その青いラベルを見た時に、思い出したのは、あの吹雪の日の富永の涙だった。
「ほんとはもっと早くもう一度来たかったんですけどね。思ったよりかかっちゃいましたねェ」
「そうだな。新しいウイスキーが出来るぐらいには」
カラン、とグラスの中で氷が鳴る。二人ともがロックで傾ける飴色は、薄暗い店内で僅かな光を受けて煌めいていた。
二人での二度目の北海道の最後、どこかで一杯呑んで行きませんか、と誘ったのは富永の方だった。
そうして同意したKに、確かこの辺に、と10年は前に行った店を探り当てたのもまた。
あの時と同じものを、と思ってオーダーしたウイスキーは、テレビドラマのブームにより入手困難となっており、新しく作られたレーベルのウイスキーでの乾杯となった。
「でもあのドラマ見てたら、一回は呑みたくなっちゃうの分かりますね」
「そうだな」
「Kも見てました?」
「村井さんがな」
「ああ」
厳格に見えて割と新しいもの好きの面がある村井の名に、富永は納得の笑みを落とす。
そうして思い浮かべるのは、診療所の風景だ。
村井と神代と一也が、席を並べて朝のドラマを見る風景は、容易に想像できる。そこに早く出勤してきた麻上が加わることもあっただろう。
そこは、かつて富永もいた風景。長い熟成期間を必要とするウイスキーの、新しいものが出来るほどに昔の。