幸せの対価 皆んなから俺の記憶だけ無くなった。タイムリープの代償なのか、幸せを望みすぎた俺への罰か。
行く先々で初めて会った顔をされる。SSモーターズへバイクを持って行けば「いらっしゃいませ」と真一郎くんが、イヌピーくんは知らんふりで整備をしている。ドラケンくんもチラリと俺を見て、業務に戻る。
「このバイク、もう乗らないので…差し上げます……」
「え、お客さんこれ」
「っ、それじゃあ!」
急いで店を出て走る。後ろで声が聞こえるが知らない知らない知らない。滲む汗も目から溢れたものも知らないと必死に走った。ミッションコンプリート。自分に言い聞かせた。
数日後、何もやる気がせず、寝転んでいたところに電子音が部屋に響く。
一人暮らしの汚い部屋に尋ねるものなど隣人からの苦情か何かだと思い、居留守を決める。
しかしビンポーンと音は鳴り止まない。
しかたなく、渋々玄関を開ける。
「どちらさ……ま」
「居んじゃん、早く出ろよな」
「はん、まく」
何故彼がここに?俺の記憶は?様々な疑問が浮かんでは消えていく。
「とりあえず中に入れてくんねー?話がある」
「あ……うん」
ズイ、とおれの身長に合わせて顔を近づける半間は威圧感があり、速やかに中へ招き入れた。
「なぁ、アイツらお前のこと忘れてんだけど」
「…………。」
「キサキなんて『誰だそいつ』でおわり。他のヤツらもそう、お前の記憶だけごっそり落ちてる」
「そ、れは」
「俺は覚えてんのにな」
カチカチと流れるように火をつけ、タバコを吸われる。
「俺が、幸せを望みすぎたから、平和を目指したから、その対価……」
「………。」
紫煙を吐き、またタバコに口をつける。
俺は俯きながらタイムリープの事を話した。膝に置いてた自分の拳に、パタリと水滴が落ちていく。
「じゃあ、なんで俺は覚えてんだろうな」
「わからない……でも、覚えてくれてありがとう」
顔を上げて、溢れて止まない涙も気にせず半間と目を合わす。
タバコを吸い終えた半間の手が伸びて、親指で涙をすくわれる。
「寝てねぇんだろ、隈がひでぇ」
「うん…、」
「添い寝してやろーか?」
「え?!いや大丈夫!」
「ばはっ、おもしれー話のお礼だよ」
「いやいや!」
部屋に隅にある広げたままの布団、その中に入る半間。本気で添い寝する気だ。
「早く来いよ」
「う……失礼します……」
腕枕をされ、久々の人のぬくもりにまた涙が出そうになる。
「こっち向けよ」
「……いまはだめ」
半間は俺の身体を無理矢理反転させて向かい合わせにし、左腕で身体を密着させる。
「泣きたいときに泣いとけよ、俺しか知らねーし」
「うっぐ、」
半間のTシャツにすがり、涙や鼻水なんて気にしないぐらい泣いた。とくんとくんとなる心臓の音が暖