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    bunbun0range

    敦隆、龍握、タダホソの人。

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    後藤と湯沢の話
    実はあそこの子でもあるよ

    意外な二人 桜の形に切られた人参と、出汁の優しい味のした薄茶色のご飯を箸で口に運ぶ。
    「美味しいッスね。この炊き込みご飯」
    「だろ?」
     後藤さんが嬉しそうに目を細める。その穏やかな笑顔が年末年始に久しぶりに会った祖父と被って見えたことは、今は言わない方がいいだろう。年齢的には祖父ではなく父親の方が近い。
     夕方。クラブハウスで後藤さんと帰る時間が偶然被り、一緒に食事に行くことになった。GMはいろんな店を知ってるんすねと他意なく言うと「うん、そうだな……」と遠い目をしていたけれど。どうやらスポンサー様への接待はなかなか大変らしい。
     こうして後藤さんが連れてきてくれたのはカウンターと個室が四つほどしかない小さな小料理屋。日曜日ということもあって少し混んでいたけれど、選手である俺に気を遣って店員さんは小上がりの個室を案内してくれた。
    「もっと食うか? この店、おかわりを頼むとおひつに入れて持ってきてくれるんだ」
    「じゃあ、せっかくなんでいいッスか?」
     お願いすれば「ああ、もちろん」とふすまを開けた後藤さんが店員さんに注文してくれる。おかわりがくるまで揚げたての天ぷらを食べて待っていよう。
     そう思った時だった。
    「失礼します」
     後藤さんが閉めたふすまが再び開く。
     ふすまを開けた店員さんが両手で運んできたのは、俺の顔よりも大きい真っ赤な茹でカニ。
    「わー、すげー」
     語彙力のない感想。それしか出てこないほど大きな衝撃だった。
     きっと万超えるよな。高価なカニを食べさせてもらうほど先日の試合で良い結果を出したっけ? まぁ、食べさせてもらえるなら遠慮なくいただきますけど。
    「後藤さん、あざーっす。GMって良い給料なんすね。太っ腹ー」
    「いやいや、そんなわけあるか」
     すみません、と後藤さんが店員さんを呼び止める。
     残念だ。この美味しそうなカニは食べられないらしい。
    「こんなすごいカニなんて俺たち注文してないですよ。何かの間違いでは?」
    「いいえ、こちらで間違いないです」
     ニッコリと店員さんが微笑む。
    「あちらのお客様からです。『後藤』様にと」
    「え? 俺?」
     バーでよく聞くような台詞を聞いて、後藤さんはきょとんとしたあと、ハッと慌てて立ち上がった。ジャケットを羽織りながら店員さんにどちらのお客さんですかと確認し、個室の外に出る。
     もしかしたら取引先の役員さんがいたのかも。
     俺も挨拶にいった方がいいだろうかと立ち上がったのと同時に「失礼します」と仕事モードの後藤さんが正面にある個室をノックした。ふすまがゆっくりと開く。
    「あ」
     部屋の中にいたお客さんを見た途端、後藤さんが俺の方に振り向いて、ばつの悪そうな、だけどどこか嬉しそうな笑顔で、湯沢はこっちに来なくていいぞと合図を送ってきた。
     いいなら、いいッスけど……。
     でも、来なくていいと言われると逆に気になるもので。
     分かりましたという意味を込めて頷いたあと、カニを座卓に置いた店員さんが出て行くのを見送るふりして、ふすまの隙間から後藤さんが頭を下げている個室を盗み見る。
     そして、すぐに分かった。後藤さんが俺はそのままでいいと言った理由が。
     後藤さん宛にカニをくれた人はお酒が入っているのか、真っ赤な顔で後藤さんの背中を激励するように強く叩いている。「元気でやってるか」「GMとしてこっちに戻ってこいよ」と。
    「ははっ、ありがとうございます」
     パープル色の人々に囲まれながら、後藤さんが照れくさそうに笑う。
     後藤さんの笑顔なんて特に珍しくもなんともないのに、うちのクラブハウスで見る時と違っているように思えた。
    「やっぱ後藤にはパープルだよなぁ。顔の穏やかな雰囲気にもぴったりだったし」
     パープル、紫。違和感のあるその色に思わず首を傾げそうになる。正直言うと後藤さんにその色のイメージはない。俺が知っている後藤さんは、スーツを着てETUのために奮闘するGMの姿か、赤黒のユニフォームを着た現役選手の時の姿だ。
     だけど、この人たちにとって後藤さんはパープルの似合うセンターバックの京都の選手だったのだ。
    「帰ってきた時は顔出せよ。いつでも待ってるからよ」
     移籍をするということは、ホームが増えることなのかもしれない。
     まあ、ちょっと複雑だけど。
     でも、京都がアウェイ戦を勝利した今日だけは、後藤さんをレンタルしてあげようと思った。
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