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    kinoiaki_2021

    @kinoiaki_2021

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    kinoiaki_2021

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    歌手パロK富

    の、配信ライブ実況をする概念のK♀富♀みたい(?)な雰囲気(?)のモブ女子ーズ視点です。

    どんな世界線でも医療に対する敬意を持ち続けて欲しいなの気持ちで書きました

     2023年11月23日。
     祝日だというのに職場から呼び出しを受け、それでも大事な用事と時間が被らなかったことに神に感謝しながら、最寄り駅の階段を急いで降りる。
     手には電車待ちの時間で買ったシャンパン。目についたそれを引っ掴んだ私は、さぞ相当な事情のある女に見えただろう。

     相当な事情といえば事情だ。
     推しの3年ぶりのライブである。ネット配信ではあるけれど、三年前にコロナにより中止になったライブ以来だ。
     初報が出た時のSNSでの盛り上がりは、検索トレンド欄を関連ワードで埋め尽くすほど。

    『皆さんお久しぶりです!富永研太です』

     告知動画と題されて投稿されたそれの始まり、何でもない名乗り文句で涙ぐんだぐらいだ。
     ふた月前に出たアルバムで、新しい歌声は聞いていた。けれど、動画で動いているのを見るのは久しぶりだったので。

    『それからこちらは…ーーみなさんご存知ジャズボーカリストのKです!いや〜、今日は忙しい中すいません』
    『いや。口下手なものでな。こういう告知ではお前と一緒だと助かる』
    『わはは、僕もアガっちゃってあんまり得意じゃないんですけどね。ではまず先に…ーー』

     私の推し、シンガーソングライターの富永研太と、ジャズボーカリストのKが、親友と言っていい仲であるのは、両者のファンにとって周知の事実だ。
     ポップスとジャズ、畑違いが故に、競演などの機会は少ないものの、ライブでゲストとして呼ばれたり、取材などでは良く互いに名前を挙げていたりと、つまりまあ、そういう仲だ。

    『じゃん!2ヶ月前にリリースしましたカバーアルバムの宣伝です!僕の方はファンの人に個人的にオススメしたい〜って曲多めですね。Kの方はカバーアルバム三枚目だったかな?』
    『そうだな。私の方は映画の主題歌など中心に、ジャズに馴染みのない方でも手を取っていただきやすいように選んでいます』
    『こちら二枚とも、売上の10%をコロナ禍の医療機関への支援金として寄付させて頂きますので、よければぜひお願いします!』

     富永くんのこなれた宣伝に、Kの深みのある低音が続く。推しと推しの仲良しのやりとり、健康に良すぎる。
     
    『で、ですねェ。本日の本題ですが!今年の秋、Kと配信デュオライブさせて頂くことにしました!』

     えっっっっっ。
     思ったのと同時に、ファンのSNSでもそれについての投稿が目立ち始める。

    『元々、Kが医療機関への支援としてカバーアルバムを出し始めたじゃないですか。今回まぁ、僕がそれに乗っからせてもらったので、2人で何か出来ないか、ということで、ね?』
    『とはいえ、コロナウイルスが消えたわけではないからな。あまり大規模なライブなどになれば、支援どころか逆に迷惑を掛けかねない』

     思わず真面目すぎて感動しそうになった。うんうんと頷く富永くんも同意見なのがわかって、推しが真面目で良かった〜!と世界に感謝した。

    『ですね。なので今回は試験的に、ということで、少人数の招待客を入れつつ、一般公開はネット配信ということで。…でも招待客のリスト見たら豪華すぎて、ちょっと緊張してきたんですけどォ』
    『お世話になっている方々をお呼びしたら、そうなってしまったな』
    『もう観客席映してた方がよくない?ってぐらいで。配信でご覧になる際は、そちらも楽しみにして頂けたら!』



     それが、今日なのだ。当番は18時までだったけれど、14時に呼び出されて今、である。開演は19:00。時計は18:48。
     ガチャガチャとバッグの中を漁って、鍵を出す。開けて、閉めて、鍵を掛けて、靴を放り投げて。

    「まっ」
    「間に合ったよ」

     私の息も絶え絶えな呼びかけに、答えてくれたのは、同居人の彼女だ。
     私の研修先にいたのが、二年先輩の彼女だった。
     最初は近寄りがたい人だな、と思っていたのだけれど、仕事に真面目な人なんだと気づいてからは尊敬の目で、同じ雑誌を買っていることに気づいてからは音楽好き同士でよく話すようになり、そうしてコロナをきっかけに、同居することになった。

     彼女はKのファンで、このライブを待ち遠しく待っていたのを、互いによく知っている。

    「仕事は?」
    「バッチリです!後のことはちゃーんと引き継いできましたから!」
    「フフ。さすがね」

     ついつい、職場が別れた今でも彼女には敬語で話してしまう。同居人、という以上に最も尊敬する先輩なので。

     ひそやかな話し声の響く画面を見る。
     同居を決めた時に買った4Kの大型テレビに、オーディオシステム。キッチリ準備してくれていた彼女に礼を言って、うがい手洗い、着替えをパパッと済ませる。洗濯機に服を全部詰め込んで、蓋をパタン。いつもならすぐに洗濯するのだけれど、今日だけは後に回す。
     居間に戻れば彼女が宅配で頼んだオードブルを並べてくれているところだった。これも、と玄関に置き去りにしていたシャンパンを渡せば、彼女は相好を崩して受け取ってくれた。
     いつもの定位置に落ち着いて、ドキドキしながら開演を待つ。
     会場はおそらくホテルの宴会場だろう。昭和の頃には何百人も招待客を入れて芸能人が結婚披露宴をしたような。
     客は100人程度だろうか。それぞれがドームを埋められる歌手のデュオライブにしては、本当に身内だけのという規模。
     各々好きな飲み物を飲みながら、主役の到着を待っている。これはいいな、自分もその席にいるみたいな気持ちになれる。

    「あ、高品龍一」
    「え、どこどこ?あ、ほんとだ。龍ちゃん一緒だァ」

     彼女の方は映画監督の父に、私の方は若手俳優の息子に目を惹かれるのだから、私たちの趣味の違いは歴然としていた。

     そんなこんな彼女と来賓客の顔と名前であれやこれや言っていれば、バンドメンバーが登壇する。
     Kのバンドを率いるのは、ベース担当でバンドリーダーでもある寺井さんだ。丸丸として可愛らしい彼のことをエンジェル、と呼ぶファンもいるらしい。
     一方、曲調の幅が広い富永くんの方は、決まったバンドメンバーを持たない。けれど、ライブで見た顔が並んでいるから、信頼した相手に任せているのだろう、とわかる。

     寺井さんが中心に2つ並んだマイクの片方に立つ。

    「みなさんお待たせしました〜。そろそろ開演…ですが、その前に先にご紹介してくださいと、主役の二人から仰せつかってますので…技術スタッフ集合〜!」

     寺井さんの号令で、左右から照れた顔のスタッフたちが集まる。

    「Kのマネージャー、麻上です。今日は、みなさんお集まり頂きありがとうございます」
    「富永のマネージャー、堀田です。今日という日を迎えられたのも、ひとえに皆様がたの応援あってのことです、スタッフ一同、感謝いたします」

     二人の言葉を合図に、一列になったスタッフが一気に頭を下げる。まだ歌も聞いてないのに、泣きそうになってしまった。
     私たちだけファンだけじゃなくて、スタッフもみんな、この日を待っていたんだ。

    「んもォ〜固いわよ!皆様、どうかこの縁の下の力持ちたちに、激励と労いの拍手をお願いします!」

     パチパチパチパチ、万雷の拍手だった。

    「ホラホラ!瀬戸ちゃんもこっちこっち!」
    「ダメですってェ!誰が撮るんですか!」
    「牧村ちゃ〜ん、よろしく〜!」
    「ハイッ!お任せを!」
    「牧村お前ッ!」

     拍手の合間に、やんやと揉める会話があって、カメラはもう一台のカメラにズームする。マスクをした男性のカメラマンが鼻を啜る姿がそこにあった。

    「ちくしょうやめろって!お前の泣き顔も円盤に入れてやるからな!」
    「それこそやめてくださいよもォ〜!」

     配信用のカメラを牧村と呼ばれた女性カメラマンが、記録用のカメラを瀬戸さんが撮るようだった。
     瀬戸さんは、よく富永くんの制作風景の動画で話し掛けられる名前で、こういう顔の人だったのか、と知れて嬉しくなる。

    「ハイ!ではみなさん後は主役の二人に託しましょう!スタッフみんな準備整ったら合図よろしくね!」

     寺井さんの一言で、スタッフは散り散りになる。
     ゆっくりと拍手が引いて行って、続く音はチューニングの音へ。
     左右に配置されたロックバンドとビックバンド、その音がやがて、一つに合流していく。

    「ラヴェルのボレロ」

     すかさず解説してくれたのは、彼女だった。半ば画面の中に入り込んでいた私の意識が、隣の彼女に向く。

    「こんな感じだったっけ?」
    「すごいアレンジ入ってる。でも…うん、好きだな」
    「うん、私も」

     期待感で、否応なしに気持ちは高揚した。
     ジャンル違いのバンドがこんな風に一つの音楽を、しかもどちらも得意としないクラシックの名曲をアレンジで合わせて来ているのだ。ここにあの二人の声が乗ったなら。

     特徴的なリズムが繰り返す。トットトトット、繰り返すリズムは、いつでも準備万端と皆に伝えているようで。
     最初は小さかった音が大きくなる。再びマネージャー二人がやってくる。ステージ下で顔を合わせて、握手して、二人同時に頭を下げれば、再度の拍手。そうして曲が変化する。終わりの一音へと。

     終わりと共に、パッと照明は落ち、拍手は止まった。

     しばらくの暗闇と静寂。
     それを破ったのは、低く甘やかな声。
     一曲目だ。



    01.FeelingGood



     曲名はすぐにわかった。Kの三枚目のアルバムの一曲目。だけれど、違う。

    「ねえこれ」
    「…うん。私もそう思う」

     暗闇で歌うその人の姿はまだ見えない。
     それでも聞き分ける訳がない。
     この声は。

     ーーFeeringGood

     前サビの最後、タイトル通りの歌詞を歌い終わった瞬間、明るいトランペットの音が飛び込んで来た瞬間、パッとスポットライトが当たる。

    「富"永"く"ん"!!!!!!!」
    「落ち着いて」

     拍手に出迎えられて、富永くんが笑顔でステージの中央までステップを踏む。
     うわうわうわ。三つボタンのスーツにドレスシューズ、そんなセクシー系もやるんですか!?

     正直ほんとうに驚いた。服装もそうだけれど、歌だ。爽やかな歌声というパブリックイメージが圧倒的な富永くんが、そんなセクシーな歌い方をするなんて。
     これはもう本当に一曲目からやられた。一曲目どころか、スタッフ挨拶からもうやられっぱなしだけれど。



    「みなさんこんばんは!配信の方も無事に見られてますかね?」

     吐息すら歌の一部に変えたとは思えない、普段通りの調子でトークを始めた富永くんに、安心したような、惜しいような。そんなドキドキを引きずった気持ちで食い入るように画面を見つめる。

    「一曲目はKのアルバムから一曲歌わせていただきました。いや〜めちゃくちゃ緊張しましたよ〜。ただでさえ元曲がアレで、しかもKが歌っての僕でライブ一曲目ですよォ!?」

     会場から笑い声が起きる。富永くんのこういうところがいいな、と思うところだ。演者と客席の距離を、魔法みたいに縮めてしまう。

    「まあそんなこんな話は、Kを迎えてからにしましょうか。僕はコーラスに入りますね」

     そう言って、富永くんはコーラスの列に加わる。隣に並ぶのはKの弟子たちだった。黒須一也、宮坂詩織、和久井譲介。
     まだ学生ながら、ネットで活躍を始め、それぞれファンのついている三人だ。その3人がコーラスをやるのだから、まったくもう豪華としか言いようがない。

    「それではみなさん、お迎えしましょう。僕の師にして友、ミスターボーカリスト、Kです!」

     富永くんの、どこか芝居めいた紹介に答え、元気なトランペットが鳴り響く。
     この曲もよく知っている。富永くんのカバーアルバムに入っていた曲だ。

     でもこの曲なの!?という驚きが強くて、思わず、隣の彼女を見る。口元が緩んでいるのが隠しきれてない。かわいい。



    02.双子座グラフィティ



     軽快な音楽でステージに上がったKは、いつもの黒一色の衣装ではなく、白のジャケットに赤いシャツだった。しかも首元を緩めているのも初めてみたかもしれない。

     隣の彼女は口元をずっとムズムズさせている。言いたいことがめちゃくちゃあるだろうに、音楽を聴くのを優先させている。えらい。

     そうして始まった二曲目。
     英語の曲を中心としているKが、日本語の歌を歌うだけでも衝撃なのに、歌いだしから、もうあまりに甘くて甘くて。
     一曲目に続き、ギャップ萌えというやつだ。とんでもないな、この二人。

     ーー僕らはメロディの鳴るような恋をした

     サビのハモリに、富永くんの声が重なる。ハモリが富永くんで、コーラスが弟子三人のようだ。
     普段は全員がメインメロディーを奏でているミュージシャンだと言うのに、まるでそれを感じさせない。まさしくKのチームだった。

     途中の手拍子と共に歌うパートでは、コーラス四人が手拍子を合わせて、Kが間奏で視線をやる。その全員の楽しそうなことと言ったら!



    「ご紹介に預かりましたKです。…馴れない歌で、お聞き苦しくはなかったでしょうか」

     そんなトークに、会場では拍手が応える。

    「フ……フフ……」
    「あ、堪えきれなくなってる」
    「だって、あのKがこんな可愛い曲歌うなんて、フフ……」

     普段はKとどっこいの表情の固めの彼女が、お腹を抱えて笑う。こういうところはちょっとKに嫉妬だ。

    「いや〜最高でしたね!ついでにお察しの方もいるかもしれませんが、僕のリクエストです!」
    「一曲目は私から富永に」
    「意ッ地悪ですよね、この人ォ〜?」
    「お前が言うか」

     嫉妬はするけど、ありがとう。推しの新しい一面を見せてくれて。

    「それにお前なら曲に歌い負けないと信じていたからな」
    「はァ〜この人のこういうとこズルいですよね〜。ねェ〜?」

     コーラスの弟子たちが苦笑いで曖昧に頷く。

    「でもまあ、今回はこんな感じで色々試行錯誤で楽しんで頂けたらと思います!というわけで、次から3曲、曲は定番で、普段とちょっと変わった試みを」

     言うなり、富永くんはスタンドからマイクを引き抜いて、誰もいないピアノに腰を下ろす。

    「では、よろしくお願いします」
    「うむ」

     そう二人のやりとりが終わるやいなや、富永くんの指が鍵盤を走る。

     Take Five。スタンダードジャズの名曲。軽やかなピアノの音に乗って、Kの声が走りだす、と共に止まる。

    「富永。曲が違う」
    「アハ、そうでしたそうでした。では改めて…」

     ちょっとしたおふざけも、ライブならではだ。
     でもどうせならそっちも聞きたかったなァ、なんて思いながら、次の曲を待つ。



    03.Fly Me To The Moon
    04.奏
    05.春よ、来い



     それから、もう口を半開きで聴くしかなかった。
     最初には、Kの歌に富永くんがピアノを奏で、次には富永くんの歌にKがピアノを合わせ。
     春よ来いでは、二人の連弾。そんなのファンが喜ばないわけがない。

     ーー君が僕の前に現れた日から何もかも違くみえたんだ
     ーー夢をくれし君の眼差しが肩を抱く

     その上に、前向きな別れの歌を二本続けて来られて、二人のこれまでの道筋に思いを馳せざるを得なかった。
     今でこそ、こうやって気楽に互いの話しを取材で挙げ、デュオライブをやるまでに至った二人だけれど、一度道を分けているのだ。
     かつて学生時代にはよく二人一緒に活動をしていたという。その別れに、何があったか、詳しくは語られていない。

     けれど。
     あのKをして、あの頃は大分荒れた、と。
     あの富永くんをして、あの時の僕かなり感じ悪かったですよねェ、と当時を評すほど。
     納得ずくの別れだったけれど、それで感情を抑え込めるほど老成もしていなかった頃の二人の話は、それなりに古くからのファンには知られている話だ。



    「 連弾、どうなるかと思いましたけど、どうにかやりきりましたねェ」
    「うむ」
    「またこの人、俺にばっかり喋らせるつもりだよぉ」
    「俺とライブをするなら、予想出来たことだろう」
    「まあそうですけど。ピアノもやりきったところで、ちょっとここらでおいしい水でも飲みますか」
    「そのジョーク、何人のボーカリストが言っただろうな」
    「いや〜これ言うの夢だったんですよ」
    「ふふ…」



    06.おいしい水



    「いま何曲目?」
    「6…かな。時間経つの早いな…」

     ほとんど手つかずだったオードブルにようやく本腰を入れて手をつける。夕飯がまだだったので、乾いたサンドイッチも胃に染み渡る。

    「えーん、ずっとやっててほしいよ〜」
    「見逃し配信でまた一緒に見よう」
    「それ!それやろ!明日も休みですよね!」
    「フフ…」

     シャンパンを傾ける彼女の目元が緩む。これは私にだけ許してくれてる顔だ。

    「そ、そういえば、Kのファンになるきっかけとか聞いたことなかったですよね?何がきっかけだったんですか?」
    「Kが………似てたから」

     似てた?誰に。
     思わず胸が詰まる。
     私は、出会う前の彼女のことをほとんど知らない。

    「父に」
    「お父さんに」
    「歌が下手なの、父は」
    「はぁ」

     一気に力が抜けた。
     そしてまだ見ぬ彼女の父を思う。
     
    「それで、聞いてる内にいいなと思って、よく聴くようになったの」
    「はぁ……」
    「……こっちも聞いても?」
    「いや、私なんてミーハーですから。知ってるでしょ?」
    「うん。でもその中で富永くんを特別応援するようになった理由を、聞いてみたいなと思って」

     彼女の目が真っ直ぐ私を見る。言われて見れば目鼻立ちがちょっとKに似てるのだ、彼女は。

    「初めて患者さんを亡くした時に、聴いて」

     彼女が息を詰めた。 

    「……研修の時ね」
    「今まで、流行ってるからって何となく聴いてたのが、なんとなく、刺さっちゃって、それからですかね」

     あはは、と笑ってしんみりした空気を誤魔化そうとする。彼女は顎に手を置いてなにやら考えこんでしまったから、ごまかしには失敗したようだったけれど。

    「もし私が、医者の家に生まれず医者にもならなかったら、そういう存在になれたかしら」
    「へ?」
    「もしもの話よ」
    「いや!その時は私も医者じゃない家に生まれて、後輩としてついていきますからね!」

     ぽかん、とした顔をした彼女に、しまったすべった、と私は後悔した。
     だって、仕方がないじゃないか。例えどんな生まれで、例え性別が違って、どんな関係で出会ったって、私は彼女に教わりたいんだから。

    「フフ…」
    「ちょ…笑わないでくださいよォ……」
    「いえ。私も同じ気持ち」

     ペタリ、と彼女の肩が肩にくっつく。酔ってるのかな、甘えてくれてるのかな。そんな風に思ってドキドキした。



    「それでは、駆け足でやってきましたが、時間としては折り返しですかね」
    「そうだな。今回、曲選はほとんど富永に頼みましたが、熟考重ねた結果が出ているように思う」
    「いや〜めちゃくちゃ悩みましたよ、あれもこれもって。Kのところに話持って行った時、何曲ぐらいありましたっけ?」
    「50はあったな。時間はともかく、さすがに喉が厳しいだろうと、そこから選考に入ったが」
    「Kならいけそうですけど?」

     二人とも馴れて来たのか、トークは軽快にほどほどに気の抜けたものに。

    「ただ正直、今回のライブ、僕の調子に不安がなかったと言ったら嘘になりますからね。三年前、コロナに罹った直後は、一曲歌いきるのもままならなかったので」

     そう、三年前。
     ライブが中止になったのは、富永くん本人のコロナ罹患だった。

     コロナ流行の前から取っていた二人分のチケット。楽しみだったけれど、医者がこのご時世に人の多く集まる場所に行くのも、と彼女と話し合って、思い出に取っておこう、とアルバムの間にチケットを挟んだ。
     ライブは、開催の2週間前に、中止が発表された。
     その時すでに、富永くん本人が中止の告知が出来ないほど、悪い状態だった。それを知っているのは、彼が運び込まれた病院が、私の勤務先だからだ。
     意識不明まで落ち込んだ彼の既往歴を聞けば、元より喘息持ちと言う。歌手にとって、喉や肺にダメージを与える疾病は致命的。それ以上に一時は命すら危うい状態だった。

     そこからここまで治ってくれた、それだけで医者としては感無量だ。同僚としてもファンとしても、会場にいる担当医には感謝してもしきれない。

    「元々、医療従事者への支援の一環として、カバーアルバムの企画を出したのは富永の方で」
    「やりとりをしている間に入院と後遺症で、僕の方は遅れての参加になっちゃったんですよね。Kが進めててくれて、ほんとに良かったです」
    「それぐらいしか、お前を応援する手段もなかった」
    「びっくりしましたよ、退院もう少しですね〜ってところでもうアルバム一枚目の告知出てるんですもん。勢いでネット予約しちゃったじゃないですか」
    「できたら渡すと言っていたのにお前は…」
    「結局待てなくて配信3分で音楽配信サイトでも買ってますからね僕」
    「富永……」

     会場から笑い声が上がる。富永くんとKが、お互いにお互いのファンでもあるのは周知の事実だ。

    「まあともあれ、ここまでバッチリ治してくれた先生方、看護師さん方には感謝してもしきれないです!ありがとうございます!」

     富永くんの視線の先には同僚の姿。
     軽く会釈をした彼に、拍手が集まる。

    「それでは、次の曲に行くか」
    「そうですね次の3曲は、先生にお伺いして、お好きなアーティストから3曲選ばせて頂きました」

    07.Sign
    08.たしかなこと
    09.荒野より

    ーー残された時間が僕らにはあるから
    ーー君のために今何ができるか
    ーー僕のために立ち停まるな

     コロナ闘病中のことを聞いた後だと、その歌詞にも深い意味があるのではないかと、考え込んでしまう。

     病院の窓から、Kの姿を見つけたことがある。当時、入院病棟では、一般の見舞客どころか、家族ですら立ち入り禁止としていた。病院内も混乱していた。
     だから、窓の下から見守ることしかできなかったのだ。私がそれを見た時には、まだ富永くんは意識不明の状態だった。忙しい中で、私もずっとKのことを見ているわけにはいかなかったのだが、外来を終えて医局に戻る夕暮れ、まだKがそこに立ち尽くしている姿を見た。

     そういう相手なのだ、富永くんとKは。
     誰が知らなくても私が知ってる。寒空の中、ただ祈るために立つKの姿を。



    「いや、相変わらず圧倒的声量で押してくるじゃないですか〜!病み上がりなんだから手加減してくださいよもォ〜」
    「Kの足を引っ張りたくない!と泣きながら言っていたのは誰だったか」
    「それもう20年も前の話っスから!」

     そんな風に小突いて笑う富永くんに、いつか言ってやろうと思った。その人ほんとに君のこと好きだよって。そのうち、そう、もっとイベントを簡単に開ける世の中になったとき。
     待ってて。医学はきっとまた、そういう世の中を作るから。

    「でもここで俺は一回お休みです!次はえーとですね、世の中でイメソンってやつ流行ってるじゃないですか」
    「推し活という文化でかなり頻繁に取り上げられているな」
    「ハイ、それですそれ。ありがたいことに僕の曲で推しのイメージ曲とか、作品のイメージ曲とかで結構挙げてもらってるんですよね。そこから着想を得まして、お互いのイメソン歌おうのコーナーです」
    「ふむ」

    「公式が公式で公式の推し活してる……」
    「早口?」

     思わず混乱して口を滑らせた私に、彼女の苦笑いが届く。
     でもこれって、ほんとにすごいことじゃないか?ファンレターを目の前で朗読するみたいな話なのでは?

    「せっかくなので曲名は当日まで互いに秘密ということで、ほんとにリハでも聞かないようにやってました!」
    「本当に俺が先でいいのか?」
    「よろしくお願いします」
    「ふむ……では先に失礼するとしよう」

     富永くんがステージ上の椅子に座ったのを見届けて、Kはトークのために外していたマイクをスタンドに差し直す。
     そうして。

    「俊介、準備はいいか」

     Kが呼んだのは、彼の幼馴染で世界的ジャズピアニストの名前。
     氷室俊介。
     客席にいたのは見えていた。それでもまさか、ゲストとして登壇するとは。

    「おうよ。そっちこそ俺に食われないようにな」
    「ぬかせ」
    「えっ…ちょ……ちょちょ」
    「はっはーすまんな富永くんよ。当日まで秘密だって言われてたもんでな」
    「お…おれ…氷室さん弾く前にピアノ…ウワ……ちょ………」
    「恥ずかしがるなよ。中々よかったぜ」
    「うわ……ヒィ……」
    「富永。俺の歌を聞く前に気絶するんじゃない」
    「しません……しませんけどォ……」

     かわいそうだけど、ちょっと面白い。いつかこの三人でもコラボしたらいいのにと無責任に思うぐらいには。

    「では、一曲。親友の一番星に寄せまして」

     氷室さんの気障な言い回しは、それでもなんだかしっくりきてしまった。隣に並び立つ一等星。
     そういう二人だと知っているから。

     Kから富永くんへ。
     その一曲は、シンプルなピアノの音から始まった。



    10.You Raise Me Up



     トン、トン、と和音が続く前奏。超絶技巧で知られる氷室俊介の、素朴な音。

    ーーYou Raise Me Up

     その意味は。
     あなたが私を奮い立たせる。

     険しい頂に一人でいる時も、荒れ狂う嵐の海にいる時も。
     あなたがいるから今の自分を越えて、限界すら超えて。

     あなたがいるから。

     ただただ、歌唱力に圧倒されて、涙が出そうになる。そして、この歌を選んだ意味を。
     病院の窓の下、ひとり佇んでいたKを思う。

     あなたがいるから、と贈るならば。あなたがいなくなったのなら。それを少しでも考えなかったわけではないだろう。

     それはきっと富永くんも一緒のはずで。と、隅に映る彼の顔を見ようとした。けれど、その顔は両手で覆われていて。

     静かなピアノのエンディング。そして、静まり返る会場と、数秒置いて割れんばかりの拍手が。

     Kのこめかみを一筋の汗が伝う。それほどの熱唱。はぁ、と呼吸を一息。親友からの拍手を受けて、握手をする。
     富永くんは静かなままだった。というか顔を上げてすらいない。

    「…富永?」
    「……っふ、ぐふ、ふぇ、」

     泣いてる。いやこれ泣いてるよね!?と思わず隣の彼女を見る。神妙に頷くのを見て、やっぱり泣いてる……と呆然とした。

    「う~、もォ、これちょっと、ずるいですってェ」
    「す………すまん。泣くほどとは」

     ずび、と鼻を啜る音がマイクに入る。Kの動揺した声も。

    「あ~、もうこれ、だめです、あの、すいません、10分、15分休憩もらえますか? ぜんぜんこれ、あの、歌える状態じゃ、なくって、ほんと」
    「すみません、寺井先生、後のことは」
    「お任せを〜!それじゃ、氷室さんにはご協力頂こうかしら」
    「おっいいねぇ。それじゃさっき、引っ掛けただけのTake Fiveでも」
    「オッケ〜」

     寺井さんと氷室さんの即席のチームワークで、主役不在ながらライブは続行する。富永くんは、ほんとすいません、と涙声で謝って、まだ涙の止まり切っていない顔を抑えながら、ステージから降りていく。その後ろを、Kも頭を下げながら続く。

    「いやこれ…………リアルタイムで見れたの、ほんとすごい………」
    「まさか泣いちゃうほどとは思わなかったものね」
    「うん……」

     あの富永くんが、である。
     元々喜怒哀楽のリアクションが大きいほうではある。けれど、そう見せている節のあるエンターテイナーが、エンタメとしてではなく、自分の感情を溢れさせて泣いたのだ。

    「今のうちにトイレ行ってきたら?呼び出しかかってから一回も行ってないんじゃない?」
    「あっ…ハーイ…ご推察です……」
    「あなたいつも集中すると生活が疎かになるから」

     お母さんみたいなことを言わせてしまい申し訳ないと思いつつ、言葉に甘えてトイレに駆け込む。言われると急にしたくなるもので、この時間があってよかった、と安堵する。

    「どうですか〜?」
    「氷室さん二曲目」

     手を洗いながら聞けば、彼女の声と軽快なピアノが聞こえてくる。
     曲はおそらく、スペイン。
     変則的なリズムで、かなりの難曲だ。それを易易と軽やかに弾く氷室さんと、即席ながら合わせるバンドメンバーの実力は計り知れない。

     その技巧に酔いしれつつ、炭酸が抜け始めたぬるいシャンパンを重ねる。明日は休み、ならたまには酔う夜もいいだろう。

     三曲目、何がいいですかねぇ、と氷室さんと寺井さんが話し合っていれば、鼻の頭を赤くした富永くんと、Kが一緒にステージに戻ってきた。
     Kの赤いシャツに、皺と涙の跡が見える。

    「おっ、戻って来たか泣き虫永くん」
    「なんですかやめてくださいよ!」
    「ホストに代わってゲストのおもてなしをしていた俺に、ずいぶん言うじゃないか」
    「ぐっ…それは…ありがとうございます」
    「ま、いいってことよ。親友殿にツケとく」
    「…ここは素直にツケられておこう。皆様、お待たせしました。特別ゲスト、稀代のピアニスト氷室俊介を、拍手を以って送りだして頂ければと思います」
    「や、どうもどうも」

     へらりと笑って、氷室さんは元の席へと戻って行った。彼の席の隣はレコード会社の重鎮だ。朝倉省吾、確か氷室さんとはアメリカの音楽大学で先輩後輩だったはず。

    「いや〜ほんとすいません。みなさんお時間大丈夫ですか?みたいテレビ番組とかないですか?」

     目と鼻は赤いものの、いつもの調子でトークする富永くんに、客席で笑いが起こる。

    「次は僕がKのこと泣かせて見せますので!」
    「よせ。普段泣かん分、一時間は止まらなくなるかもしれんぞ」
    「……冗談ですよね」
    「フフ…」
    「もォ〜〜」

     もはやこのライブ中だけでも馴染みとなった風景に、私も思わず顔が緩む。

    「では、次は僕からKへ」

     そうして目が閉じられて、始まった歌は。



    11.M八七



    ーー遥か空の光がひどく輝いて見えたから
    ーー僕はその光を追いかけた

     歌の始まりが終わり、見開いた目に、光が反射して輝いたように見えた。

     それは切ない憧憬の歌。
     ライブの始まり、Kを呼ぶ富永くんの言葉が蘇る。師にして友。いまだ、師が先に立つ存在なのだ。
     誰に認められても、それは富永くんの中では揺るがないことなのかもしれない。
     まるで、信仰のような尊敬は。

     歌い終わったに富永くんがマイクから口を離す。
     頬からつたった汗が、顎から首筋に落ちた。

    「……富永」

     Kは、複雑な顔をしていた。あれ。そういう顔をするところだったろうか。

    「お前にとって、俺はまだ師匠か」
    「あのちょっと。マジで説教モード入らないでくださいって」
    「富永」

     あ、これ怒ってるんじゃない。拗ねてるやつだ。

    「そんだけ強烈だったってことですよもう!!言わせんな恥ずかしい!!」
    「それは……そうか。ならいい」

     乱暴に言い切った富永くんに、冷やかしの口笛が届く。カメラが動いて、氷室俊介を映す。やっぱりかぁ。

    「追いかけ続けてくれるな」
    「もちろん。追い抜いたり、隣になることだってありますよ」

     にや、と笑った顔が、まるまる素顔の表情に見えた。きっと、たぶん、本当にそう。確信があった。

    「さて!お騒がせしました。さすがに恥ずかしいですね、本人の前でイメソン」
    「互いに本気で選びすぎたな」
    「ですね。それでは夜も更けてきました。残り2曲、デュエットの名曲で今宵はお別れと致しましょう!」

     もうあと2曲。
     あっという間だった。



    12.WINDING LOAD
    13.夏の終わりのハーモニー



    ーー曲がりくねった道の先に

     そのピッタリ息の合った歌い出しから始まった、元曲では三人で歌われた歌を、二人とコーラスの三人は見事に歌いのけた。
     Kと富永くんが向かい合っての立ち位置、まるで歌い競うような、それでいて互いの力を引き出し合うような。

     そうして、聞きたいけれど、聞きたくない最後の一曲。

    ーーあこがれをいつまでもずっと 忘れずに

     なんだか、今日の結論としてすとんと心に落ちた。憧れること、憧れる人がいること、憧れを憧れと口に出来ること、憧れの思い出を大事にしながら、憧れで終わらせないこと。
     その全部が、幸せなことだ。

     隣の彼女を見る。音には出していないが、口が歌詞の形に動いている。私の憧れ。頭文字にかの歌い手と同じKがつく彼女は、私のK。



    「最後になりましたが、バンドメンバー紹介でお別れいたしましょう!」

     ああ、本当に終わってしまう。
     汗でびっしょり濡れた額が、光を照り返す。そうして流れる曲はAnother Star。

     Kと富永くんで交代にバンドメンバーを紹介していく。もう全員が楽しそうな顔で、このライブが出来て幸せだと告げているようで。

    「ーーそして最後に改めまして、ボーカル、K!」

     わっと拍手が響きわたる。
     思わず私も拍手をしてしまって、少し遅れて隣の彼女の拍手も重なる、

    「今回の座長、富永研太に盛大な拍手を!」

     波のように、拍手が再び盛り上がるのに合わせて、ついつい私も。そして彼女も。

     二人が同時の頭を下げ、ステージから降りる。
     その後は、お決まりのアンコールをねだる手拍子。聞こえるわけもないのに、私たちもその手拍子に音を重ねた。

     しばらくして、主役の二人が戻れば、手拍子は拍手へ。

    「アンコールありがとうございます!それではアンコール。このライブを、最後まで聴いてくださった、すべての方へ」
    「困難な日々は、これからも続くかと思います。それでも、そんな時に我々の歌が、気持ちを救う一助となれば幸いです」

     そんな言葉で、始まったアンコールの一曲。

    ーー誰にも見せない泪があった



    EX.栄光の架橋



     富永くんとKの、来歴を思い出す。
     二人ともが、音楽家一家に生まれ、幼少時からクラシックの基本を叩き込まれてきた。
     方や、親に反発してピアノではなく、作曲科を選び。方や、親の勧め通り、声楽科を選び。
     そんな大学の中で出会った、互いの存在は、どんな風に映っただろう。

     きっと強烈だったのだろう。それこそ、遠く光る星のように。

     一度は別れを選んで、苦しい日もあっただろう。
     それでも、再び繋ぎ直したいと願うほどの縁で。

    「ありがとうございました!ではこれで……」

     歌い終わって、退場しようとする富永くんを、拍手と手拍子が引き止める。
     ふ、と笑いを溢したKに呼応するように、富永くんも苦笑いする。

    「わかりましたわかりました!このままアンコール2曲目いきます!次で最後!ほんとに最後ですからね!」

     苦笑いのまま言う富永くんの声は、やや掠れていた。本当に限界まで歌ってくれている。

    「いやーでも、かなり練習したんで、アンコールなかったらどうしようかと思いましたよね。ねえ?」
    「この後は本当に閉幕となるので、先に申して置きますが、全部富永の采配ですから」
    「あ、全部俺の所為にしてェ。それなら俺も言っときますけど、Kも結構楽しんで練習してましたから!」

     やいのやいの言う二人に、やれやれと呆れるように、バンドメンバーは被せるように前奏を始める。

     ああこれは。
     そんな前置きになるはずだ。



    EX.恋



     ドラマの主題歌として一世を風靡したその曲は、ダンスも一緒に流行ったのだ。
     弟子三人組の振り付けは完璧で、バンドメンバーも、最低限の編成を残して、みんな踊り始めた。
     もうつい、声を上げて笑ってしまった。

     そうして二番、マイクだけを持って前に出たコーラス隊が、メインメロディーを歌い始める。
     まさか。
     と思ったらその通り。

     富永くんとKも例のダンスを踊り始めたのだ。富永くんはともかく、Kまで、である。だからあの前もっての言い訳。恥ずかしさが顔にありありと出ていて、隣の彼女がフフと笑いをこぼす。

    ーー夫婦を超えてゆけ
    ーー二人を超えてゆけ 一人を超えてゆけ

     きっとね。超えていけるはず。



     今回のことで思ったんです。
     あなたに何かあった時、一番に知らせがくるのが、僕じゃないと嫌だ。 
     だから。
     K、結婚してください。



     退院の間近、病室から漏れ出た電話越しの会話を聞いてしまったのは、多分、私だけだろう。

     守秘義務があるので、一生の隣を約束した、パートナーの彼女にも伝えていないけれど。


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