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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。

    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
    「なおくん! まだあ!?」
     振り返れば千春くんの少し怪訝な顔がこちらを見つめている。いつもまんまるの瞳が、今は少し不満そうに細められている。美人が起こると怖い、というのは全くその通りで、少し拗ねたような千春くんの表情に俺は特に弱かった。多分、声を言葉として認識してなかったせいだろう。何回も呼んだのに、と顔をのぞかせる千春くんに急いでグラスを濯いで向かう。濡れた手も行儀悪くエプロンで拭いながら向かえば、ついさっきまで拗ねた顔をしていた千春くんはすっかりご機嫌で、ニッコリとどこか悪戯をするような子供みたいに笑っていた。後ろ手に何か隠しているのは明白で、それを昂くんが興味深そうに覗き込んでいるからもはや隠す行為に意味は為されていない。それでも、なんだか焦らされるようでドキドキする。緊張に背筋が伸びる俺に、千春くんははっとして突然こちらを指さし〝脱いで!〟と叫ぶ。突然下される命令に思わず震える俺、お茶を吐くイチとぎょっとしてこちらに注意を向ける深津。
    「あ、違う! エプロン! 脱いで!」
     慌てて言い直す千春くんに急かされるまま慌ててエプロンを脱ぎ捨てる。脱げ、と言われると布一枚脱ぐだけで相応に緊張するものなんだと余計な知識を身に着けながらも、なぜか楽しそうな伊藤の前の椅子に汚れたそれを内に畳んでかけた。もうすっかり拭ったはずの手をズボンで拭いたのは、突然の出来事に緊張しているからだろう。またすっかりにこやかな千春くんは改めて俺に向き直ると、はい、と勢いよく紙袋をさしだしてきた。
    「え、わ、なに……?」
    「あげる!」
     受け取らなければ投げつけん勢いだったそれをなんとか抱える。紙袋の大きさと比べ意外と軽いそれに、はて今日は何の日だったかと思考を巡らせるも一切何も浮かばない。誕生日でもなければ、そのほかの記念日なんてまず思いつかないから巡らせるだけの思考もないが。
    「お、おれに……?」
     周囲を見渡すも、みんなが紙袋や何か特別なものを持っている様子はなく、まるで〝自分だけが〟個別に贈り物をされているような錯覚さえする。これでなおくんのじゃなかったら変すぎない? と笑う千春くんにますます困惑してしまう。紙袋を恐る恐る抱えて固まる俺に、千春くんは少しせかす様に〝早く開けてよ〟と俺にせっつく。千春くんの言葉に逆らえない俺は慌てて机に移動し、袋を広げ中を取り出す。出てくる可愛らしいシンプルな不織布の巾着に、なんだか無性に緊張してしまう。中身は柔らかいもののようで、手の中で区たりと形を変える感触に思わず持つ手が震えてしまう。そんなに慎重に持たなくても壊れないよと笑う千春くんや、覗き込む昂くんやイチにせっつかれるも、少し不格好に結ばれたリボンを解くのがなんだか勿体なくて。伊藤が〝ゆっくりでいいんだよ〟と笑ってくれなければ、多分手が震えてしまっただろう。わくわくした目が一斉にこちらに向けられている。一部は巾着の方へ、ひと際強い瞳は俺に、俺の反応に。サテン地のつるりとした肌触りのリボンをゆっくり解きながら口を開けば、目に飛び込む青空色の生地。
    「わ、すごい、綺麗…………」
     そっと取り出せば、まだ新品で糊のきいたしっかりとした生地。巾着から空をすくいあげれば、しゅるりと続いて伸びる細い雲に、これが所謂エプロンだと気づいた。
    「あ、可愛い……!」
     レースでできた腰ひもは可愛らしく、まるで本当に青空に浮かぶ雲らしくふわふわと柔らかい曲線を描いている。それでも梱包用のものよりしっかりとした作りになっていて、腰ひもをレースで作るなんて可愛らしいアイデアだな、とついまじまじと眺めてしまう。
    「へー、ええやん! 今のやつ結構使い込んどったしな」
    「リボン可愛い! 最近のはオシャレだねー」
     シンプルながら、レースリボンのアクセントのあるエプロンはみんなにも絶賛され、伊藤には〝直幸の色だね〟とほほ笑まれた。青なんて、昔はあんまり好きじゃなかった。男の子は青か黒で、女の子は赤とピンクで。佐賀がつい最近まで使っていた小学校のころ作ったドラゴンのエプロンも、俺は大嫌いですぐに捨てたのに。今じゃ青は一番好きな色だったから、流されやすい性格だと思おう。それでも特に、パステルや明るい色の青が好きで。だから晴れやかな空を切り取ったその生地はまさに俺好みで、そこにあしらわれた可愛らしいレースのフリルも、心躍るデザインだった。
     着てみてや、と言ったのはイチだ。まだ新しい生地は僅かに体なじみがしないものの、気持ちはわくわくと晴れやかになる。果たして、こんなにいいものが自分なぞに似合うのだろうかと腰ひもに手をやった時だった、千春くんが〝ああっ!〟と大きな落胆の声を上げたのは。
    「ご、ゴメン…… リボンの位置、へんになってる……」
     つけてるときは気づかなくて、と焦る千春くんに、生地を広げてみれば確かに少し、リボンのつけられた位置が歪んでいるようにも見えた。それ以上に驚いたのは、少し不揃いな縫い目でそのリボンが設えられていたことだ。
    「これ、千春くんが……?」
     そう問うた俺に、千春くんは少し照れくさそうにそうだよ、と眉尻を下げた。それだけで、このエプロンの〝不完全さ〟がとてつもなく愛おしくなった。左右の位置が僅かにずれたリボンも、その縫い目の僅かに斜めにのたうった線も。そして同時に――怖くなった。手触りの良いリボンを腰の後ろで結んでみる。普段使うものよりずっと緩く、丁寧に。幸い大きくずれて在るわけではないから縛れないわけでも、縛りにくいわけでもなかったが、緩い蝶々結びにしたそれが、自分の背後で揺れている事実に心臓が鉛に変わっていくようで。
    「あ、えと………… どう、かな……」
     俺じゃ、似合わないと思う。それは選んで、飾りつけて、贈ってくれた千春くんの前で言葉にすることさえなかったが、とにかく今千春くんが、自分にこのエプロンを手間をかけてまで贈ったことを、どうか後悔するようなことがありませんようにと心の中で必死に祈る。鉛の心臓は脈打つたびにギイギイとさび付いた金属板を擦り合わせ、耳に痛い音を立てている。俺の好きになるものは、いつだって俺には贅沢で、不相応だ。千春くんは暫く真剣な顔で俺をぐるりと眺めまわし、ううん、と唸って彼の手で誂えられたリボンを解いた。
    「あれ、ゆるゆるじゃん! 大丈夫だよ、結構丈夫だから普通に結んでも」
     そうして解かれたリボンは再び、より確かな強さで絞められていく。ダボついていた前の布地が、初々しい硬さをもって体に沿うた。
    「あれ、んん? 慧! なんかリボンが縦になるからやってー!」
    「なんで俺が……」
     いいからほら、と突然離れていく千春くんに、振り返った俺は現れた深津の近さに呆気なく混乱という渦に落とされた。何というか、こういうシチュエーションに耐性がない俺は千春くんでさえ息が止まるほど緊張していたから、するりと腰のあたりに感じる深津の手に、もはや心臓どころか全身が軋む鉄くずになってしまう。
    「ん、できた」
     あいつ、センスはいいんだがな。身長のせいか耳元で囁くような独り言が、彼にしては珍しく楽しそうな声色を孕んでいて心臓を吐き出すかと思った。甘くて、愛おしいと言葉から滲みだすような声。深津の愛は一途で、そこが一層彼の人柄の良さを演出しているような気がする。離れていく深津はたぶん、俺に聞かせるつもりなんてなかったんだろう。だから黙っておいたけれど、入れ替わるように俺のところへ来た千春くんに、リボンの位置ズレすぎだろ、手伝ってやったのにと意地悪なことを言う。さっきよりも少しだけ、ヤンチャな声で。だってだって、と言い訳しながら俺をぐるぐる回して眺めながら、ピッタリだ、と満足げに笑う千春くんは、俺を見上げた瞳をきゅっと細めて〝やっぱりなおくんに似合ってる!〟と自信に満ちた声で言う。ゆるゆるだから、大きいサイズ買っちゃったのかと心配になったんだ、と満足そうな千春くんに、俺は何を返せるだろう。
    「えっ!? な、――泣いてる…………」
     なんで!? と慌てる千春くんと昂くんにもみくちゃにされながら。腰のあたりで揺れる軽い感覚に、また涙が込み上げた。



    「ちーちゃん、ちーちゃん」
     ちょっと、と呼び止めるしゅうに手招きされるままついていく俺を、慧はいつも嫌がるし怒る。怪しいやつにフラフラついていくのはやめろ、って言うけれど、さすがに俺だって知らない人にはついていかないし、しゅうは怪しい人じゃないし。でも流石に暗い廊下で、彼の自室の前で、ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべながら手招きされるとちょっと不気味ではある。
    「どしたの」
    「あれ、髪まだ乾かしてへんの」
    「ん。ともがしてくれるから」
     さいですか…… なんて呆れた風に言うしゅうはちょっと失礼だ。俺はと言えば絶賛風呂上りたてで、髪はいつもともがドライヤーをしてくれるからそのままなのも知ってるはずなのに。それでも、最後には〝ちゃんと乾かしや〟としゅうまでお母さんみたいなことを言うから、がちがちのわき腹を突いてやった。なおくんだと柔らかいのに、しゅうにやったらちょっと突き指したけど。そんなファンからゴリラと呼ばれるしゅうは相変わらずやくざ映画のチンピラみたいに悪い笑顔でニヤニヤしながら、俺に〝ええモン見せたるわ〟と囁いた。扉の奥は三部屋ある共同自室のうちの一つで、間違いなくなおくんとしゅうの部屋の扉だ。静かに、と言いたいのか人差し指を立てるしゅうに、わかったよと返す代わりに口をふさぐ。物音ひとつ立てず開かれた扉の先は真っ暗で静かだ。その中に小さく、人の呼吸の音がする。二人で抜き足、差し足、ゆっくりと部屋の奥へと向かっていけば、狭い部屋の端はすぐだ。しゅうはその一番奥で、にっこり笑いながらその下を指さした。すっかり暗闇に目が慣れた頃。部屋の奥、二つ並んだベッドの片方に、こんもりと大きな山がある。それは小さく上下に動きながら、小さく寝息を立てていた。慧よりも高い背丈の男が、丸くなって眠るとこんなに大きくなるものなのか、と僅かに感動しながら漸く、どうしてしゅうが俺をここへ呼んだのか理解した。
     くたくたになった大きなシロクマのぬいぐるみの側、枕にかけられた青空色の布。きちんと丁寧に折りたたまれ、色白の細長い指先がその生地の端っこを少しだけ握っている。まるでシロクマ用の枕みたいなそれ。に、っと笑うしゅうはもう、チンピラみたいな笑顔じゃなかった。寝てる時も眉間にしわがあるのは慧と変わらないんだな、とふと浮かんだのはそんなつまらないことで。しゅうの手が黒髪を一度するりと撫でるのを、まるで映画か舞台を見ているような気持ちで眺めていた。不自然に左端へ寄って眠るなおくんの理由も、なおくんのものであろうベッドはいつだって完璧なベッドメイクが崩れることがない理由も。わかってしまうのはきっと〝自分と同じ〟だからだ。それからまた、短い距離を俺としゅうは二人忍び足で戻った。明るいリビングまで、短い廊下の間もしゅうは一言も喋らなかった。いつも人より十倍は喋るしゅうが黙っているのはなんだか珍しくて、俺も、何を言えばいいのかさえ分からなかった。
     思い出すのは、エプロンに頭を通した時のなおくんの顔だった。あ、間違えたんだ。その表情で直感的に理解したのは自分が何か、彼の期待とは違う方向を向いていたんだということだった。結局、泣くほど喜んでくれたのだと、その動揺による表情だったのだと理解するのは一瞬だったけれど、なおくんは時折ああいう顔をする。
    「枕の側に置いといたら、夢に出て来るらしいわ」
     明るいリビングについた時、漸くそうぽつりと呟いたしゅうは、いつも俺と悪ふざけをするしゅうとは別人みたいに見えた。
    「お気に入りのモンとか、貰ったモンとか、ようああやって寝るとき側に置いてんねん。よっぽど嬉しかったんやなあ」
     部屋でもずっと持っとったんやで。そう言ったしゅうは、それから俺の濡れた髪をぱさぱさ撫でまわして〝ありがとうな〟と言った。俺がいつも不思議に思うことの一つ。しゅうはなおくんに優しくする人に〝ありがとう〟と言うこと。俺がなおくんとカフェに出かけたり、一緒に買い物に行ったりするだけでも、しゅうは俺に〝ありがとうな〟って笑う。なんとなくその意味を理解したのは、慧と友達以上の関係になってからだった。俺にはまだ照れくさくて、恥ずかしいその〝ありがとう〟も、今日ほどドキドキするものはなかったと思う。なんとなく、自分にはまだ未知の領域――もっと大人の世界の話のようで。
    「し、しゅうのセーヘキのためにあげたんじゃないからね」
     ヘンなことに使わないでよ、と咄嗟に誤魔化す俺に、しゅうはまたいつも通りのチンピラの笑顔で〝それは約束できんなあ〟なんていやらしい声で言う。
    「それに! 俺、公認の吉川担だからね。ちゃんと吉川担の人に認めてもらったから!」
     しゅうはただのカレシでしょ、俺の方がすごいんだよ! とついでに煽ってやれば、それどういうこと、と必死な顔で縋りついてくるしゅうに、少しだけ安心した。じゃれつくしゅうに、慧がすっ飛んできて引きはがすなり胸倉を掴まれていたし、待ちくたびれたらしいともが様子を見に来た。俺にはまだ、このくらいがちょうどよくて。なんだかしゅうが、一足先に大人になってしまうようで、少し焦ったのかもしれない。ちーちゃん助けて、と再び縋りついてくるしゅうを足で振り払ったとき。ほんの少しの寂しさが、あっという間に喜びに塗り替えられていくのをはっきりと感じた。大切に畳まれた青空が、彼の夢を明るい色に染めていればいいな。ご機嫌だね、と笑うともに、すっごくね、と笑い返した。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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