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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    酔った黒柳が悶々としながら三毛縞に寝かしつけられるはなし。
    黒柳はたぶん偉い人との会食とかあった帰り。

    おやすみなさい、よいゆめを。 伸ばされた腕は相変わらず緩慢な動きで、いかに黒柳が酔いに身を委ねているかをまざまざと見せつけていた。手招く手のおぼつかない動きに、三毛縞はいつもよりずっと従順な態度で横たわる黒柳の側へと向かうと、まるで子供にするような手つきで頬をするりと撫でられる。こりゃ相当酔ってるな、なんて呆れるほど熱い掌がむしろ普段の低い体温を思い出させるなんて。弱い力だった。三毛縞どころか、子供だった業でさえ片腕で跳ね返せそうなほど、弱い力で引き寄せられ、三毛縞は求められるまままだアルコールの余韻でとろけそうな黒柳の舌を自分のそれで絡めあう。乗り上げたベッドは相変わらず寝心地の良い低反発のもっちりとした沈み具合で、大男二人を難なく受け止めてしまう。静かな夜更けの寝室に、湿った水音だけが転がり落ちて。わずかに汗ばんだ黒柳の地肌を撫ぜながら、三毛縞はいちどきつく舌に吸い付いて、ゆっくりと唇を離した。二人をつなぐ細い細い糸もすぐ、ぺろりと黒柳の舌が絡めとり、こくんと喉を鳴らし、見上げる気だるげな目つきの僅かに涙ぐんだ目元の赤さに雄の本能がグラリと揺れる。普段よりずっと従順に、背中を掻き抱く腕は甘えるように三毛縞のシャツを握りしめていた。それでも、三毛縞は目の前に身を差し出すか弱く振舞う山羊の肉に、愛おしそうに唇を寄せそれ以上はニコリと笑うだけだ。自分がかぶさった体の下で、らしくなく肌着のままの黒柳がわずかに足をすり合わせていることに気が付いていながら、だ。
    「――気分にならんか」
     そうぽつりと零した黒柳の声はなんだか今にも泣きだしそうで。三毛縞はまた熱のこもった髪の間に指を通しながら、その形の良い額に口付けた。
    「そんなわけないでしょ。今のお前さん、正直かなりクるからねえ」
     おどけたような口ぶりで言いながら、言葉とちぐはぐな手つきでしか触れないくせに、暗闇で見下ろす目つきの鋭さだけで黒柳はその言葉を信じるしかなくなってしまう。好きなヤツが蕩けた目で、可愛いことして誘ってくるのに揺れない男じゃねえよ、と。額に、頬骨に、鼻の頭に、りょうほうの瞼に。それから顎髭や、耳の縁にも、三毛縞はすり寄るように、猫が子猫にしてやるように、黒柳にキスの雨をふらせて笑う。それでも、今黒柳が欲しがっているものがそれではないと三毛縞はわかっているのだ。ついさっきまでの、あの息さえ奪い合うような激しいそれを、三毛縞はわかっていて敢えて黒柳に与えようとしない。
    「なら、お前に意気地がないだけか?」
     今度は少し、拗ねたような声になった。黒柳も酔いのグラつく思考の中でそれは理解していたが、それ以上にそんな自分を気にするほどの余裕がなかった。本当はもう、いつもよりずっと乱暴に、激しく求められたかった。何がきっかけなのかなんてわからない。酔いのせいか、嫌いな仕事を終えた開放感か、それとも単純な欲求不満なのか。そのどれもが違うようで、その全てでもある気がした。ただとにかく、今は無性に欲しかったのだ。この男が、三毛縞清虎が自分に施す圧倒的で狂おしいまでの愛が。
    「そりゃ、お前さんの方だろうよ」
    「何? 私が?」
     本当はこんな問答さえすっ飛ばしてもよかった。シャワーを浴びたいとか、歯を磨いてからがいい、とか。そんなことさえ気にする余裕さえなかった。焦れて思わずシャツの間に差し込んだ黒柳の手を、三毛縞はやんわりと握りしめ、指を絡めあい、その磨き上げられた爪の一枚一枚に唇を寄せる。黒柳が欲しいのは下品に指を舐めしゃぶり、噛みつき、指の股を厚みのある舌でざらりと舐めあげ、イかされるほどの快感なのに。
    「そ。俺に意地悪くされたいならよ。酔っぱらって迫るんじゃなくて」
     酔ったフリで騙すくらいじゃねえと。そう言って笑う三毛縞はもう、あのギラリとした猛々しい目をすっかり潜め、まるで困った子供をいとおしむような目で黒柳を見下ろしていた。
    「酔ったフリと酔った事実、貴様に何の違いがあるんだ……」
     三毛縞が自分を抱く気にはなれない、とわかったことにただ、拗ねた態度をとることしかできなかった。
    「お前が酔ってるのか演技なのかくらいわかるよ」
     私の演技が下手だとでも? そう黒柳の唇が紡ぐより早く――
    「それくらい、ちゃんと誠のことは見てるしわかってるつもりだから」
    ――三毛縞はことさらに甘やかな声で囁いた。だから今日はもう寝ちまいな。また繋いだ手に、今度はその手の甲に口付けると、とうとう黒柳の上から巨体が退いていく。あれほどの体の下敷きにされ、伸し掛かられていた――否、黒柳がそうするように仕向けたのだが――間に感じもしなかった苦しさが、退いてはじめて身軽な自分に苦しくなるなら、こんな恋などいっそ捨ててしまいたかった。何度捨てても、どれほど遠くに捨てても、巧妙に隠して捨てても、三毛縞は最後にはいつだってそれを拾って黒柳に返した。お前の大切なものだから、と。
    「――清虎」
     腰かけた男を見上げるだけで、その瞳がずいぶん遠くに感じる。黒柳は再び三毛縞を呼んだ。相変わらず、三毛縞は柔い笑顔で振り返る。ん? そんな風に当たり前に。
    「寒い」
     素直になれない性格が、素直になれない言葉を生む。なのにどうして、ニコリと笑って返す男にはすべて筒抜けになるのだろうか。そりゃまずいね、と笑う三毛縞が、今度こそ、黒柳のベッドへと滑り込んだ。毎日整えられ、ふっくらと仕立て上げられた枕に到底かなわぬ硬く、不安定な腕に頭を乗せ。重ささえ感じないほどの布団と比べ物にならないほど重い腕に抱きしめられる不自由が、今の黒柳には何にも勝る幸せのような気がして。
    「おやすみ」
     ――俺のオキニス、よい夢を。旋毛に感じる体温に、黒柳の意識は多幸に包まれゆっくりと夢の海に落ちていった。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
    2725

    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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