Be My Ghost ハロウィンワンダーランドは複雑怪奇、明朗快活、慇懃無礼で陰惨悲惨な街である。空では魔法使いが違法駐車し狼男が街道を練り歩き、ジャックオーランタンが窓から飛び降りる愉快な場所の一角に、それはもう深い深い森があった。大きな魔物も小さな魔物も、誰一人近寄らないその森には恐ろしい恐ろしい魔物が住んでいる。
魔物の中の魔物、全ての頂点に座す吸血鬼、誰もがその名を紡ぐのを恐れる男だ。いつだってどんちゃん騒ぎのハロウィンワンダーランドも、森がわざめく一瞬だけ静まり返るような、畏怖の対象。そんな森へ、小さな一つの影がいそいそと向かっていた。
ひらひらと揺らめく白いフードの端に景色を透かすゴーストの子供、一郎は赤い風船を携えて森をかけていく。時折風邪に混じって妖精たちの声がした。
『坊や、ここは危ないよ』『きゅうけつきのおしろがあるよ』『食べられちゃう!』
引き止めるように声をかけてくる妖精たちへ、一郎はきゃらきゃら笑いながら手を振る。
「ありがと! でも平気!」
見えない足でぼこぼことした地面を蹴り、真っ黒なお城の門を叩いた。空も飛べるけれど、こうして向かっていく瞬間のドキドキが好きで一郎はいつも森を走って抜けるのだ。
ごんごんごんと鈍い音を立てて不機嫌そうなドアノックを揺らすと、扉がゆっくりと開かれる。ドアノックはまだ不機嫌にウェルカムとだけ言った。主人に似てねぼすけなのだ。
入ってすぐ、血のような絨毯と薄暗闇に歓迎されて一郎は勢いよく宙に浮いた。吸血鬼のお城は気分屋で、毎分毎秒だって同じ間取りの時はない。探検する間もなく気づいたら壁紙の一部に巻き込まれてしまう。
さて、あの人はどこかとあっちこっちを飛び回っていると、親切なコウモリたちが列をなして導いてくれた。一郎の風船を割ろうとする子たちからは逃げて一番端の尖塔にいるらしい尋ね人へ一目線に飛んでいく。強固に閉じられたドアだってゴーストには関係ない。するりとくぐり抜け、豪奢なベッドで横たわる男へ着地すると鈴を三十個鳴らしたような声で話しかける。
「おはゆ左馬刻! 寝坊だぜ!」
重さのない一郎の形に少しだけ凹んだ布団の下から、低く唸る声がする。この城の主人は滅法寝起きが悪く、住み着いたゴブリンたちが慌てて避難して行った。反して、一郎は少し持ち上がった布団の端を豪快にめくり上げまだ眠たげな男の顔を鷲つかむ。
「おはよ!! なぁ飯食おう? 腹へった!」
カンと響く声に男は片手で一郎の両頬をぶちゅ、と掴んだ。唇がとんがるくらい力が込められた手の奥で、男の目が開く。血よりも赤い真紅の目には剣呑な光が宿り、僅かに開いた口唇から鋭い牙が覗いている。
「毎回毎回毎回毎回ィ……何回言ったら覚えンだテメェは……」
地響きに似た、押し殺した唸りに壁掛けの絵画が悲鳴とともに目を伏せる。哀れ小さなゴーストは今から八つ裂きにされて枕の綿と一緒に詰め込まれるんだと、窓から見ていた妖精が口を覆った。
「家に入るときはお邪魔しますだろうが!!! 捻り潰すぞクソガキ!」
ぎゃん! と吠えると共に頬を撫でた魔力の風で一郎のフードも髪も舞い上がる。一郎は大きな目をぱちぱちと瞬かせると大きな声でおじゃまします! と良い子に笑った。すると満足したのか、吸血鬼は片目を眇めつつ手を離すと乱れた白銀の髪を掻き乱して立ち上がる。
「来んなっつってんのによォ……世間体が悪ぃわ」
邪険な態度に一郎がムッとしながら、しかし知り合いの魔法使いの言葉を思い出して鼻を鳴らした。
「ツンデレ、ってやつもほどほどにしろよな!」
小生意気に言い放つとさっさと部屋を出ようとする左馬刻の肩まで飛び上がり、太い首に手を回す。わざわざ羽を仕舞ってくれるので飛び付かねば損だ。左馬刻からはいつも薔薇と重たい煙の匂いがする。同じ匂いになってみたくて聞いても、左馬刻はむっとして教えてくれなかった。
「今日の飯なにー」
「邪魔。オムライス」
「おむらいす! 左馬刻のおむらいす好き」
「おいくすぐってぇよ」
飛ぶのをやめて首にぶら下がり、頬を擦り付ける。左馬刻の髪はふわふわで、近くで見ると薄く透けて月の光みたいなのだ。ハロウィンワンダーランドに浮かぶ赤と青のヘンテコなやつじゃなく、ニンゲンの世界にある丸い薄光。ワンダーランドに迷い込んだニンゲンを帰らせる仕事を兄弟で請け負っている一郎は、その月を見るたびに左馬刻のことを思い出してどきどきしてしまう。
一郎を引っ付けたまま城を歩く左馬刻の声は不機嫌だが、邪魔だと振り払いはしない。ハロウィンワンダーランドのみんなが恐れる吸血鬼は案外優しくて料理上手で、口と寝起きが悪いけど、でも。
「早く結婚しような!」
「了承した覚えねぇぞ」
「式…? は恥ずかしいけど左馬刻は美人だから似合うと思うぜ」
「……待て、お前俺様がドレス着る前提で話してんな?」
一郎を助けてくれるヒーローなのだ。
とある夜、左馬刻の城へ一つの影が舞い降りた。慇懃に窓からやってきたそいつはソファに身を沈める左馬刻が足を乗せていたテーブルへビンテージのワインを置くと対面へ腰掛ける。気遣い屋のゴブリンがいそいそとグラスを運び、代わりにそいつから飴玉をいくつか受け取った。
「婚約祝いですよ」
可愛い婚約者、羨ましいですねぇ。整った鼻梁に乗る眼鏡を押し上げるそいつー左馬刻と同じ種族であり、旧知の中である入間銃兎は左馬刻の苛立たしげな舌打ちを聞き流すと自身で持ってきたワインの栓を魔力で開け、グラスに並々と注いだ。
なんでもありハロウィンワンダーランドにもいくつかの制約があるのだが、物好きなこいつは違反したやつを片っぱしから砂にする仕事を自ら請け負っている。忙殺されるのが趣味の変態野郎の耳にまで一郎のことが終ぞ伝わったらしい。
「デマに踊らされてんじゃねぇよクソウサギが。ありゃガキの戯言だ」
ハロウィンワンダーランドにいる限り、吸血鬼に血なんぞ必要ない。魔力で埋め尽くされたここでは吸血は趣味、もしくは娯楽の一つだ。食わず嫌いで偏食の左馬刻と違って銃兎は自称美食家としてニンゲンの世界から様々なものを持ってくる。ワインと煙草は際たるものだ。ワンダーランドじゃ、お菓子とイタズラは最上級でもその他はしっちゃかめっちゃかのガラクタに等しい。緑色のハンバーグの味がロリポップと一緒なんてこともざらにある。
今は面倒で、もうニンゲンの世には行かないが車とやらは持ち帰りたいほど気に入っていた。
左馬刻は注がれたワインを無遠慮に飲み干すとグラスを窓から放り投げる。噂好きのジプシーどもはきゃらきゃら騒ぎながら逃げていく姿にまた苛立ちが募る。一郎が訪ねてくるようになってからというもの、誰も寄り付かなかった城を覗き込む輩が増えた。あの小さい白なら感じない感情を持て余している。
「毎日せっせと通ってくるガキを、短気なお前が消し炭にしてないだけでお察しだけどな」
「…………うっせ」
「ハッ、どうした。気色悪ぃほど素直じゃねぇか」
苦り切った左馬刻の態度に銃兎は半分程度心配を滲ませた。傲岸不遜に羽が生えたような男は銃兎の手からワイン瓶を引ったくると直接口をつけて一気に飲み込んだ。これしきの酒で酩酊するような男ではないが、先ほどよりも座った目で話し出す。
「どう考えたってよ、ちびすぎんだろ! 俺様の半分もねぇんだぞ。どうすんだよ!」
「妙にリアルな話すんなよ……」
「るっせぇな! 死活問題だろうが!」
ゴーストなんだぞ! あいつは!
左馬刻の嘆きに銃兎は同情まじりに息を吐いた。
「厄介な相手を見染めたもんだな、お前も」
ゴブリンが追加で持ってきたグラスに袂から出した別の酒瓶から酒を注ぎながら銃兎は、つい先ほど話したゴーストを思い返す。
「あ、そういえば」
なぁ、左馬刻。と旧友に目を向けるも、運悪く捕まり羽交い締めにされたゴブリンの碑銘にかき消されてしまった。
とてとてと歩きながら一郎は自分の後ろを付いてくる子供へ話し続ける。
「もうすぐ家に着くからな。泣くなよ! 男の子ってのは強くなきゃダメなんだぜ!」
一郎の言葉にしゃくり上げながら返事をする子供の姿は、どこかの誰かを彷彿とさせるマント姿だ。毎日がお祭り騒ぎのハロウィンワンダーランドと違って、人間の世界には年に一度、魔物に扮して街を練り歩く行事があるらしい。いつもは真面目で厳しいワンダーランドの門扉も、この日ばかりはミスが多く、こうして間違ったニンゲンが紛れ込む。誰に頼まれたわけでもないが、一郎や、一郎の弟たちは迷子になって泣いているニンゲンを元の世界まで送り届ける仕事をしていた。ついでに、ニンゲンの世界からあれこれ持って帰るのも仕事だ。ここ最近だと二つ折りの光るおもちゃが人気だった。
「さ、急ぐぞ! ワンダーランドはあべこべなんだ。うかうかしてたら百年くらい経っちまう!」
砂糖の山を超えて、険しい顔の門扉に挨拶をする。一郎が連れている子供を見て、門扉は悲しそうにドアを軋ませた。
「仕方ねぇよ! 泣く前に門を開けてくれって! ほら頑張れって!」
誇り高い門扉の愚痴に合わせて励ますと門がぎしぎし火花を散らして開け放たれる。
「お菓子は持ってるか? ワンダーランドは笑顔で帰るのが掟だぜ」
大きな音を立てる門扉に固まった子供の手を勢いよく引いて星の飛び交う中へ飛び込んだ。内臓がかき回されるみたいな、キャンディとケーキと生卵をいっぺんに食べたみたいな感覚を三秒耐えたらもう人間の世界だ。
「気をつけて帰るんだぞ、もう知らない扉に入っちゃダメだぞ!!」
一郎が手を離すと子供は一目散に人でごった返す大通りへかけていく。そのマントのゆらめきに、緩みかけた頬をパチンと叩いて気合を入れ直した。狼男から頼まれた物を受け取って帰らなければいけないのだ。
「早く帰んねぇと左馬刻が寂しがっちまうからな!」
ひらりと体を舞い上げて夜の星海に飛び込んだ。まんまるの月、左馬刻との出会いもきっとこんな夜だった。
左馬刻は大仰にため息をつき、誰もいない裏路地へ向かう。ニンゲンの世は移り変わりが激しい。ついこの間までちょんまげが歩いていたというのに、いつの間にか誰もが光る箱を手にしてきゃあきゃあ笑い合っている。
「クソが……折角いい玩具をみっけたってのに」
ひとりごちて視線を動かす。
「お、あったあった」
ゴミ箱の後ろに一人でに浮かぶ門扉に声をかけると火花を散らして扉が開く。左馬刻のお遊びに付き合わせて何日もニンゲンの世界に出張させてしまった門へ詫びながら足を進めようとした、のだが。
「……? んだこれ」
踏み出そうとした足に何かが引っかかる。目線を落とすと自身の革靴にコンビニのビニール袋みたいなのが纏わりついていた。
「ポイ捨てしてんじゃねぇよったく……」
風に揺れる端っこを摘んで持ち上げる。良心的な吸血鬼たる左馬刻はゴミをゴミ箱に捨てる魔物なので。
口を食いたままのゴミ箱へそれを投げ捨てようとした瞬間、ゴミ袋が急に「ゔ」と蠢き始めた。
「くび、しま、って」
慌てて摘んでいた手を離すと、ゴミ袋は風でふわふわ揺れながらゆっくりと地面に落ちていく。ぽてん、と地面へ当たった拍子にめくれた半透明の下からまんまるの目が二つまろびでた。黒い髪すら薄く透けた子供は左馬刻を見上げて死に体、いやもう死んでいるのだが、細い声で言った。
「お、なか……すいた……」
そうして地面に仰向けで倒れたゴーストは、最後の気力を振り絞ったのか左馬刻のスラックスの裾をぎゅうっと握っている。振り解こうと思えばすぐに外れる程度の力に眉を下げれば、一部始終を見ていた門扉が物言いたげに扉を軋ませた。その上左馬刻が大きくため息を吐くと、門が勢いよく閉じてしまう。
「あーあーあー……わあったよ……」
片手で持てる、紙一枚も重さのない小さな体を抱き上げると門は満足したのか扉を開き、急かすみたく火花が飛び回る。
「めんどくせぇ……」
もう手遅れの文句は、原色でぐちゃぐちゃの空間にかき消された。門は左馬刻を飲み込むとまるで初めからなかったようにするりと消える。ハロウィンワンダーランドの入り口は大人には見つけられないのだ。
左馬刻は自身の肩の上で呑気に寝息を立てるゴーストの顔を覗き見る。魔力の濃いワンダーランドに帰ってきたからか、さっきよりも色を濃くした黒髪が左馬刻の首筋をくすぐった。一瞬しか見れなかったが、色違いの双眸を持つゴーストに一人、心当たりがあった。迷い込んだニンゲンを食うでも剥製にするでもなく送り届けてやるお人好しなゴーストの三兄弟がいたはずだ。
「はッ……届けた先でのたれ死んでちゃ世話ねぇな」
今も、左馬刻のマントを掴んで離さない子供。こいつの未練はなんなのか気になる自分を鼻で笑った。冷徹と噂されてうん百年、初めての慈悲だった。
城に連れ帰り、数分もすれば文字通り消えそうだったゴーストは回復したのか目を覚ます。キョロキョロとあたりを見回して左馬刻を見つけるとやっと戻った魔力を思い切りぶつけてきた。
「ここはどこだ吸血鬼!」
猫みたく毛を逆立てて威嚇する子供は、左馬刻を吸血鬼だと認識してなお威勢は衰えない。この街に住む魔物ならシーツの綿になるのを恐れて平身低頭でご機嫌伺いの言葉を並べるというのに。壁に大きな穴を開けた一郎に城は憤慨しているが左馬刻の機嫌が良いことを察してかすぐにしゅうしゅうと穴を塞いで黙り込む。
「なにがおかしいんだ! 早く俺を帰せ!」
くすくす笑い出す左馬刻にゴーストはまた、今度は少し勢いの衰えた魔力を撃ってくる。なんとしてでも左馬刻を廃するつもりらしい、まだ満ちるには足りない魔力を底抜けするまで使おうとするので、隠れていたゴブリンが小さな声で反論する。
『おんしらずのごーすと!』『たすけてもらったのに』『おしろにあなをあけた!』
言うたびに家具やら左馬刻のマントやらに逃げるゴブリンは情けなかったが、嘘のない言葉にゴーストはあわあわと怒気を収めた。風船みたく萎んだゴーストは寝かされていたベッドに前のめりに頭を下げる。
「あ、ごめん、なさい、おれ……」
なびてしまってまんまビニール袋になったゴーストへ、左馬刻は笑いを噛み殺しきれないまま声をかけた。
「ガキの癇癪にしちゃあ面白かったぜ」
「うぅ……まじですんません……」
「別に気にしてねぇよ。つか謝るより名前、教えろよ」
逃げていたゴブリンもあまりのしょげっぷりに心配になったのかわらわら出てきてベッドの周りを取り囲む。
「ほら、ゴブリンも聞きてぇって」
ゴブリンの一人から飴玉を受け取って、ゴーストは左馬刻の方を恥ずかしげに見上げた。
「えと……あの、いちろう、です……」
途端にもじもじと頬を掻く一郎へ左馬刻は近づき、さっきの攻撃のせいで透けた指先を持ち上げる。
「おうち帰んのはもうちっと魔力が溜まってからな。やんちゃ坊主」
左馬刻の半分もない大きさの爪に内心驚いていると一郎は顔を真っ赤にして爆発した。ぼふん、と舞い上がった魔力に白い衣が浮き上がって、しかしそのせいでまた一段と色が薄くなってしまう。
「なにやってんだダボ!」
「だだだだってあ、あんたが」
「言い訳すんな! ったく……」
跳ね放題の黒髪をかき回して左馬刻は考えをまとめた。しゃべれるほど回復したなら次は飯だ。食っときゃすぐにでも回復するはずだ。
また魔力を爆発させた一郎を引きずって左馬刻は食堂に向かった。明日には終わると思っていた子守は、一郎が何度も爆発しては消えかけるので結局三日間もの間城で時を過ごす羽目になったのだ。
そしてその間に、何をどう間違えたのか一郎は左馬刻に告白を繰り広げ、以降何年もの間左馬刻の元へ通うようになった。
縁もたけなわ、空になった酒瓶が山になり一部屋を埋め尽くした頃。顔を赤らめた銃兎が窓の外を見る。
「そういや、来ませんでしたね」
銃兎よりも大幅に酒を飲み干した左馬刻は酒気でいっぱいの息を吐きつつ眉を顰めた。
「一郎かァ? あいつにも用事くらいあんだろ……」
弟命の一郎に、弟の次くらいには優先されている自覚のある左馬刻は腹の中で俺様より大事な約束なんざねぇだろ、と息巻きつつ言葉を紡いだ。
しかし銃兎はいや、と首を振る。
「ここに来る前に彼に会った時に行ってたんですよ」
泣いてる子供を届けたら来るって。
一時間に三十周はする時計の針ももう千回を超えた。門を通ればすぐに終わる見送りなど他の頼まれごとを合わせても十分すぎる時が過ぎていた。訝しげな銃兎をおいて、左馬刻は立ち上がると邪魔だからと滅多に出さない羽を伸ばして飛び上がる。
「お迎えですか?」
「うるせぇ」
からかいまじりの銃兎へ反駁だけ残して左馬刻は目にも止まらぬ速さで門の元まで向かった。どうせあのお人好しは、届けた先で厄介ごとに巻き込まれている。
「ダボがよォ……」
呆れた声色とは反対に、左馬刻は門までたどり着くと門扉に声をかけることなく強引に扉を開け放った。
「そこで寝んなゴミ袋!」
「ごみじゃ……ねぇ……」
門のすぐそばに転がっていた一郎は力なく手をあげる。漂う嫌に清浄な空気から祓われかけたのだとわかった。左馬刻はやや乱雑に一郎を抱き上げると傷ついた額に指を這わす。
「説教コースだクソガキ」
こてんと気を失った一郎を両腕で抱き抱えて門をすぐさま閉じる。ニンゲンの世にはニンゲンのルールがある、異質な魔物は排斥されても仕方がない。だが。
「次会ったら容赦しねぇ」
物陰に隠れていた奴らの顔は忘れない。吸血鬼は執念深いと相場が決まっているのだ。
まろい肌膚に微かに唇を触れ合わせる。この子供は知らないままでいい、目を覚ましたらまた声を聞かせてくれ。
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