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    さとすら

    @satoshirasura

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    さとすら

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    照りつける強い日差しに、ジトマタルワンドロワンライ企画参加✨
    お題「トマト」お借りしました🍅🐳

    トマト食べる🍅と不在🐳

    塵歌壺に畑を作ったので書きました

    トマトとトーマ照りつける強い日差しに、ジワリと浮かんだ汗が額当てへ伝う。
    今しがた世話を終えた畑には鮮やかな緑が広がり、すぐ横の海から来る潮風に揺れてさやさやと音を立てている。葉が落とす色濃い影の中には、はち切れんばかりに膨らんだ夏野菜が覗き、収穫の時を今かと今かと待ち構えていた。
    汚れた手を井戸水で洗い、日陰に設置されたベンチに腰掛ける。濡らした手拭いで汗をぬぐい日差しを避けるために羽織っていた上着を脱ぐと、こもっていた熱が散りほっと息を吐いた。

    あらかじめいくつか摘み取ってタライで冷やしておいたトマトを手に取り、軽く水を切ってそのままかぶりついた。味付けも何も無いが、ヒヤリとした食感と共に口に広がる程よい酸味と濃い旨味に思わず顔がほころぶ。労働後に嬉しい何よりの褒美だ。

    眼の前に広がる海を見ながら、シャクシャクと夏の味を堪能する。
    ここは普段生活している稲妻ではなく、旅人の所有する塵歌壺の一角だ。自由に使っていいと土地を与えられたのが二ヶ月前のこと。何かと働き詰めの自分を気遣って、若やお嬢が気分転換になればと旅人に掛け合ったらしい。当初は遠慮して拒否したが、若に自分が行く時用に整備しておいてくれと仕事として与えられてしまった。
    そうなると断れないわけで、壺の番人のマルに協力してもらいながら小さい庭と畑を整えた。取り組むうちに楽しくなってきてしまい、若の思惑通りになっている。人の少ないここは、煩わしい関係から一歩離れ一息つくにはもってこいの場所だった。

    大きな実りをぺろりと一つ食べ終え、もう一つ食べてしまおうかと真っ赤なそれを手に取った。
    眼前に掲げ、日差しに輝く赤を楽しむ。我ながら初めてにしては良く出来たものだ。後で形の良いものを持って帰って、若たちにも味見をしていただこう。生と加熱と食べ比べるのもいいな。喜んだ顔を思い浮かべながら、また一口かじりついた。

    のんびりと落ち着いた時間は久しぶりだ。旨味に満たされていく腹に幸福を感じながら、キラキラと細かに光を反射する水面に目を細める。
    しばらく塵歌壺に来られなかったが、ここは時間の流れが違うのか世話を出来なくとも畑は順調に育っていた。なんとも不思議で便利な空間である。一つの壺に見えても内部は様々な環境とつながっていて、今自分がいるのは南国の島を基調とした景色だ。何かを育てるなら温暖な気候のほうがいいだろうと旅人が選んでくれた。
    正直なところ、海は幼い頃の遭難の経験依頼少し苦手だが、塵歌壺の海はいつも波が穏やかなので安心して見ていられる。凪いだ海の色は愛しい彼の目を思い出させた。

    ファデュイの執行官として日々忙しくしているであろう彼は息災だろうか。タイミングが互いに合わず、最近は塵歌壺内ですら会えていなかった。
    手紙をやり取りしているので、まだ璃月の北国銀行に派遣されているのは知っているが、どうしても互いの手元に届くまでのタイムラグがある。なにか無茶なことをしていても彼は顔に出るので会えばすぐわかるのだが、文面からそれを読み解くのは至難の業だ。
    今度鍾離さんに会えたらそれとなく聞いてみようか。

    不思議な雰囲気をもつ璃月人のあの人は、オレとタルタリヤが恋仲になったことにいち早く気がついた。公子殿には普段から世話になっているし、防音と媚薬なら任せてくれと嬉しそうに言ってきたくらいだから、きっと答えてくれるだろう。

    そういえば、そのときに貰った小瓶入の媚薬の効果は、任せてくれと言うだけあって物凄かった。
    薬に耐性があると豪語していたタルタリヤでさえ、一口飲んだ途端に色白な肌を全身真っ赤に色付かせ、潤んだ瞳でおねだりをしてきた。オレは飲まなかったのだが、彼から熱い吐息を分けられるだけでも体が疼くのがわかった。
    据え膳よろしくいただきたいところだったが、折角初めてを貰うのにこれでは駄目だと根性で欲を押さえ込み彼の世話に徹したところ、一人で何度も極めた彼に大泣きされたし、薬が抜けてから結構な力でもってビンタされた。

    拗ねる彼を慰めながら聞いたところによると、オレがあまりにものんびりと関係を進めるので、焦れて鍾離さんに相談して一服調合してもらったとか。それをオレに盛るのではなくではなく、自身に使ってしまうのが彼らしい。
    後日ちゃんと素面でリベンジする機会を貰い、丸一昼夜かけて余すとこなく全力で堪能させてもらったが、結局は彼に大泣きされたし、前回と変わらない力でビンタされた。

    泣きはらした彼の目元と紅葉型に腫れたオレの頬は笑ってしまうほど色づいていて、ちょうど居合わせた鍾離さんに楽しめたようで何よりだと言われ、ますます二人して顔をトマトのように真っ赤に染めた。

    あの時の礼は薬を頼んだタルタリヤ自身から鍾離さんにしておくと言われたが、オレからも少しくらい何かしたほうがいいだろう。茶が好きだと聞くし、稲妻の茶葉と採りたての野菜でも差し入れようか。
    風流を愛するあの人には金額というよりは、良い物を選んだほうが喜ばれる気がする。物的に良いものというと、タルタリヤならまだしもオレの懐具合では到底間に合わないだろうし、少し良い茶葉をツテを使って手に入れるくらいがせいぜいだ。
    それでまた璃月での彼の様子を色々教えてもらえれば万々歳だ。オレとのことを相談するとは、どんな風に話しているのだろうか。

    「会いたいな」
    ぽつりとこぼし、二つ目のトマトの最後のひと口を放りこんだ。

    体温の高い自分の手についた水滴を唇で拭いながら、愛しい彼の熱を思い出す。あちらもオレに会いたいと思ってくれているだろうか。
    オレは会いたいし沢山話がしたい。彼が楽しみにしている手合わせもしたいし、自信作のこのトマトも食べてみてほしい。出来ればまた一昼夜かけて愛させて欲しいし、あの可愛らしい顔を桃色に染めながらオレの名を呼んでほしい。

    そのためには、眼の前に山積する仕事をさっさと片付けなければ。
    リフレッシュした心と体を手に入れた今なら、どんな面倒なことでもこなせる気がする。無敵家司と言われることがあるが、今のオレはまさにそれだ。

    さあ、いくつか土産を収穫したら稲妻に帰ろう。
    日陰のベンチから立ち上がり、ぐっと伸びをしてから日向に出る。次のご褒美はいつになるだろうか、彼にまた手紙を出さなければ。ストレートに会いたいと書いたらどういう顔をするだろう。

    「ははっ、楽しみだ」
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