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    nagi1720

    らくがきぽいぽいするところ。真壁一騎をキメがち。メモは考察だったり備忘録だったり。

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    nagi1720

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    6月16日のシンとカガリの話(※ラクスとディアッカの年齢から、ファウンデーション戦は2~3月の間かな?と予想しています)

    「すまない、待たせたな」
    「いえ……」

    黒いスーツで現れた彼女を見て、自分の服装チョイスを後悔した。
    あまりラフすぎても、と思って普段よりはフォーマルなものを選んだつもりだが、それでも私服だ。彼女の隣に立つには少々派手すぎる。
    シンの思惑に気付いてか、スーツ───喪服の彼女は、からからと豪快に笑い、シンの肩をバンバンと叩く。

    「気にするなよ。皆も、堅っ苦しい格好よりは普段のお前が見たいだろ」

    私はホラ、式典帰りだから。
    色彩豊かな花束を抱えて、黒を纏う少女───カガリ・ユラ・アスハはもう一度笑った。

    6月16日

    オーブ国民にとって忘れられない日であり───シン・アスカにとっても忘れてはならない、悲しみの日であった。

    *

    夕日の赤に染まる海岸には、自分とカガリと、こちらから姿が見えないように張っている彼女の護衛が数人、それ以外人はいない。
    C.E.71年6月15日と16日、地球連合軍によるオーブ侵攻作戦開始と、その終戦記念日。今日は終日墓参者で溢れかえることが予想されていたため、もともと入場制限がかけられていた。慰霊碑は小さく、また人でごった返すには少々危険な場所にある。安全のための配慮であった。
    その代わり、昼間のうちに首都オロファトで慰霊式が開かれた。シンは式典に参加しなかったが、カガリは朝から、いや数日前からばたばたと忙しく準備に追われていただろう。しかしそんな疲れは少しも見せずに、慰霊碑に祈りを捧げる彼女は、まだ20歳とは思えぬほどの威厳があった。

    「ありがとうな」
    「え?」
    「お前がついてくれるっていうから、少しの間だけ護衛を外してもらえたんだ。間近でがっちり固められてないだけでも気が楽だよ」
    「別に……俺も、人多いの苦手なんで、助かりますし」
    「そうか」

    実際、人混みは好きじゃない。特にこの場所に人が大勢いる光景が、シンはあまり好きではなかった。
    自分以外にもあの日、こんなにも家族を失った人がたくさんいることを目の当たりにするのも辛かったが、何よりもここで失った者を想い涙に暮れる、見知らぬ誰かを見る度に───この下に自分の家族の骨はないのだと。思い知るのが嫌だった。
    形見の携帯を握り締め、隣のカガリを盗み見る。悲しみではなく、慈しみに満ちた優しい瞳で彼女は花を見つめていた。
    彼女もこの日、父を亡くしているはずなのに。どうしてそんな目ができるのかと、シンは僅かに動揺した。
    ふと、敬愛してやまない「彼」を思い出す。そういえば、カガリとは姉弟なのだと聞いている。彼の菫色の瞳も、どんなときでも優しかった。姉弟とはそこまで似るものなのか。俺とマユは兄妹だけど、そんなに似ていなかった気がする。

    「……マユは」
    「うん?」
    「妹が、結構、花が好きで、」
    「……うん」
    「俺はマユほど好きでも嫌いでもないから、たまにうっかり踏みそうになったりするんですけど。そうすると、ダメ!って怒るんです。かわいそうだって」
    「優しい子なんだな」
    「はい。優しい、素直な子でした」

    俺があのとき守れていたら、
    無意識に口をついて、それ以上言葉にならなかった。たらればなんて、考えたって虚しい。そんなこと知ってるのに。どんなに覚悟を固めても、やはりこの場所に来ると気持ちが弱る。黙り込んでしまったシンの丸まった背中をカガリが撫でてくれる。背中に伝わる手のぬくもりが、強ばるシンの体をほぐしてくれた。

    「なあシン、ほんとはな、今年の式典は無理かと思ってたんだ。ファウンデーションのあとしまつもあったし、ほうぼう忙しくてな」

    赤ん坊をあやすような手付きでぽん、ぽん、と叩きながら、言い聞かせるようにゆっくりと話しかけてくれる。長いこと忘れていた母を思わせるそのリズムに、揺れていた心が少しずつ落ち着いていく。

    「でも、お前たちが無傷でオーブを守ってくれたから、皆この日を迎えられた。お前が守ってくれたんだ」

    顔を上げると、柔らかな夕日色の瞳と目があった。
    色とりどりの花に囲まれた、日に照らされてキラキラと輝く金の髪が、眩しいほどに綺麗に見えた。
    目頭が熱くなる、人前で泣くなんて。思わず顔を逸らしたけど、カガリはなにも言わなかった。涙が出るのは、きっと光が目に染みたせいだ。
    そうして日が沈み、痺れを切らした護衛───アスランがこちらに走ってくるまで、彼女はずっと無言で背中を叩いてくれた。


    「私たちが、私が、父に会えるこの場所を守ってくれて、ありがとう、シン」

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