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    ★【text / 嶺蘭←モブ♂視点。】
    報われない夢小説もどきの独白(改)。
    二人がずるい大人です。
    黒崎◯丸に狂わされた(モブ/主)が寿◯二の存在によって儚く散りゆきたいという願望を含みます。上記の性癖を含む方はDCになった気持ちでお読みください。

    母なる大地より広い心でお願いします。

    *** 成人して間もなく実家が引っ越すことになり、大学の下宿先から荷造りに駆り出された。
     今は使われていない子供部屋の荷物を整理するために押し入れを開くと、そこにはケースに入れたまま放置された古いベースがあった。中からベースを取り出し、チューニングがされていないゆるんだ弦を指で弾いて歪んだ音を鳴らす。
     当時中学生だった自分がベースと共にしまい込んだ、稚拙な熱の記憶。

     誰もが彼の特別になりたいと願った。


          「唯一の男」


     僕の祖母は今時珍しい古びたアパートの大家をしている。祖母の管理が行き届いているのか築年数の割にアパートは小綺麗で、立地もいいので長く居住している人たちが多いようだった。
     住人には単身者が多く、その中には不釣り合いにも元バンドマンで今はアイドルをしているという不思議な経歴を持つ男性が住んでいた。
     名前を黒崎蘭丸さんという。


     月に何度か黒崎さんのオフに合わせて、一時間だけ彼の部屋でベースを教えてもらうのが最近の僕の楽しみだ。
     僕の初心者用のベースと比べて黒崎さんの家にあるものはどれも高価なものなのだろう。黒崎さんはそのベースたちを大事そうに手に取り、力強くも繊細で重厚な音を奏でる。
     器用に動く長くて楽器慣れした硬い指先。自分とは違う大人の手は大きく、浮いた節や血管がセクシーでいつも見とれてしまう。
     初めは怖そうな人だと思ったけれど、野良猫に餌をあげる時の表情が穏やかで、ふわりと撫でる手が優しいことを知った。黒崎さんの手はその時々で表情を変える。
     まずは孫の僕が音楽好きで、楽器に興味があることを祖母が黒崎さんに話したのがきっかけだった。自宅から電車で二駅ほどの距離にある祖母のアパートに遊びに行って、偶然顔を合わせる度に少しずつ黒崎さんと話す回数が増えていった。
     誕生日に親からベースを買ってもらったことを報告すると「持ってこいよ」と言って、ベースと機材だらけの部屋へと上げてくれた。
     兄貴ができたかのように嬉しかったが、このことは学校の友達には秘密だった。だって絶対会わせろって言ってくる。黒崎さんとの時間を邪魔されてしまう。
     それはどうしても嫌だった。


     雨の日、約束の時間に黒崎さんの帰宅が遅れたことがあった。忙しい中で時間を作ってもらっているのはこっちの方だし、祖母の家で待機していたから気にしていなかったけれど、「わりぃな」と言って大きな手でポンと頭を撫でてくれた。僕だって成長期で身長が伸びてきたというのに、黒崎さんにはまだまだ届きそうにない。
     黒崎さんはさっきまでテレビ局で番組収録の仕事だったらしく、改めてこの人があのQUARTET NIGHTの黒崎蘭丸だということを実感する。芸能人なのに移動手段に自転車を使うところなんて、テレビに映るかっこいい姿からは想像ができないが、プライベートの意外な一面に唇がゆるんでしまう。
     しかしその日は雨が降っていたにも関わらず、黒崎さんは全く濡れていないようだった。

    「雨大丈夫だった?」と聞くと、
    「あぁ、そこまで車だったからな」と答えた。

     その時はタクシーやマネージャーさんの車で送ってもらったのかな、と大して気にも止めていなかったけれど、唇だけは少し濡れていて不思議と目を背けたくなるくらいに扇情的だった。


     また別の日に部屋を訪ねると、黒崎さんはシャワーを浴びたばかりだったのかスウェットに上半身裸のまま、タオルで髪の毛を拭きながら出迎えてくれた。
     「わり、今日だったか」とバツの悪そうな顔をして「散らかってるから少しここで待ってろ」と言いながら部屋へと戻り窓を開けた。
     玄関先からちらりと部屋の中を覗くと、思いのほか几帳面な黒崎さんには珍しく床に衣服が散乱していた。「ったく…」と、僕ではない誰かに悪態をつきながら衣服を拾う姿に、先ほどまで誰かがここへ来ていたのだと直感する。
     さらにその脇腹や胸のあたりに虫刺されのような痕を見つけてしまい、明らかに服の下で隠れる部分に散らす意図が感じられるそれに、彼がここにいた人物と今まで何をしていたのか、分からないほど僕も初心ではない。
     すっかり上半身に服を着ていた黒崎さんに「黒崎さんって、彼女いたんだ?」と聞けば一瞬、虚を衝かれたような顔をしたが、「は……いねぇよバーカ」とくつくつと笑って「マセガキが」と、僕の額を長い指で弾いてデコピンをした。
     それが子ども扱いを助長させているようで、額よりも鳩尾の部分がひどく痛んだ。
     黒崎さんの仕事、黒崎さんの彼女、黒崎さんは自分のことはあまり話さない。僕は黒崎さんのことを何も知らない。
     黒崎さんの全てを知りたいと思った。


     その白い肌に、その長い指に、いつもはセットされているが今は湿ってふわりとした銀色の髪や長いまつ毛に触れたい。
     ファンを魅了し、誰もが求める彼の特別になりたい。
     この熱く渦巻く気持ちを何と呼べばいいのか分からない。うつむきながら「子供じゃない」と呟いたひと言が黒崎さんに聞こえたのかは分からないが、黙り込んだ僕の様子に体調でも悪いと思ったのか「どうかしたか?」と聞いてきた。
     表情を伺うように至近距離に近づいていた黒崎さんのオッドアイに驚いた僕は、思わず下ろしたばかりのベースの入ったケースを手に取り、その場から逃げるように立ち去っていた。




     同世代の女の子にも芽生えたことのない初めての感情は、恋と呼ぶほど綺麗ではなく、欲と呼ぶほど手軽に処理できるものではない。もっと崇高で守りたい熱だった。
     寝ても覚めても黒崎さんのことばかり考えてしまう。
     悩んだ末に僕はこの想いを黒崎さんに打ち明ける決心をした。否定はしていたが彼女のような存在がいることは確かだ。あの力強い腕に抱かれる女性はきっと幸せだろう。
     でも僕が求めるのはそれじゃない。僕は彼にとってただ一人の男としてその肌と心の柔らかい部分に触れたい。すぐに受け入れられようと思ってはいない。けれど、何故だか拒絶だけはされないという根拠のない自信があった。時間をかけて、彼の懐に入り込めればいい。僕にベースを教えてくれたように。大丈夫。
     そう己を奮い立たせ、黒崎さんとの約束の時間にアパートへと向かった。


     アパートへ到着すると、いつも自転車を停めている狭い駐車場に緑色のレトロな車が停まっていた。
     以前から祖母に近くのパーキングが空いていない時には住人に貸しているということは聞いていた。どの部屋の来客かは分からないが、よくメンテナンスがされているピカピカな車だし、僕は車体に傷をつけないよう車の隣に自転車を停めた。


     黒崎さんの部屋の前に立ち、深呼吸をして呼び鈴を鳴らす。ビーという古いアパート特有の音がして少しすると、いつも黒崎さんが「よぉ」と出迎えてくれる。前回は変な空気のまま別れてしまったけれど、きっといつもと同じように扉を開いてくれるはずだ。
     体の内側から漏れ出しそうなくらいにうるさく鼓動する心臓を手のひらで押さえながら、うつむいて強く目をつむる。
     早く彼の声が聞きたい。早く、早く出てきて。


    「はいはーい、……って、あれぇ?」

     しかしガチャリと玄関が開く音と共に耳に飛び込んできたのは待ちわびていた低い声ではなく、少し癖のある間延びした別の男のものだった。
     顔を上げるとそこには黒崎さんではない、くっきりとした瞳と意志の強そうな眉が印象的で、人好きのする甘い顔立ちの男性が立っていた。男性にしては少し長くてカールされた茶色の髪の毛……。
     ——寿嶺二。彼を知らないはずがない。
     固まっている僕をよそに一方的に状況を理解したであろう寿嶺二が「いらっしゃい」と微笑む。僕の背中には変な汗が流れて、足元に根が張ったかのようにその場から動けずにいた。
     寿嶺二が裸だったからだ。下には前回黒崎さんが穿いていたスウェットを身につけていたが、彼からは少しだけ汗と香水の混じった匂いがしたので風呂上がりではなさそうだった。
     同じグループのメンバーが家に上がることもあるだろう。男同士、服の貸し借りもするし暑かったら上の服くらい脱ぐかもしれない。まだ少し肌寒さの感じる季節だというのに僕は必死に思考の逃げ道を探した。
     だがそんな一縷の望みは一瞬にして打ち砕かれる。
     寿嶺二が部屋の奥にいるであろう黒崎さんに声をかけようと、後ろを向いた瞬間“それ”はあった。
     くっきりと背中に残る爪の痕。少しだけ滲んだ血は赤く、微細な皮膚が白く浮いた様子からそう時間は経っていない。それは見ているこちらからすると痛々しくもあり、そこにあるのが当然のようにしっくりと、この男へと与えられた印にも見えた。
     部屋の奥から顔を出した黒崎さんが「今日は余計なヤツがいるがいいか」と僕に聞いてきた。「ランランから呼び出したくせにーっ」と繰り広げられる会話から、二人が気の置けない親密な関係だということは手に取るように分かる。それらをただ茫然と眺めていると、僕の中に宿っていた黒崎さんに対する一方的な熱がひどく侘しく、場違いに思えた。
     そしていつも着ている服よりもゆるめのタンクトップを身につけた黒崎さんの白い肌には、寿嶺二の爪の痕と相対するように、前回見てしまったものよりも作為的につけられたと感じる、濃い痣に近い鬱血が覗いていた。
     これは紛れもない牽制だった。
     黒崎さんは気付いていた。
     僕の孕んだ熱に。
     だからあえて、僕との約束の時間に合わせて寿嶺二を呼び出した。
     大切なベースを弾き、優しく猫を撫でるあの手で、自分にとって唯一の男の肌に爪痕を刻みつけた。

     僕にとって永遠に叶わないそれは、彼の奏でる音楽のように真っ直ぐで美しく、燃えるような赤だった。


    【蛇足】
    タンクトップから見えそうな際どい部分にキスマークを嶺二につけさせたのはランラン。その意図が分からなかった嶺二は(モブ/主)が来た瞬間、(モブ/主)がランランに対して熱を孕んでいることも、ランランが自分を使って(モブ/主)の濡れた想いを遠ざけようとしたことも察して乗っかってあげた。ずるい大人だ……。
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     今は使われていない子供部屋の荷物を整理するために押し入れを開くと、そこにはケースに入れたまま放置された古いベースがあった。中からベースを取り出し、チューニングがされていないゆるんだ弦を指で弾いて歪んだ音を鳴らす。
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