オルト□スsolメモ遥「ハァ？　……ふざけんな！」
奏「またそんなムキになってー、ホントのこと言っただけじゃん。最近兄貴のギター腑抜けてんじゃないのって」
遥「お前が勝手に言ってるだけだろ。だいたい何を根拠に……！」
唯「最近……喧嘩することが増えたね、遥くんと奏くん」
玲「あの二人が喧嘩をしてるのはいつものことだ」
紫「っふふ……最近遥はお友達が増えたから、奏も気に入らん所があるんやろうなぁ」
唯「どうすればいいのかな」
紫「まぁ見とき？　僕に考えがある」
玲「考え？」
紫「そう、最近退屈してたし……ええ退屈しのぎを思いついてん」
紫「遥ぁ、奏ぁ」
遥「なんだよ」
奏「あぁ、しゅーくんも言ってやってよ！　言いがかりだって」
紫「あんたらの喧嘩の内容なんて一ミリも興味ないわ。それより僕、おもろいこと思いついたんや。聞いてくれへん？」
遥「あぁ？」
紫「次のライブで新曲をやりたいなって思っとるんやけど、その新曲を遥と奏にそれぞれ作ってもらいたいねん」
遥・奏「はぁ？」「ええ？」
玲「紫夕！　またそんな勝手な」
紫「LRフェスが休止になってから喧嘩ばっかりのあんたらに正直僕も困ってるんよ？　あんたら、中学生困らして恥ずかしくないん？」
遥「俺のせいじゃねぇ」
奏「え～？　すぐ喧嘩腰になるのは兄貴の方じゃん」
遥「そりゃお前が突っかかってくるから…！」
紫「じゃあ、さっさと優劣つけたらええわ」
奏「優劣？」
紫「そう。遥の曲と奏の曲、両方演奏してみてどっちが盛り上がるか勝負するんや。音楽なら喧嘩の勝敗も分かりやすくてええやろ？　どう？　おもろそうやと思わん？」
奏「えーっと……俺が、作曲？」
遥「冗談じゃねぇ……なんでお前のお遊びに付き合わねぇといけねぇんだよ」
紫「ふぅん……怖いんや？　奏に負けるんが」
遥「！」
紫「確かにそうやんなぁ、あんたの専売特許でもある作曲で弟に負けたらえらい恥ずかしいもんなぁ？」
遥「っ！　……（舌打ち）」
奏「俺はやるよ、賛成。まあ兄貴がいいなら、だけど」
紫「ふふっ。んで、遥。どないするん？」
遥「～っ、クソが！」（足音、怒り声と扉の開閉音）
奏「あーあ、あんなに怒っちゃって。ところでしゅーくん、俺作曲とか作詞とかしたことないんだけど……しゅーくんが教えてくれるの？」
紫「なんで僕がそんな面倒な事せんとあかんの」
奏「ぅええっ」
紫「玲司、任せたわ」
玲「俺……ですか。しかし」
紫「あんたも作曲の経験はあるんやから。教えられるやろ？」
玲「……分かりました」
奏「烏丸セーンパイっ！　俺打たれ弱いから、優しく教えてね！」
玲「ハァ……」
紫「っふふ」
唯「紫夕くん、楽しそうだね」
紫「まあな。次のライブ、どうなるか見ものやわ」
（暗転）
幼奏「はるか！　待って！」
幼遥「ほら、かなた！　俺の手に掴まれって」
幼奏「うん……。はるかは凄いな、なんでもできて」
幼遥「(笑いながら)そうか？　かなただって、努力すればなんでもできるようになる！」
幼奏「なんでもできるように？」
幼遥「そう！」
奏「ホントだ。なんだぁ、兄貴って大したこと無かったんだね」
幼遥「えっ？」
奏「可哀想な遥。独りぼっちで傲慢で、何一つ俺に勝てない。……っふふ」
遥「え？」
(背景寮)
遥「っ、ぷはぁ！　ハァッ……ハァッ……はぁっ……ッチ、曲作ってる最中に寝落ちたのか。……はぁ、最悪な夢だ」
遥「結局、紫夕に乗せられて曲を作ることになったはいいが……妙に焦って、思うように曲がまとまらねぇ」
遥「アイツはどんな曲を作るつもりだ？　それに勝つにはどうしたら良い？」
遥「もっと、今までとは違う要素を入れるか？　いや、観客を盛り上げるなら今時の流行りを入れて……。もしくは、もっと凝ったギミックに変えた方が……！」
遥「くっそ……これじゃまた！」
(暗転)
紫「ふぅん……怖いんや？　奏に負けるんが」
(背景寮)
遥「っ……！　あの頃、アイツの手を掴んでやってた自分に教えてやりたい。お前の目の前に居る奴は、お前の居場所を根こそぎ奪っていくやつだって」
遥「意地でも負けねぇ。もう奪わせてやるものなんて、一つもねぇんだよ」
(ノック音)
唯「遥くん、いいかな？」
遥「っ……鞍馬センパイ」
(扉の開閉音)
唯「あぁ……ごめん、作曲中だったんだね。邪魔しちゃったかな」
遥「別に、何の用だ」
唯「奏くんの方は玲司くんが手伝うらしいから、僕は遥くんを手伝おうかと思って」
遥「いらねぇ、もう大体できた」
唯「そうだったんだ。聞いてみてもいい？」
遥「ハァ……好きにしろ」
唯「（間）……うん、聞いてみたけど……なんていうか」
遥「なんだよ」
唯「遥くんらしくない曲だね」
遥「……は？」
唯「うん。攻撃的で焦燥感がある曲だ。上手く言えないけど、遥くんらしさが足りない感じがする」
遥「っ……なんだよそれ」
唯「ごめん、怒らせちゃったかな。僕が思うに遥くんらしさっていうのは、攻撃性や刺激性じゃなくてもっと悲劇的で」
遥「もういい出てけ！　俺には手伝いなんて必要ねぇ」
唯「分かった。何か困ったことがあったら声をかけてね」
(扉開閉音)
遥「分かったようなこといいやがって。ッチ、俺だって自覚してるっつの……」
遥「自分の汚ぇところを見せなきゃ、俺の曲にはならねぇ。でも、それじゃアイツに勝てる曲にはならねぇ」
遥「どうしろってんだよ……」
(間、背景グレー)
遥「……ん、やべぇ……日付が変わった。もうこんな時間か」
遥「鞍馬センパイと話した後、何度も曲を作り直したが……やっぱり納得できるものにはなってねぇ」
遥「とにかく、リビングで休憩してから……」
(扉の開閉音、足音)
遥「！　リビングに明かりが付いてる。まだ誰か起きてんのか？」
(扉の開閉音)
遥「てか、この曲……」
奏「あれ、兄貴？」
遥「っ！　お前……」
奏「兄貴もまだ起きてたんだー。ごめん、うるさかった？　ちょっと曲の調整しててさー。いやあ、ほんと作曲って大変だよねえ」
遥「……（震えた息遣い）」
奏「って……大丈夫？　顔色めっちゃ悪いけど」
遥「おい、その曲……お前が作ったとか言わねぇだろうな？」
奏「えぇ？　俺が作った曲に決まってるじゃん。こう見えて真面目なところあるからねー、かなちゃん。ズルしないでちゃんと真剣に作ってるよ」
遥「嘘つくな！」
奏「はぁ？　いきなりなに。本当だよ、烏丸センパイに教わったのは作り方だけだし。ちゃんと俺が作ってる」
遥「そんなワケねぇだろ……！　だって！」
(背景のみ暗転)
遥「曲調、リズム、メロディ……似てる。盗まれた？　いやそんなはずはねぇ。鞍馬センパイに聞かせた曲はボツにしたし、これは今仕上げたばかりの曲だ」
(背景寮)
遥「てことは……」(物を落とす)
奏「っと……楽譜落としたよ」(拾う)
奏「あれ……これ、兄貴が今作ってる曲？」
遥「おい！　勝手に触んな！」
奏「ふーん……なるほどねぇ。兄貴がキレてる理由はこれか」
遥「返せ！」(奪い取る)
奏「ねぇ兄貴。俺、このまま作曲が上手くなれば……兄貴のライバルになれるかな？」
遥「ライバルだと？」
奏「そ、ライバル」(カサカサ音)
奏「この楽譜が証明してるでしょ？　やっぱり、遥の隣に立てるのは俺しかいない」
遥「うるっせえ！　ライバル　っふざけんな、誰がお前みたいな！」
唯「遥くん？　奏くん？」
玲「うるさいぞ！　何時だと思っている」
遥「ッチ、クッソ……！」(足音)
玲「おい、遥！」
(暗転)
遥「もしアイツが、本当に真面目に作ってたとしたら……俺達はどう足掻いても双子で、似たような感性を持ってるってことかよ？」
遥「気持ちわりぃ……ほんっとに気持ちわりぃ……！」
遥「自分の汚いところを見せただけじゃ、アイツに勝てない。でも、俺に作れる曲はそれしかない」
遥「結局……それしかないんだ」
(背景寮)
遥「こんな曲……いらねぇ」(紙を捨てる音)
遥「憎悪、嫌悪、絶望、殺意、全部ぶつけてやる……！　アイツに、勝つために……！」
(回想)紫「そう。遥の曲と奏の曲、両方演奏してみてどっちが盛り上がるか勝負するんや。音楽なら喧嘩の勝敗も分かりやすくてええやろ？」
(場面転換、背景スタジオ)
奏「って、しゅーくんは言ってたけどさぁ。正直、初心者の俺は不利だと思うんだよねーこの勝負
奏「烏丸センパイもそう思わない？　やっぱり思うよねえ？」
玲「騒がしいぞ奏。口じゃなく、手を動かせ」
奏「えーつめたーい」
(背景暗転)
玲「それにしても……奏の器用さと飲み込みの早さについては改めて感心する。作曲の方法を教えて数日しか経っていないのに、初心者とは思えないレベルだ」
玲「それに作曲を教えたところで、ふざけるかサボルかどっちかだと思っていたが……意外と真面目にやっている」
(背景スタジオ)
玲「……(短い息遣い)」
奏「ちょっと、烏丸センパイ？　そんなにじっと見られると気まずいんだけど……」
玲「！　あぁ、悪い。意外と真面目に取り組んでいるなと思ってな」
奏「意外ってチョー失礼！」
玲「普段のお前の振る舞いを見てたら、誰だってそう思うはずだ。いつも練習をサボるし、集合時間に遅れるし、集中力も無い」
玲「それが……今回は様子が違う。不思議に思うのは当然だろう。何か……理由があるのか？」
奏「理由ね……大した理由じゃないよ。ただ、俺を見て欲しいだけ」
玲「見て欲しい？」
奏「そ。それだけ」
玲「遥に、か？」
奏「当然じゃーん。他に誰がいるの？　俺、烏丸センパイに見られても全然嬉しくないよ」
玲「安心しろ。俺はそこまでお前に興味がない」
奏「ええ～ひっどぉ……」
奏「今回は、頑張ればちゃんと兄貴に見てもらえるような気がしてるんだ」
奏「俺さ、小さいとき結構病弱だったんだよね。だから、俺にとって兄貴は特別な存在だったんだ」
奏「なんていうの？　……ヒーローみたいな？　そんな感じ。熱を出して寝込んでる時とか、転んで泣いてる時とか……いつもそばに居てくれて、手を握ってくれて」
奏「今の兄貴からじゃ想像付かないでしょ？」
玲「あぁ……」
奏「いつも喧嘩になって拗れちゃうけど、俺と兄貴はやっぱり双子で兄弟なんだ。だから、たまには俺のこと見てよ！　なんて、弟らしいこと思っちゃったりするんだよねー」
奏「今回の曲もさ、そういう兄貴に対する愛を込めてるってワケ」
玲「兄弟愛にしては重たい気もするが。……なあ、奏。一つ疑問がある」
奏「なに？」
玲「お前の遥に対する態度は……確かに、所々歪んでいて問題がある。だが、基本的にお前は器用な男だ」
奏「えっ。烏丸センパイに褒められるの、なんかキモい」
玲「真面目に聞け。お前ほどの器用さがあれば、遥ともっと上手くやることも出来るはず。なのに、なぜ良好な関係を築こうとしないんだ？」
玲「昨日も遥とリビングで言い合いをしていただろう」
奏「……(惑うような短い声)」
玲「(溜息)俺も、その……兄弟がいるからな。お前の気持ちは多少分かるつもりだ」
玲「俺の場合はもう破綻してしまったが、お前たちはまだ改善する可能性がある」
奏「改善ね……。そんなの分かってる、でもあえてしないんだ」
玲「え？」
(回想)奏「っと……楽譜落としたよ」(拾う)
(回想)奏「あれ……これ、兄貴が今作ってる曲？」
(回想)遥「おい！　勝手に触んな！」
奏「曲調、リズム、メロディ……似てる。俺の曲に。そっか、そうなんだ」
(回想)奏「ふーん……なるほどねぇ。兄貴がキレてる理由はこれか」
(回想)遥「返せ！」(奪い取る)
奏「どうしてそんな顔してるの？　兄貴。まさに絶望って感じの顔」
奏「俺は嬉しいよ。嬉しくてたまらない」
(回想)奏「ねぇ兄貴。俺、このまま作曲が上手くなれば……兄貴のライバルになれるかな？」
(回想)遥「ライバルだと？」
(回想)奏「そ、ライバル」
(回想)奏「この楽譜が証明してるでしょ？　やっぱり、遥の隣に立てるのは俺しかいない」
奏「俺たちはどう足掻いても双子で、似たような感性を持ってるって……遥も分かってるでしょ？」
(回想)遥「うるっせえ！　ライバル　っふざけんな、誰がお前みたいな！」
奏「改善なんて望んでない。そもそも、ただの兄弟愛じゃ満足できないんだ」
奏「だってそんな段階、とっくの昔に終わっちゃったんだもん」
(回想から戻る)
玲「奏？」
奏「あぁ！　ごめんごめん、ちょっと昨日のこと思い出しちゃって」
奏「烏丸センパイの問いに答えるとしたら……。普通の兄弟みたいな、平凡で幸せな関係は俺達には相応しくないから、かな」
玲「……どういうことだ？」
奏「さてと、新曲完成！」
奏「これが俺の愛だよ……兄貴」
(場面転換、背景ステージ)
紫「遥の曲も奏の曲も、出揃って良かったなあ？　玲司？」
玲「全くです……。あれから急いで練習をして仕上げて
玲「……紫夕、次回からこういうお遊びをする際は前もって教えてください。スケジュールを組むのに苦労するんですから」
紫「はぁ？　前もって言ったら、おもろくないやろ？」
玲「あなたって人は……」
玲「よし、そろそろ準備は良いか。唯臣」
唯「うん」
玲「遥、奏。ライブの前だ、喧嘩はするなよ」
遥「わかってるっつの」
奏「はいはーい」(近寄る足音)
奏「とうとうライブ当日。どっちが勝つか楽しみだね、兄貴」
遥「勝手に言ってろ。表面だけ取り繕った曲に負けるわけねぇ」
奏「ふーん、それはどうかなぁ？　俺、本格的に作曲やってみるのもアリかなーって思ったよ」
遥「！(詰まる声)」
奏「あの時は否定されちゃったけどさあ、もう一回聞いていい？」
奏「俺は兄貴のライバルになれる？」
遥「……俺の答えが分かってて聞いてんだろ。なれねぇよ、猿真似野郎が」
奏「……(短い声)」
唯「ねぇ、紫夕くん」
紫「どうかしたん？　唯臣」
唯「紫夕くんは遥くんの曲と奏くんの曲、どっちが盛り上がると思う？」
紫「さあなぁ、そんなん演奏してみんと分からへんわ」
紫「どっちにしろ、僕が楽しめるライブになりそうやなぁ。じゃあ、行こか？」
(演奏)
紫「こんにちは、イプシロンファイや。今日はいつもと趣向を変えたライブになっとるから……来られたおにーさんおねーさん達はラッキーやなあ」
紫「ふふっ……僕も、ちょっぴり楽しみやったわ。なあ、奏？」
奏「うん、俺はすっごく楽しみだったよ！　みんなに聞いてほしい曲もあれば、メンバーがどんなふうに弾くのか、見てみたい曲もあるからね」
奏「じゃ、次の曲行くよ！　I'm picking glory」
(演奏)
紫「おおきに。楽しい時間はあっという間、次の曲で最後や。ほんま悲しいわぁ……なんてな。遥も寂しい言うとるで」
遥「はぁ？　んなこと言ってねぇだろ。……ただ、次の曲は最後まで聞いて行ってくれ」
遥「行くぞ。……オルトロス」
(演奏、場面転換)
奏「楽しかったね、兄貴」
遥「別に」
奏「俺たちの曲ってさ、すごく似てるよね。兄貴も気付いたでしょ？」
遥「いや、俺の曲とお前の曲は全然違う。根本から何もかも」
遥「もし似てる部分があったとしたら、それはお前が真似てるだけだ」
奏「……(短い声)」
遥「俺とお前は違う。俺は、それを音楽で証明してみせる」(立ち去る足音)
奏「……そっか」
(場面転換)
唯「今日のライブ、盛り上がったね。勝敗は結局よく分からなかったけど、遥くんも奏くんもいつもと違った」
唯「ねえ、紫夕くんはどっちが勝ったと思う？」
紫「はぁ……どっちもどっちやわ」
唯「どっちもどっち？」
紫「そう。遥は奏に勝ちたいだけ、奏は遥のライバルになりたかっただけ。ただ、小鳥が二羽……狭い鳥籠の中で喧嘩してただけの話や」
紫「どう衝突するか楽しみにしとったけど、なんや……大したことなかったわ。期待外れ」
唯「そっか……二人とも紫夕くんにとっては玩具でしかないんだ」
紫「そらそやろ。あんたもやで？　唯臣」
唯「僕も？」
紫「何考えてるか分からんあんたの頭ん中……そのうち全部暴いたるわ」
唯「それは怖いなぁ……」
紫「ふん、まあええ。ふふっ、次は誰と、どうやって遊ぼかなぁ」(笑い声)