第一歩______お付き合いエピ(?)
(致命傷おっておきながら尚、自分で刺してるから生きてるはずないんだけど本当に奇跡的に助かったってことにしたい。未来を見たいっていう切な願い。)
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体の芯から凍えそうなほどに寒い十一月半ば。年々寒くなっているとニュースで言われているがそのうち地球はバグってしまうんじゃないか。むしろバグって自分だけの時が戻るとかそんなことあればいいのに……なんて夢物語に近いことを寒い空気から身を守るようにして湯船に浸かりながら考える。
「はあ……もうすぐ誕生日か。」
幼い頃は誕生日は毎年楽しみなものだったが、今となればそれは違う。体を湯船に沈ませ口半分まで沈ませるとぶくぶくぶく、と空気を履いて水面を揺らす。今何やってるのかなぁ、リビングで待ってるあの子は…こんな時でも脳内にいるのは圭介の事で自分が酷く彼を溺愛してしまって居るのが改めて実感できる。
出会った頃から年の差というものは目に見えていた。
ハロウィン時期私は18歳、彼は中学生の14歳だった。4年というと、小学校入学して高学年になるくらいの年月が有る。とは言っても、血だらけで生死を争っていた彼を助けただけであって最初は年の差なんてあってもないようなものだった。
でも、彼がお礼を言いたいと私に会いに来てからというもの、最初に出会ったきっかけにもなるコンビニへ向かう道で良く顔を合わせるようになった。会うからには声をかけないのも違うので、「また、あったね、偶然と」と声を掛けると「……うっす、」と少し歯切れの悪い返事をされたのが1度あった。敬語なんて使い慣れてないのか、ぎこちない事が多かった為、使わなくて大丈夫だと伝えると直ぐに外してて切り替えの速さに思わず笑ってしまった。会う度にわかる彼の新しい顔に、普段引きこもりがちで人となんて話してこなかった私はそのひとときがかけがえのないものとなっていた。
会う回数も増えてくると、お互いに偶然だとも思わなくなり、私も会えることを期待して“あの場所”に出向いたりしていた。
そんな中、会話が長引いていつの間にか夜遅くなってしまった時があり、彼が家までバイクで送ってくれて、気分が昂っていた私は、
『私一人だし、夜遅いから泊まってく?』
なんて声をかけた。
「…でも、……いや、泊まる」
少し迷っていた様子だが、目を泳がせた後、小さく頷いて了承した。
『いつもひとりで寂しいんだよね、まあぼっちも慣れれば都だけど。』
「悲しいヤツ」
『今は圭介と話せてるから悲しくないんだよ』
「……」
『あれ?引かれた?』
「……_やるよ」
『え?』
「ヒマな時家来てやるよ」
それ偉そうに言うセリフなのか?とも思ったが、実際彼と話せる時間が増えて、傍に居られるのなら好都合だな、と考えて、その言葉に甘えることにした。
『……はあ、可愛い推し』
「なんだよそのオシ?って」
伊達に陰キャオタクをしていない私は、家に来るようになって何週間かたっても、さらに距離が近くなり気が許せるようになった状況で、明らかなる恋心には気づいていなかった。むしろ好意そのものを憧れやもっと別の何かとして片付けていた。これも年齢のことを無意識に気にしてたのかな、なんて今となって思う。
だが、無意識な誤魔化しも限界まで行けば無意味になる。
きっかけは彼からの「暫く来れねーワ」と言う言葉。毎日のようにあっていることの方がおかしいが、それが事実であり日常だった。何か用事があるのかな?とその時はあまり何も考えず了承をしたが、本当に何日も何週間も顔を出さない彼に内心とても焦っていた。何をしているのだろう、何処かでまたトラブルに巻き込まれていたらどうしようか、怪我はしていないか、______女の子に会いに行っているのではないか。
抑えきれない不安にかられて思わず家を飛び出した、長い時間探し回ったけど彼を見つけることは出来なくて、気づくと吸い寄せられるように彼とよく話をしていたコンビニの近くに来ていた。歩道サイドのガードレールに腰をかけてスマホ画面を開く。もしかしたら彼からの連絡が入っているのではないかという、淡い期待を持ちながら……。当然入っているはずもない連絡に肩を落とすと「赤糸……?何やってんだこんな時間に」後ろから聞こえる聞きなれた彼の声に勢いよく振り返り、彼だということを確認すると駆け寄って、抱きしめていた。
『……ごめん、心配で心配で』
「……おう。」
『来れないってわかってたのに……』
「……赤糸」
『ごめん、……でも無事でよかった。』
無事でよかった。心からそう思った。慣れない手つきだが背中に手を回して抱き締め返してくれていた彼は本当に優しいと思う。
ここでやっと気づいたんだ、彼への思いは紛れもない恋心なのだと。
その後はお互い気まずくなって暫くの沈黙、「家まで送ってく、」と言う言葉がそれを打ち切ってくれたがそれからまた沈黙が続いた。年下に送ってもらうなんて、勝手に夜遅くまで出歩いておいて最低な女だとつくづく思ったが、それ以上に彼の近くにいられる嬉しさが勝っていた。家の前でバイクを止めて、私が降りるのを待つ彼に後ろから問いかける。
『ねえ、来れなかった理由って聞いても大丈夫かな?』
彼女でもないのに何を聞いているんだか。
「…………家に行き過ぎてもお前が自由な時間出来ねえだろ。」
数秒言うか迷った様子だったが、彼の口から出た言葉は想像の斜め上だった。
だって思わないだろう、私に気を使って離れていくなんて。嬉しいが、これのせいで話せる時間が減るのは悲しいと思い、『圭介が来てても自由に過ごせてるし、私は圭介が近くにいない方が寂しくてたまらないな、』と思っていることをそのまんま口にした。
その言葉に嬉しそうに揺れるしっぽが見えた気がした。
「じゃあ、前と変わらずに行くことにする、」
本当にそれからは以前と変わらず家に来るようになり、前よりも彼を溺愛した、元々の接し方の延長戦で好意も冗談として捉えられるのは好都合な反面少し寂しかった。
この辺りから、彼と釣り合うこはもっと若くて可愛い子なんだろうな、だとか。恋愛対象には入らないのかもしれない、等と年齢や自分の立場を気にするようになってしまった。
ぶくぶくぶく……
過去の出来事を思い返しながら、湯船で吐いた気泡が上へと逃げていく。まるで私の恋心みたいだよね、なんて、
つまらない冗談でさらに自分の傷口を抉る。
「……私、今年で20歳かぁ……圭介は……」
16歳か〜〜〜〜〜〜〜!!!!これ犯罪じゃない?私犯罪犯してない?……あまりの衝撃に顔を思いっきり湯船の水面に打ち付ける。
悲しみに打ちひしがれながら風呂を上がって、体を拭いて服を着る。髪の毛をバスタオルで拭きながらリビングへと戻ると、あの時からほぼ毎日私の家に来ている彼、場地圭介がソファに寝転がりながら自分の家のようにくつろいでいる。そんな彼も可愛くて愛おしくて仕方ない。
いつもと変わらない日常で今日もまた淡い想いが私の中だけで蓄積されていくのだろうな……そう、思っていた。
彼の寛ぐソファの前に座ると、彼の髪に手を伸ばしてみる。「なんだよ、いきなり」彼は既に私の前に風呂に入っていたため、自分と同じ匂いがして、それでまたなんとも言えぬ優越感に満たされている自分が気持ち悪い。『ううん、触り心地確かめただけ』この気持ちが悟られてしまったらきっとまた……。
トラウマのように焼き付くあの日のように、彼が出ていってしまうのが怖かった。手が震えてしまいそうで彼から手を離すと、どこか不思議そうに見つめてくる様子に眉を下げていつものように笑う。
『ねえ、何食べたい?私料理作れないけど』
「作れねえやつが聞く言葉じゃねえよ、」
『ペヤングだっけ?それなら買ってきてあるよ』
「マジ?じゃあそれ食うわ」
彼が好きな物は何となく把握しているつもりだ。本来なら手作り料理を食べさせる場面なのだろうが料理ができない私には出来ない。
自分の無力さをかみ締めながら、ペヤングで喜んでくれた彼の為に腰を持ち上げて台所へ向かう。
ペヤングを棚から出して封を開けると予め沸かしておいて置いたお湯を容器に入れ、あとは待機するだけだ。
待っている間は特に何もすることも無く、今は彼の元へ戻る余裕がなかったため、ぼうっと時間が経つのを待つ。
なんで恋しちゃったのかな。不釣り合いで、彼にはもっと良い人がいるはずなのに。
そんなことを考えていると鼻の奥がツンとする感覚、視界が少しぼやける感覚に目を擦り鼻をすする。
「……なあ、赤糸、泣いてンのか?」
どうやらただ待っているだけなのも悪いと思って見に来てくれたみたいでそれが丁度タイミング悪く、今だった。
『い、いや、泣いてないよ!最近風邪ひいててさ、』
「じゃあなんで目赤いんだよ」
『涙腺と鼻繋がってるみたいだから』
「無理があんだろ、教えろよなんでだ」
頑なに後ろを向かない為腕を掴まれて彼の方へ強引に向かされる。
彼は答えるまで譲らないらしく、絶対に言うつもりはなかったが自分ももう限界に近かったため一つ一つ言葉をこぼす
『好きな人がいるの』
「……ん、好きな人がどうしたんだ」
『歳が離れてて』
「おう、」
『私の方が年上なのに、何も出来なくて、不釣り合い』
「それで?」
『もう、諦めよっかなぁって……離れた方がいいんじゃないかって』
話しやすいように相槌をうってくれたお陰でちゃんと言うことが出来たが、出る声は驚く程に弱々しく震えていた。
私の言葉に彼は優しく抱きしめて
「なら、俺にすればいいじゃねえか」
なんて、彼の口からそんな言葉が出るとは思っていなくてとても驚いたが、それ以上に嬉しさが勝って、心臓がキュッと締め付けられた。
私は大きく目を見開き彼の肩に顔を押し付けて『それなら、失恋しないですんだや』と涙を流す。
その言葉に鈍感な彼も気づいたらしく、それ以上に優しい彼は眉を寄せながら「わりぃ、お前の事……」なんて口にするから首を大きく横に振って、彼のせいではないことを伝える。
暫くして涙が止まると、彼はそっと私から体を離して真剣な顔で向き合う。その表情に少しの不安と、期待が募る。
「赤糸、」
ああ、来た。
私はどちらでも受け入れるつもりだった。
「俺と付き合ってくれ」
『……はい!』
その言葉は夢にまで見た、彼との未来へ繋ぐ鍵。
少し上ずり気味の声で返事をすれば再び優しく抱きしめられる。
あーあ、せっかく作ったペヤング伸びまくってるよきっと。でもこればかりは大目に見て欲しい、この幸せな時間を堪能していたいのだ。
人生は上手くいかないことばかりじゃない。自分は上手くいくことの方が少なかったがその中で見いだせた幸せを大切にすれば、きっといつかどんな形であろうと実らせることが出来るのだ。
この後伸びに伸びまくったペヤングを2人で半分こして食べたのはまた別の話。