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    前書いたはかせとなんば~つ~の話の続き

    なんば~つ~とばさらの表彰式前夜「で、何だってんだ?」
    パイプ椅子に深く腰掛けた彼が気怠そうに目線だけを寄越して言った。
    いつもならばもう少し覇気がある彼にも流石に陰りが見える。
    今日の為にマシンはもちろん彼自身のコンディションも調整してきたのだ。それを終えた今、一気に緊張の糸が切れたのだろう。疲れも当然だ。
    「いや、特にどうということでもないんだが……」
    ゆっくりと休ませてやりたいところを、博士の余計な一言のせいでこんなところまで引っ張り出してきてしまった。
    それも元々は自分がそれこそ余計な一言を博士に零してしまったのが原因だ。後ろめたさが、すり切れた爪先を眺めさせた。
    「疲れてんのか? まぁ、お前もここのところ詰めっぱなしだったからな」
    「っ違う、俺よりバサラの方がっ……!」
    「俺が疲れてんの分かってんなら、さっさと話せよ」
    彼の言葉に弾かれたように顔を上げれば、夜空を切り裂く彗星とぶつかった。
    彼は変わらない。
    昔からずっと、驚くほどにシンプルだ。
    速く、速く、誰よりも。
    誰も追いつけないくらいに。
    「聞いてやるからよ」
    バサラは変わらない。
    でも、変わった部分もある。
    つっけんどんな言葉と裏腹に、彼の唇は曲線を描いている。
    ここ最近は見慣れてしまった、少し皮肉げに吊り上げた笑み。
    「少し、思ったのさ」
    彼の笑顔に促されるように、声が零れた。
    「お前は……バサラは、俺やアイツらがいなくたって、きっと、いつか世界一のレーサーになっていたんだろうなって」
    バサラはきっと、すごい選手になる。
    初めて見た瞬間から、そんな確信があった。
    赤城山ジゴロの息子という肩書きなんて、手が届かなくなるくらいに、ずっとずっとすごい選手になる。
    例えメカニックが№2でなくても。
    チームがレアキラーズでなくても。
    「そりゃあ、」
    「俺たちがいるから、今のお前がある。そう言いたいんだろう」
    「……分かってんじゃねえか」
    続きを先取りされたバサラが不貞腐れて呻いた。
    彼は昔から懐に抱えた者には、酷く寛容だった。
    バイクチーム『レアキラーズ』は、新造のチームだ。
    金も、設備も、人も、何もかも足りていない。
    昔は資本に群がる連中が豚にしか見えなかったが、今は少しだけ奴らの言い分も分かる気がする。
    この環境では、バサラの才気を十二分に引き出せないのではないか。
    勝利を逃す度に、何度もその言葉が№2の脳裏を掠めた。
    自分以外の人間が作ったバイクに彼が乗ることは苦痛だが、それが原因で彼が負ける姿を見るのは、それ以上に耐え難い。
    「でも俺は、いや、俺達はお前の走りが好きで、だから……」
    もっと資金も、設備も、メカニックだって、ここよりハイレベルなチームなんていくらでもある。
    彼の為を思うならば。
    彼の勝利を真に願うならば。
    (このチームに固執する必要なんて、ないんじゃないか……?)
    「……ンだよ、マジでただ嬉しいってだけの話じゃねえか」
    バサラが白けたような長めの嘆息を漏らした。
    「オメーそんなん祝勝会の時に話せば良かっただろ。ずっとむすっとしやがって」
    「そうじゃなくて……」
    勢いを付けて立ち上がった背中から、ガチャガチャと軋む音がする。この事務所の椅子だって本当は会議椅子にしたいが、予算を回す余裕がない。当分は難しいだろう。
    「いや、なんでもないさ……。悪かったな」
    冷静になって考えれば、こんな日に言うことでもなかった。
    今日ばかりは、何も考えずに喜んでも良いはずだ。
    扉へ向かうバサラの後に続く。
    「お前、俺がいなくたってとか言ってたけどよ」
    「あ、あぁ」
    唐突に立ち止まった彼が、唐突に話を戻した。
    ノブが回った先では、廊下からは未だたけなわな宴会の音が漏れ聞こえる。
    彼が抱えた者たち。
    今日まで彼を支え続けた仲間たち。
    バサラは誰かが欠けていたら今日はなかったと言うだろう。
    №2はそうは思わない。
    誰かが欠けても、きっと今日はあった。
    その誰かが、例え自分であったとしても。
    「いなくなることねぇんだから、ない仮定の話すんのやめろ」
    無駄だろ。
    そう言いたげに、彼はまた一つ口の端を歪ませた。
    歯が見える快活な笑みは、ずっと幼い頃の彼を見るようだった。
    彼は変わらない。
    昔からずっと、驚くほどにシンプルだ。
    彼の中では、自分はいつでも共にあるらしい。
    「……あぁ。俺は、お前の№2だからな」
    宴会に戻ったら、自分も久々に酒を飲もう。
    彼と、彼らと喜びを分かち合おう。
    今日はこのチームが出来て、初めて優勝を手にした日だった。

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