―1―
ガシャン、と割れるガラスの音。
カーヴェの足元に写真立てが落とされた。木枠を恐る恐る拾い上げてみるとそこには在りし日の幸福に微笑む父と、母と、それから幼い顔をした自分。
ものが壊された時にはどうすれば良いか、その答えは彼の骨身に染み付いていた。カーヴェは靴底がガラスを踏むのも厭わず駆け寄り、目の前の緑色の布地―学者の母がよく履いていたロングスカートに短い腕を回して懸命にしがみ付いた。
「ッかあさん、やめて、やめてよ!」
「離しなさい、カーヴェ!」
「だいじょうぶだから、ぼくが、かあさんがこんなことしなくてもさみしくないようにがんばるから…っ!」
「っ、あんたに私の何がわかるって言うの!」
母はカーヴェの小さな体を突き飛ばした。へたり込んだ彼の肩に強張った細い指が食い込む。
6060