あー!もう!だから戸田くんに会わせないようにしていたのに……」

     と、はぁー、とため息を吐きながら、さきほどまで一刻堂が座っていた席に腰掛け頭を抱えて机に突っ伏す松岡に、(今日は来てよかったな)と、『面白いものも見れたなぁ』と笑う戸田を、松岡は恨みがましい目で見やった。

    「きっと、今ので君は目を付けられたよ。やっかいなことになった……」
    「いいじゃないか。僕は面白かったよ」
    「僕の気が気じゃないんだよ!」

    と、松岡は更に頭を抱えたのだった。
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    さとこ

    MOURNINGアンソロ原稿に提出しようとしていたけど、あまりに松戸要素がなく(ほぼ一刻堂さんと戸田くんのお話)ボツにした作品の供養です。

    松戸+誰かのお話、3期の山田の話も書いたんですけど、それの4期verみたいな……一刻堂さんの方がだいぶ好感度高いのがわかりますね……
    【松戸と一刻堂さん】言霊遣いと妖怪少年【戸田くんのことが気に入った一刻堂さんと(だから合わせたくなかったのに!)となっている松岡くんの話】

    【言霊遣いと妖怪少年】

    「ところで君は……」

     ぎろり、とこちらを睨むような鋭い目つきに、戸田は身体をわずかに強ばらせた。いつでもオカリナを取り出せるように、そっと懐に手を忍ばせておく。

     戸田が今、対峙しているのは、言霊使いと呼ばれている人間である。黒ずくめの和装は、得体の知れない存在感をかもしだし、その視線はこちらの正体を明かしてやろうとばかりに鋭く戸田を射抜いていた。

     一見、敵意は感じないが、まだ分からない。中には、敵意を隠すのが得意な人間もいる。男については、話には聞いたことがあっても、顔を合わせたのは初めてであり、共通の知人を介しての知識しかない。共通の知人こと、後輩の松岡は、よほどこの目の前の男が苦手らしく、『味方にいると便利だけど、敵に回せば僕ら妖怪の天敵のような人間』と、要注意人物として教えられていた。
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