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    うめこ

    @umeboshiman5

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    うめこ

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    【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話④
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。

    #サマイチ
    flathead
    #ヒ腐マイ
    hypmic bl

    カーテンの隙間から薄い紫の空が見える。 まだ日は昇りきっていないが、どうやら朝になったようだ。
     のろのろと体を起こしスマホを手に取ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。
     隣で寝息をたてている一郎は起きる気配がない。
     昨晩は終ぞ正気に戻ることはなかったが、あれからもう一度欲を吐き出させると電池が切れたように眠ってしまった。
     健気に縋りついて「抱いてくれ」とせがまれたが、それだけはしなかった。長年執着し続けた相手のぐずぐずに乱れる姿を見せられて欲情しないはずがなかったが、その欲求を何とか堪えることができたのは偏に「かつては自分こそが一郎の唯一無二であった」というプライドのおかげだった。
     もう成人したというのに、元来中性的で幼げな顔立ちをしているせいか、眠っている姿は出会ったばかりの頃とそう変わらない気がした。
     綺麗な黒髪を梳いてぽんぽん、と慈しむように頭を撫でると、左馬刻はゆっくりとベッドから抜け出した。
     肩までしっかりと布団をかけてやり、前髪を掻き上げて形のいい額に静かに口付ける。

    「今度、俺様を他の野郎と間違えやがったら殺してやる」

     左馬刻が口にしたのは酷く物騒な脅しの言葉だが、その声色は自身も驚くほどに穏やかだった。


     シャワーを浴びて手ずから淹れたコーヒーを口に含む。全て飲み干した頃には完全に眠気はなくなっていて、クローゼットから適当に選んだシャツに腕を通した。
     空の淡い紫は淡い水色へと変わりつつあり、左馬刻が全ての準備を整えるのとほぼ同じタイミングでスマホが震えた。液晶に浮かび上がったのは銃兎からの着信の通知だった。

    「おう、銃兎か」
    『朝早くに悪いな、左馬刻。例の件だ』
    「こっちが頼んだことだろ。場所は割れたか?」
    『あぁ、住所を送っておく』
    「悪ぃな、助かるわ」
    『いや、そもそもこちらが「依頼」した案件だからな』

     昨晩、一郎が寝静まったのを確認した後、左馬刻はあることを調べて欲しいと銃兎に連絡を入れていた。一晩で欲しい情報を手に入れるとは、流石は警察の情報網とでもいうべきだろうか。

    『それよりも、本当に一人で行くつもりか?』
    「おう。一郎はしばらく使いモンにならねぇからな」
    『しかし、山田一郎が回復するか神宮寺寂雷の帰国するのを待った方がいいんじゃないか? 確かに急ぎの案件だが、山田一郎にそこまでのダメージを与える相手なら慎重に動くべきだ』
    「ハッ、一郎は尻尾掴もうと探り入れてやがったからこうなっただけだ。俺様はンな面倒なことはしねぇ。とっつ構えてやるからマイクだの何だのはそっちで調べろや」
    『それは勿論構わないが……』

     警察官という職業柄かそれともMTCの最年長という責任感からか、銃兎は何かと口うるさい男だが、それもチームメイトである左馬刻を案じてのことだとよく知っている。

    『俺が同行するべきじゃないか? そうか理鶯を――』
    「銃兎。これは俺と一郎に来た話だ。テメェや理鶯が動くのは俺が失敗した時だ」

     一郎のこの有様を見せつけられて、銃兎や理鶯を危険に晒そうなどと思うはずがない。それに一郎のあの状態を何とかするには本人に話を聞くのが手っ取り早い。
     勿論対象は銃兎達に引き渡すつもりでいたが、逮捕されるその前に一郎を回復させる方法を聞き出さなければならなかった。
     仲間を信頼していないわけではないが、瀬戸とも面識のある銃兎に今の一郎の様態を詳しく話すことは躊躇われた。
     どうやら相手が中王区のクローンの生き残りであるらしいことは伝えてあるが、接触した一郎については「具合が悪く寝込んでいる」とだけ伝えてある。

    「お前はせいぜいクソったれた占い師野郎を豚箱に放り込む準備でもしてろや」
    『……分かった。無理はするなよ』
    「誰に言ってんだ」







     夢を見ていた。
     TDDで共にいたあの頃のように左馬刻に触れ、そして触れられる夢だった。
     キスをして、愛撫を受け、欲を吐き出し、何度も「いちろう」と優しく名を呼ばれた。
     酷く幸せなその時間は、何年もの間一郎すら気付かぬ心の奥深くで渇望していたものだったのだろう。夢の中の一郎は過去のしがらみも意地も全て忘れて、左馬刻に縋っていた。
     自分はまだ左馬刻を許せていないのだと言い聞かせてきたくせに、心の赴くまま「好きだ」と告げる夢の中の自分に目を覆いたくなった。
     あんな夢を見てしまえば、もう意地やプライドを言い訳に見て見ぬふりはできない。

    (あぁ……最悪な夢だ)

     一郎が目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋の一室だった。
     どうやらそこは寝室のようで、自分はふかふかのベッドに寝かされていたらしい。

    「……どこだ? ここ」

     一郎の記憶は中王区のクローンと接触し、おかしな催眠をかけられた後で止まっている。瀬戸の用意したマンションで顔を洗っている最中に意識を手放したのだ。
     確か、あのマンションに左馬刻と共に戻ったのは日が暮れる頃だった。窓から差し込む爽やかな日差しを見るに、恐らくとっくに日付は変わってしまったのだろう。
     意識を手放す直前、誰かの気配がしたから恐らくはその人物に助けられたのだ。しかし、見慣れぬ部屋にぐるりと視線をめぐらせてみてもその恩人の姿はどこにも見当たらなかった。
     黒を基調としただだっ広い部屋は明らかに病室とは違っている。目につくのはクローゼットとベッド脇の小さなナイトテーブル程度だったが、そのナイトテーブルには一郎のスマホが置かれていた。どうやら丁寧に充電までされているらしい。
     のろのろとした動きでそれを手に取ると、メッセージがいくつも溜まっていた。そのうちの一番新しい通知に「碧棺左馬刻」の名前を見つけてドクリと心臓がはねる。
     今朝早くに送られてきたらしいそれには、何の前置きもなく「適当にメシ食って鍵はポストに入れておけ」とだけ書かれていた。

    「……」

     どうやら、あの時一郎を助けた人物は左馬刻だったようだ。
     とっくにあの部屋を出ていたと思っていたのだが、何か引き返す用でもあったのだろうか。おかげで危機を救われたのだから、一郎としては感謝すべきなのだが。

    「はぁ……よりにもよって」

     自ら勇んで囮を買って出ておいてまんまと相手の術中に嵌るという醜態を晒してしまったが、その上に更に面倒をかけてしまったらしい。
     ただでさえあんな夢を見て合わせる顔がないというのに、これでは恥の上塗りだ。自己嫌悪は募るばかりだ。
     残りの未読メッセージに目を通すと、その殆どが二郎と三郎からのものだった。
     誰の機転か分からないが、どうやら一郎が依頼で昨夜は帰らないことを銃兎経由で伝えてあったらしい。

    『兄ちゃん、仕事だって銃兎さんから聞いたよ。俺で手伝えることがあれば何でも言って』
    『警察絡みの依頼なんて危険な仕事じゃないんですか? いち兄、無理はしないでください』

     可愛い弟達からのメッセージに思わず頬が緩む。

    『大丈夫だ。心配かけて悪かったな。帰れる目途が立ったら連絡する』

     手早く返信を打ち込んで送信ボタンをタップすると、瞬時に「既読2」の表示が浮かび、それぞれから了解の返信が来た。
     今回、瀬戸の案件に関わっていることは弟達には告げていなかったから、突然銃兎から今回のことを聞かされて余程心配をかけてしまったらしい。
     帰ったら二人の好物を作ってやらなければ、と心に決め、ベッドから立ち上がった。そのためにもやはり一刻も早くこの案件を解決しなくては。
     あんなメッセージが残っていたくらいなのだから、恐らく左馬刻は不在なのだろう。寝室を出た先の広いリビングにも、やたらと高性能なキッチンにも姿は見当たらなかった。
     部屋のあちこちに左馬刻愛用の煙草の匂いが染みついているから、ここは左馬刻の自宅かあるいはセーフハウスの類だろう。
     適当に飯を食えと言われたが、人様の家のキッチンを漁る気にはなれず、はやくここから出て行かなければと思った。
     しかし、ここまで助けてられておいて礼も言わずに去るのはどうにも気持ちが悪い。メッセージという手もあったが、それでは一郎の気がすまない。
     うんうんと唸りながら数分悩んだ挙句、意を決して左馬刻の番号に電話をかけることにした。けれど生憎電源が入っていないのか、コールに行きつくまでもなく通話は切れてしまった。

    (入間さんならアイツがどこにいるか知ってるか?)

     ふと思いついたままに数日前に教えられた銃兎の番号を呼び起こしてみると、こちらは数コールとせずすぐに通話が繋がった。

    『はい、入間です』
    「あ、山田一郎です。すんません朝から」
    『おや、一郎くん。気にしないでください。攻撃を受けて寝込んでいると聞いていたので心配していたんですよ。体調はもう大丈夫ですか?』
    「心配かけてすいません。もう平気です」
    『なら良かった。ですが、どこか不調があるならすぐに言ってください。こちらから病院を手配しますので。勿論、治療費も』
    「ありがとうございます。弟達にも連絡入れてもらって助かりました」
    『礼なら左馬刻に。私にそう指示したのは奴ですよ』

     薄々そうではないかと思っていたが、やはり手を回したのは左馬刻だったらしい。

    『それより、何か用事があったのでは?』「あぁ、はい。あの、左馬刻がどこにいるか知ってますか? 連絡つかねぇから、入間さんなら知ってるかもと思って」

     すると、いつも歯切れのよい銃兎には珍しく数秒の沈黙が流れた。

    「入間さん?」
    『あぁ、失礼。貴方に伝えるべきではないのかもしれませんが……アイツは『対象』を捕えに行きましたよ』
    「え……?」

    ***

     左馬刻のマンションを飛び出した一郎は、タクシーを捕まえて銃兎から教えられた住所の近くまで来ていた。
     目的地は昨日接触した路地裏とは別の人気のない廃屋のビルだ。近辺でタクシーを降りると、一郎は目的地まで懸命に走り出す。
     昨日から何も口に入れていないせいで足がふらついたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

    (左馬刻の野郎、一人で勝手に動きやがって!)

     左馬刻の強い意向で、銃兎や警察は捕縛が完了するまで現場に来ない約束になっているのだと聞いた。
     格好をつけることばかりが得意な左馬刻のことだから、きっと正体不明の怪しい催眠の危険に仲間である銃兎をさらしたくはなかったのだろう。
     危険は自分一人だけが背負い込めばいいのだと思っている。つくづく意地っ張りで、不器用で、それでいて仲間思いの男なのだ。
     かつてはその優しさに強烈に憧れ、その強さに誰よりも恋い焦がれた一郎だからこそ、それが手に取るように分かる。
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    うめこ

    TIRED【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話④
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    カーテンの隙間から薄い紫の空が見える。 まだ日は昇りきっていないが、どうやら朝になったようだ。
     のろのろと体を起こしスマホを手に取ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。
     隣で寝息をたてている一郎は起きる気配がない。
     昨晩は終ぞ正気に戻ることはなかったが、あれからもう一度欲を吐き出させると電池が切れたように眠ってしまった。
     健気に縋りついて「抱いてくれ」とせがまれたが、それだけはしなかった。長年執着し続けた相手のぐずぐずに乱れる姿を見せられて欲情しないはずがなかったが、その欲求を何とか堪えることができたのは偏に「かつては自分こそが一郎の唯一無二であった」というプライドのおかげだった。
     もう成人したというのに、元来中性的で幼げな顔立ちをしているせいか、眠っている姿は出会ったばかりの頃とそう変わらない気がした。
     綺麗な黒髪を梳いてぽんぽん、と慈しむように頭を撫でると、左馬刻はゆっくりとベッドから抜け出した。
     肩までしっかりと布団をかけてやり、前髪を掻き上げて形のいい額に静かに口付ける。

    「今度、俺様を他の野郎と間違えやがったら殺してやる」

     左馬刻が口にしたのは酷く物騒な脅 4404

    うめこ

    MOURNING【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話②
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    へまをするつもりはないが、失敗すれば相手の術中にはまる可能性だってある。家族を――二郎や三郎のことを忘れてしまうなんて絶対に嫌だ。けれど、自分がそうなってしまう以上に左馬刻が最愛の妹、合歓を忘れてしまうことが恐ろしいと思った。
     左馬刻は過去、中王区の策略によって合歓と離れ離れになってしまった。あの時は一郎もまたその策略に絡め取られて左馬刻と仲違いする結果になったが、一郎が弟達を失うことはなかった。
     それが誤解の上の擦れ違いだったとしても、あの時左馬刻にされた仕打ちはやはり許せない。けれど、あの時左馬刻が世界でただ一人の家族と離れ離れになってしまったのだと思うと、なぜだかこの身を引き裂かれるように辛くなった。
     一郎がこんなことを考えていると知れば、きっと左馬刻は憤慨するだろう。一郎のこの気持ちは同情などではないが、それ以外の何なのだと問われても答えは見つからない。
     左馬刻は他人から哀れみをかけられることを嫌うだろう。それも相手が一郎だと知れば屈辱すら感じるかもしれない。「偽善者だ」とまた罵られるかもしれない。
     それでも左馬刻が再び家族と引き裂かれる可能性を持つことがただ嫌だと思 10000

    うめこ

    MOURNING【小説】サマへの好きを拗らせているイチと、イチが他の男を好きになったと勘違いしてるサマが2人で違法マイクを回収する話①
    ※H歴崩壊後
    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    「だから、俺が行くっつってんだろ!」
    「!? テメェになんざ任せられるか、俺様が行く」

     平日の真昼間。それなりに人通りのある道端で人目もはばからずに言い争いを続ける二人の男。
     片方はとびきりのルビーとエメラルドをはめ込んだような見事なオッドアイを、もう一方は透き通るような白い肌と美しい銀髪の持ち主だった。
     ともに長身ですらりとした体躯は整った顔立ちも相まって一見モデルや俳優のようにすら見える。
     そんな二人が並んで立っているだけでも人目を惹くというのに、あろうことか大声で諍いをしていれば道行く人が目をやるのも仕方のないことだった。
     況してやそれがかつての伝説のチームTDDのメンバーであり、イケブクロとヨコハマのチームリーダであるというのだから、遠巻きに様子を窺う人だかりを責める者など居はしない。
     もちろん、すっかり頭に血が上った渦中の片割れ――山田一郎にもそんな余裕はなかった。

    「分っかんねぇ奴だな! あんたのツラ明らかに一般人じゃねーんだって」
    「ンだと? テメーのクソ生意気なツラも似たようなもんだろうがよ!」

     いがみ合う理由などとうの昔になくなったというのに、 9931

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    もろごりら

    PROGRESS全然書けてないです。チマチマ進めます。
    左馬刻が両目右腕右脚を失った状態からスタートしますので身体欠損注意。
    何でも許せる人向け。
    左馬刻が目を覚ますとそこは真っ暗だった。真夜中に目覚めちまったかとも思ったが、何かがいつもと違っている。ここが自分の部屋ならば例え真夜中であっても窓は南向きにある為カーテンの隙間から月明かりがうっすら差し込んでいるはずだ。しかし今は何も見えない。本当の暗闇だった。

    なら、ここはどこだ?

    耳を澄ましてみる。ポツポツと雨の音が聞こえる。あぁ、だから月の光が届いていないのか。
    他の音も探る。部屋から遠い場所で、誰かの足音が聞こえた気がした。
    周りの匂いを嗅いでみた。薬品と血が混ざったような匂い。これは嗅ぎ慣れた匂いだ。それにこの部屋の空気…。もしやと思い枕に鼻を埋める。
    やっぱり。
    枕からは自分の匂いがした。良かった。てことはここは俺の家の俺の部屋か。ならばベッドサイドランプが右側にあるはず。それをつければこの気色悪ぃ暗闇もなくなるは、ずっ…
    押せない。スイッチを押すために伸ばした右腕は何にも触れないまま空を切った。おかしい。動かした感覚がいつもと違う。右腕の存在は感じるが、実態を感じない。失っ…?
    いやいやまさか。落ち着け。枕と部屋の匂いで自室だと勘違いしたが、ここが全く知らない場 6126

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