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    Tama_negi_316

    @Tama_negi_316

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    Tama_negi_316

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    挫折したサマイチSub/Dom
    ※攻(🐴)がSubです。
    いつか続きを書きたい。

    男、女、そのどちらでもない、またはどちらも。多様性が謳われるそちらの世界の皆さんなら、きっと理解してくれるでしょう。
    こちらの世界に存在する、ダイナミクスと呼ばれる主従関係。
    支配者であるDom、従者であるSub。
    いいえ。地位の話をしているのではありません。これは体中を流れる血、DNAに組み込まれた、本能の物語。


    まだ日が高いヨコハマの路地裏。数人の男が地べたを舐めていた。血まみれの顔を踏みつける革のブーツ。細い煙を上げる煙草が形のいい口から離れ、重力に従って落ちて行く。
    左馬刻は自身の足元で呻き声を上げる男達へ嘲笑を含みながら「Crawl(へつらえ)」と言い放ち、その場を去った。残された男達は微かに残った意識の中、中指を立てていた。

    大通りに出ればパトカーが忙しなくサイレンを鳴らして目の前を通過した。その後ろを走っていた黒い車が滑らかに停車され、助手席の窓が開かれる。奥の運転席に見えるのは、ヨコハマ署組織犯罪対策部巡査部長である入間銃兎。左馬刻の気が知れた、知り過ぎた相手。
    「Dom数名によるSubへのリンチだと通報があったから来てみれば。お前だったのか左馬刻。」
    「遅えじゃねえかお巡りさんよ。危うく俺様が跪かされるところだったぜ?」
    「……ったく。よく言う。怪我は。」
    「無えよ。舐めてんのか。」
    「お前じゃねえよ。Domの奴らだ。」
    そう。碧棺左馬刻は生まれながらのSub。従う者。だがこの男は生まれながらの王でもあった。
    DomとSubの性質は主従関係を築くもの。故にDomは自分よりも弱い、或いは同等の力を持つSubを従わせ、Subは自分よりも強く、或いは同等の力を持つDomにしか従わない。惹かれない。
    左馬刻は圧倒的な力を持っていた。拳は勿論、カリスマ性、誇り高さ、気高さ。誰にも屈しない。誰も彼を従わせる事など出来ない。興味本位でコマンド(命令)を出そうものなら、先程の男達と同じ目に遭うだろう。
    だが一人だけ。左馬刻にとって世界に一人。支配されたいと願ってしまう人間が存在する。
    「ちょうどいいわ銃兎、ブクロまで乗せてけや。」
    「ふざけんなクソヤクザ‼︎こっちはまだ勤務時間だ‼︎」
    「Subの安全保護は国民の義務だぜ?ポリ公。」
    「っクソが。」
    当たり前のように助手席へ乗り込んだ左馬刻はタクシーの如く銃兎へ行き先を伝え、自身は悠々と煙草に火を付けた。

    この世界には前述の通りDom、Subという、理性では抑えることが出来ない本能が存在する。Subはその特徴上弱者という扱いを受け、蔑まれ利用され、奴隷として生きた歴史がある。そんな負の連鎖を断ち切る為、現在はSubの安全と尊厳を守る事が世界共通の義務として定められていた。
    自身のSubにまだ巡り会えていないDomは抑制剤を飲んでその本能を抑えているが、暴走した、又はSubへの差別意識から、義務を怠る輩も一定数見られる。なので主人を伴わないSub一人での外出は非常に危険とされ、もしもそんなSubと遭遇したのなら、たとえ偶然すれ違っただけであっても保護し、安全な場所まで連れて行かなければならないのだ。
    ただ左馬刻にそのような庇護が必要かと聞かれたら、首を傾げてしまうのだが。

    車は東都へ入り目的地が近付く。徐々に左馬刻の呼吸が荒くなってくる。
    しばらくして視界が捉えた古びたビル。
    心臓がドクンと鳴り、停車と同時に飛び降りた。後ろで銃兎が悪態を吐いていた気がするが、この状態になった左馬刻には届かない。階段を数段飛ばして駆け上がり、インターホンも押さずに扉を開けた。

    「左馬刻……」

    扉を開けてすぐ、窓際のデスクに腰を下ろしたこのビルの住人であり、稼業である萬屋ヤマダの社長、山田一郎が、赤と緑の瞳を大きく開き、左馬刻の来訪に驚いていた。
    「会いたかったぜ?ツレねえ山田一郎くん。」
    「ちょ、ちょ、まだ仕事中……あーもう!仕方ねえなぁ!」
    息を荒げ、躊躇なく向かってくる左馬刻を一郎は早々に制する事を諦めた。目の前に迫った左馬刻の顔を片手で抑え、逃げるように玄関へと走る。来客の気配が無い事を確認し、外出中と書かれたマグネットを扉の外側へ貼り付けた。
    再び閉ざされた扉。後ろから伸びて来た手が鍵を閉める。振り向くとまた、目の前に左馬刻の顔。
    「いちろ……」

    「ん。お待たせ。左馬刻、Hug(抱きしめて)。」

    一郎のコマンドに、全身の細胞が跳ね上がる。腹の底から湧き上がる興奮と喜び。愛しいパートナーを腕に収め、左馬刻は大きく深呼吸した。
    「この俺様に待てさせるたぁ、上等じゃねえか一郎。」
    「ははっ。させてねえよ。仕事が立て込んでたんだって。今日はもう店仕舞いすっから。なぁもっといっぱいHug」
    「任せろ。」
    会えなかった時間を埋めるように力一杯抱きしめる。左馬刻も一郎も、互いの背に指が食い込むほどだった。
    DomはSubにコマンドを出しそれが叶えられる事に、そしてSubはDomの望みを叶える事に生き甲斐と喜びを感じ、精神が安定する。
    「はー……幸せ。左馬刻Good.ありがとな。ほんと幸せ。めちゃくちゃGoodだ。」
    「……ん。」
    左馬刻の釣り上がった眉は徐々になだらかになり、うるさいほどに鳴っていた心臓は優しい鼓動へと移り変わった。
    コマンドを出した後にはAfter careと呼ばれる、コマンドを完遂したSubを褒める行為が必ず行われる。この行為でDomもSubもようやく満たされ、本能は落ち着きを取り戻すのだ。
    細胞の隅々まで充足感が行き届き、左馬刻はゆっくりと一郎から体を離した。
    「……他には?コマンド出せよ。」
    「んー……俺はこれで充分なんだよ。それより今日泊まっていくよな?晩飯唐揚げ作るから。昨日から漬け込んでんだ。」
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