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    waremokou_2

    @waremokou_2

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    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    DOODLE求婚の日 ネヤネ。家族パロ時空。間に合いました。
    永遠のライバルに。 よく笑うようになったと思う。特に、俺の前で。昔ならおそらく、ヤツの高慢ちきなプライドが俺の前でアイツを強張らせていたのだと思う。例えば、俺の些細な冗談に。例えば、てると業の笑える話に。あいつは眉間のしわもそのままに、それでも凝り固まった表情筋をふと緩める。いいことだ、と思う。好いた相手がいつもしかめっ面をしているくらいなら、よく笑う方がずっといい。きっかけは、その笑顔に独占欲を感じたことだった。
     今、少し歩こうと誘い出した俺の前を歩く黒柳はいつもより少しだけ上機嫌だった。そのために、アイツの好きなワインを頼んだ、というのもある。賄賂だといわれても仕方ない。目的のために手段を択ばないのは昔からの手癖、のようなものだろうか。そういうところは少しだけ、アイツと俺にある数少ない共通点だと思う。目的のために手段を択ばず、確実な勝利のために最大数の保険を用意する。アイツが聞けば〝お前とは比べるまでもなく、私の方がよっぽど慎重だ〟と笑われるだろう。アイツが好きなレストランで、好きなワインを用意させて、ついでに俺らしくもなく、必死でヤツが好きそうな話題まで探して。それでもどうして、そんな自分が嫌いになれない。相変わらず黒柳はいつ見ても寒そうで、ストールを巻いているくせにそれでも薄い体が夜の風にあたるのは、誘い出した身として言うべきではないだろうがなんだか、壊れてしまいそうで少し不安になる。あれでも肉付き――脂肪ではなく筋肉のみだが――はいい方だと知っているのに、血色の悪い肌が、氷のように冷たい手が、氷像よろしく溶けて、崩れてしまいそうで。
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    DOODLE最後の最後まで駆け込み乗車でした

    ネヤネが紅茶を一緒に飲む話。
    最終日ですありがとうございました。次回のわれ先生の連載にご期待ください。
     朝。いつもよりずっと早くに起きたのは子供だけではなかった。三毛縞が起きた頃、黒柳は休日であるにもかかわらず少し早く起きたようで、まだ眠たげな目で洗面所に立っていた。うとうとと彼方此方で船を漕ぎながら、隣に揃った三毛縞と共に歯を磨き始める。お互い朝の挨拶程度しか言葉はなかったが、それでも何を期待しているのか、待ち望んでいるかはわかっていた。それからしばらく、お互い寝ぼけた頭でぼうっとコーヒーを片手に待ち続ける事三十分。子供用の寝室から、わあっともはや悲鳴にも近い歓声が上がった時、目を見合わせた二人が示し合わせたように笑ったのは、子供の知らぬ話である。

     サンタへ出した手紙の希望は、結局それ以上のものとして叶えられていた。カルマには彼が希望した本と共に、新しい登山用のジャンバーとハットが。照也には希望に出した人形が二体に、候補の一つであった戦隊シリーズの武器を模したおもちゃが。手紙の返事には、日々の努力を認めその功績としてのプレゼントであるとの旨が記されていたらしく、まるで法廷に提出する書類さながらの堅苦しさの中に、思いやりと慈しみが見え隠れする手紙はたしかに黒柳らしかった。
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    DOODLEねやねがこうちゃをのむはなし
     前回までのあらすじ
     先日三毛縞が左腕を捻挫し、全治三日の絶対安静を言い渡される。それを聞いた黒柳は三毛縞に過激なまでの絶対安静を厳守させるのだった。

     昨日に引き続き、三毛縞の絶対安静を守らせる黒柳の態度は変わることがなかった。何が黒柳の琴線に触れたかはわからないが、とにかく三毛縞のせんとする家事や、子供の世話を率先して奪ってしまう。使用人に代わらせるのではなく、自ら進んで三毛縞から取り上げていくものだから、三毛縞も取り上げられた以上何も言えずに任せることとなった。車の運転も、モーニングコーヒーを淹れることも、子供の送り迎えも。三毛縞が動き出すと、いつの間にか黒柳が隣にいて〝何をしているんだ貴様〟から始まり、安静にしていろ、と三毛縞の前を歩く。珍しく二人で送迎に来たことに、照也と業はおおいに驚き、同時になんだか妙に楽しそうだった。悪くない、と思う。この共同生活が始まってから二人が顔を合わせる時間は圧倒的に増えたことは確かだが、こうして同じ物事を揃って協力することはあまりない。親子というより、共同家庭経営者と表現する方がずっと近かった関係だ。それが今三毛縞の知らない、想像でしかなかった〝家族〟という形に近づいているような気がした。
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    DOODLE三毛縞が黒柳に紅茶を淹れる話。

    三毛縞が……?
    「三毛縞様!」
     投げかけられた使用人の声はもはや言葉というよりも悲鳴という方が近いだろう。三毛縞はただ、咄嗟に飛び出した自分の置かれた状況を判断するだけで精いっぱいだった。自らの手首に感じる鈍痛以上に、三毛縞を安心させたのは自分の上に倒れこんで腰を抜かす少女に、怪我がなかったということだった。
    「三毛縞様!」「大変、い、医者を呼ばないと……」
     パニックになる使用人たちも無理はなかった。三毛縞が咄嗟に飛び出したのは梯子から落ちる少女の下だ。落ちるとわかっている少女ならば、三毛縞は彼女を立ったまま抱きとめることができただろう。足を滑らせた彼女が思わず手を離した梯子から落ちていく瞬間、三毛縞はまるでスローモーションのようにさえ見えた。全身の筋肉が咄嗟に唸りを上げ、廊下を蹴って踏み出した一歩から全速力で駆け出し、腕を伸ばしとにかく、重力のまま彼女を床に叩き付けるわけにはいかないと脳よりも先に体が動いた。幸い、少女は滑り込んだ三毛縞に抱きかかえられるような形で受け止められ怪我はなかった。ただ周囲の動揺と悲鳴に漸く、自らの現状を理解し彼女は慌てて三毛縞から跳ね起きながらとうとう腰を抜かす羽目になる。
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    DOODLEねやね紅茶すべりこみ
    今日は探偵と助手
     二人はもう手足がバラバラになりそうな疲労をぐっと堪え最後の力を振り絞りアパートメントの階段を上がり、そして倒れこむように愛しきわが家へと転がり込んだ。今日の案件は黒柳の思考を大いに満足させるだけの謎もなく、かといって三毛縞が退屈するような平和な結末ではなかった。黒柳は指定された現場を一目しただけで犯人を言い当てた。氷笑の探偵とさえ称される黒柳の表情は現場にいた警官どもを震え上がらせるほど睨み付け、見下げ、まるで〝この無能な有象無象のために私がなぜこんな場所まで足労せねばならぬのだ〟とでも言いたげであった。が、しかし犯人が分かったところで今度はその犯人の居場所がわからない。すでに機嫌が最底辺まで落ち込んでしまった黒柳をなんとか説得すると、今度は犯人の男探しが始まった。黒柳は持ち前の推理力で男の行動を予測し、先回りしてとらえることに成功した。――いや、成功するはずだった。問題は、犯人の男が三毛縞顔負けの巨漢であり、格闘技をたしなむ武漢であったことだ。もう逃げられないと悟ったのか、男の反応は早かった。格闘技の知識があるためか、現場で最も戦闘経験のなさそうな黒柳に向かって一直線に、弾丸のようなタックルを食らわせんと猛進してきたのである。が、しかしその速さを上回る素早さで、三毛縞が男を食い止めた。両者もみ合い、骨がぶつかり合うような鈍音を響かせながらもつれ合う。男は再び黒柳に狙いを変えた――ように見せかけた。三毛縞が、黒柳の前に飛び出すと理解したからだ。黒柳が現場で零した稚拙で低能極まりない下劣でひねりもない犯罪、を犯した男にしてはまさに機転である。咄嗟に三毛縞は黒柳の前に飛び出そうとし――隙を見せたわき腹に重い一撃をズドンと食らった。
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    DOODLEDom/subパロディのねやね
    こうちゃのはなし
     たかが茶の一杯を淹れるため、どうしてこうも手間を掛けなきゃならんのだ。当初はそう呆れた三毛縞も、今や給仕の残したメモなしに黒柳の好む紅茶の淹れ方を覚えてしまった。当初こそ、突如発現した黒柳のドミナント性のコントロールに付き合うという関係性だったはずが、今や黒柳のダイナミクスは安定しており、コントロールにも問題ないどころか自らのダイナミクスを使いこなす様にまでなった。一方の三毛縞はと言えば、未だ命令にも、褒美を与えられることにも、仕置きをされることにも慣れずにいる。成り行きで結んだパートナーという関係性も、気づけば紆余曲折、三毛縞は黒柳から艶めいた黒革の首輪まで贈られ、今それは彼の首筋でくすむことなく輝き続けている。三毛縞の、パートナーのためだ、というのが、使用人をすべて解雇した黒柳の言い分である。無論、黒柳邸に尽くしてきた彼らは今、黒柳の口添えで新たな職場で活躍し、黒柳法律事務所の事務員として雇用され、また新たな分野で自らの夢を追いかけている。問題は、それまで家事などしたこともない三毛縞がそれらをいっぺんに任されたことだ。幸い、給仕たちは皆三毛縞に優しく、引き継ぎのための手記を残してくれていたものの、そのすべてを恙なく実行することはあまりにも大変すぎた。当初はもう、黒柳もろとも野垂れ死ぬんじゃないかと思うような問題の連続ではあったが、今――ぼんやりと考え事をしながらでも、完璧に紅茶を淹れられるようにまでなったことはもはや奇跡に近かった。
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    DOODLE今日はないとおもった?残念、あるよ。
    悪魔の三毛縞と悪魔払いの黒柳。
    「まいったな、こりゃ……」
     三毛縞はくしゃりと一度後ろ髪を乱暴にかき混ぜながら、目の前に並ぶそれらを忘れる様に目を背けた。ここは街のはずれ。先日三毛縞たちが通り過ぎた華々しく活気があり、人の往来が絶えぬ街の中心とは、まるで別世界の様に寂れた場所だ。街まで戻ればそもそも三毛縞は今寂れた宿の共同台所で、宿屋の主人に貰った紅茶の缶を持て余してにらみつけることもなかった。頼りの女主人は三毛縞に顎で台所を指す以上のことをするつもりはないようで、とっとと彼女の部屋だか、買い物だかに行ってしまって頼れない。それでも三毛縞には、紅茶――と、いうよりも何か暖かく、味のついた飲み物を用意する必要があったのだ。
     そも、三毛縞には紅茶の淹れ方がわからぬ。三毛縞は、淫奔を司る悪魔である。性を食らい、人間と遊んで暮らしてきた。けれども、妙な縁を築いてしまった自らの主人・黒柳の不調に対しては、悪魔一倍敏感であった。三毛縞がこの古宿で目を覚ましたのには理由があった。先日の悪魔狩りで三毛縞が不意の傷を負ったことが原因である。油断をしたわけではなかったが、黒柳に向かって放たれた攻撃を咄嗟にかばって負った傷だった。三毛縞自身、同族殺しであり、人間でもある黒柳を咄嗟にかばったことを驚いてはいたが、それ以上に黒柳は動揺していたように思う。三毛縞はその後歯向かう悪魔を粉みじんに殺し尽くしたことまでは記憶にあった。ただ、夢か現か、黒柳の与える力――彼の精力を朦朧としたまま貪った。実際三毛縞が目を覚ました時、黒柳は普段の浅い眠りが嘘のように深く眠り込んでおり、塞がった自らの傷にあの夢が夢ではなく現実だったのだと知ったのだ。シーツに隠れていたものの、黒柳の細く、血の気の引いた首筋に痛々しい傷がちらりと見えた。魔力を得れば死に至るような傷でさえ完治してしまう悪魔の三毛縞とは違う。黒柳の体は長い長い時間をかける必要があり、痕が残ることさえあった。それが人間の脆さであり、愛おしいとさえ思っていたはずなのに。朝、夢が現実になったのだと確信した瞬間、彼の体を見ることを三毛縞は怖いと思った。薄いシーツに隠された細い体が、自分が咄嗟に守りたいと庇った体に、自らが傷を施したのかと思うと無性に腹が立って仕方なかった。だから逃げるようにベッドを飛び出し少しでも、遺憾の意はあれど契約を交わした主人の庇護に感謝し、礼をできればという気
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    DOODLE今日から暫く違う人類史のはなし。
    リッチマン(金持ち限定の弁護士)の黒柳が、誘いを断れない相手に誘われた先で、ストリッパーのバイトをしている三毛縞と出会う話。これはネヤネ:マイルドでかくはなし。
     ほら、と差し出されたマグカップは雑に入れられたティーバッグが僅かに色を滲ませながらも、まだほとんど湯のままの状態に近かった。ただ全身の骨まで刺すような寒さの中で、三毛縞が寄越したマグカップの湯気をもくもくとたてるそれは、手のひらの凍ってしまった細胞を溶かし尽くすような確かな温もりを持っている。歯の根が合わないなんて生まれて初めての経験だった。小さな小さな――とはいえ黒柳が見た中では冗談かと疑うほど大きなマグカップだけが、今黒柳を生かす温もりのようにさえ感じられて、ただ必死で、その最低最悪の紅茶にしがみついていた。
     紅茶は嫌いじゃない。それでも黒柳が好むものは女子供が好んで飲むような甘ったるく、着せられたような華やかさのあるフレーバー・ティーではない。厳選された産地、選び抜かれた茶葉、そしてその素材を人の手により加工する技術。その芸術と叡智を最も完璧な状態で抽出する一滴にこだわる美しさが好きだった。今、目の前に浮かぶ茶葉は甘ったるく強すぎる人工的な香りが茶葉本来の風味をぶち壊し、無駄に加えられたスパイス――おそらく、シナモンだろうその香りが全てを誤魔化すためだけに使われている。黒柳は再び、今度はせっせと毛布を運んできた三毛縞を一度睨むと、もうじゅうぶん色のでたティーバッグを引き上げて見せながら、その置き場を口外に要求した。
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    DOODLE毎日更新がもくひょうなので! 内容よりかいすうですので!
    製本時には加筆しますので!
    ねやねが紅茶を飲む話 ――午後三時。黒柳家のおやつ時はいつも決まってこの時間である。今日の黒柳は午前中、年末に向け使用人たちの年末手当や年始の契約更新手続きなどの書類作成や事務手続きに追われていた。昼食後も暫く作業に追われながら、どうにか半日掛かりですべての事務処理を片付けたところで軽食のご準備が整いました、とメイドに声を掛けられたのだが。
    「――おやおや、随分と立派な角じゃないか」
     ごろりと寝そべるのは虎も紛うような大型の三毛猫だ。子供二人に伸し掛かられ、体を好き勝手にされながらも、爪を立てることも抵抗するそぶりも見せない従順っぷりである。頭に巻かれたリボンには、段ボールと色画用紙で作ったのだろう角らしき装飾が施されており、まるで絵画やおとぎ話に登場する架空の生き物そのものの様に、黒柳は思わず口角を緩めた。すごかろう、と自慢げに三毛縞を見せる二人の子供は、先日の動物園でみたトナカイの大きな角にさぞ感動したようで、その遊びに付き合ってやっているのだろう三毛縞の、無抵抗なさまが黒柳にはあまりに新鮮で愉快だった。角の生えた大きな猫は、子供二人もぶら下げたままのっしのっしと部屋を闊歩し、おやつの時間なんだからさっさと席に着きな、と言わんばかりである。子連れ虎さながらに二人をあやす三毛縞に、黒柳は助けを出すでもなく自らも用意された席に着いた。
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    DOODLE酔った黒柳が悶々としながら三毛縞に寝かしつけられるはなし。
    黒柳はたぶん偉い人との会食とかあった帰り。
    おやすみなさい、よいゆめを。 伸ばされた腕は相変わらず緩慢な動きで、いかに黒柳が酔いに身を委ねているかをまざまざと見せつけていた。手招く手のおぼつかない動きに、三毛縞はいつもよりずっと従順な態度で横たわる黒柳の側へと向かうと、まるで子供にするような手つきで頬をするりと撫でられる。こりゃ相当酔ってるな、なんて呆れるほど熱い掌がむしろ普段の低い体温を思い出させるなんて。弱い力だった。三毛縞どころか、子供だった業でさえ片腕で跳ね返せそうなほど、弱い力で引き寄せられ、三毛縞は求められるまままだアルコールの余韻でとろけそうな黒柳の舌を自分のそれで絡めあう。乗り上げたベッドは相変わらず寝心地の良い低反発のもっちりとした沈み具合で、大男二人を難なく受け止めてしまう。静かな夜更けの寝室に、湿った水音だけが転がり落ちて。わずかに汗ばんだ黒柳の地肌を撫ぜながら、三毛縞はいちどきつく舌に吸い付いて、ゆっくりと唇を離した。二人をつなぐ細い細い糸もすぐ、ぺろりと黒柳の舌が絡めとり、こくんと喉を鳴らし、見上げる気だるげな目つきの僅かに涙ぐんだ目元の赤さに雄の本能がグラリと揺れる。普段よりずっと従順に、背中を掻き抱く腕は甘えるように三毛縞のシャツを握りしめていた。それでも、三毛縞は目の前に身を差し出すか弱く振舞う山羊の肉に、愛おしそうに唇を寄せそれ以上はニコリと笑うだけだ。自分がかぶさった体の下で、らしくなく肌着のままの黒柳がわずかに足をすり合わせていることに気が付いていながら、だ。
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    DOODLE滑り込み更新。
    「てる、急いで食っても出発する時間は変わらねえからゆっくり食いな。カルマはあんまり腹減ってねえの? 食えるやつだけ食っちまいな」
     黒柳が思うに、三毛縞清虎という男はおそらく相当な〝お節介の世話焼き〟である。かつて学友として記憶に残る烏丸左京の姿も相当に〝お人よし〟ではあったが、この男ほど他人に首を突っ込む男ではなかった。無論だれかれ構わずではなかったが、少なくとも烏丸、黒柳ともに、この三毛縞清虎という男は懐いた相手に対して甘い。今、照也と業という子供を相手にすることでその世話焼きな性格がいかんなく発揮されていることに、黒柳は未だ驚きを覚える。確かに三毛縞は世話焼きではあったが、黒柳とともに、子供の相手などまるで向いていないような性格だったからだ。唯一、父親としてまともに機能するだろうと予想していた烏丸ならともかく、他人との関わりに致命的な欠陥を持つ黒柳と三毛縞が、今は共同で子供の面倒を見て生活をしている。かつての自分にそう伝えられてはたして信じられるだろうか、と想像することさえ黒柳には愚門である。答えは否、とても信じるとは思えないような状況は、今現在ですら時折〝これは夢か〟と錯覚さえする。人生は何が起こるかわかりませんね、かつての依頼人がそう零したことがある。これまで黒柳にとって人生とは、自分で敷いたレールの上を規則正しく、正確に走ることだった。だからこそ〝何が起こるかわからないはずがない〟と。今なら――まさにその通りだと言える。必死で敷いてきたレールの行き先が間違っていることに、たどり着いてから気づくだなんて。
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    DOODLE秋月家の強幻覚
    もっと知りたいという意味(脅迫)を込めて出しました。
    「あ」「お……」
     ばったりと出くわした二人はピタリと声をそろえて向かい合う。ドーム状の天井があるとはいえ、この時期商店街を吹き抜ける風は冷たい。それでもジャケットとジーンズだけの三毛縞の前に立つこの男――秋月佳輔はいつものスラリとした四肢にこれでもかと重ね着しているように見える。
    「そんなに寒がりだったか?」
    「いや、ちょっと買い出しに行くって言ったらみんなが着てけって」
    「ハハ、そりゃ間違いねえ」
     普段の見慣れた姿よりややもふりとした秋月は、動きにくそうにしながらも彼らの営む喫茶店――ダリアの方へと向かっていく。
    「帰るとこか?」
    「ああ」
    「じゃ、豆買いに行くわ。お前さんの顔見て思い出した」
     そりゃどうも、と並んで歩く三毛縞は、店を一軒通り過ぎるだけであちこちから声を掛けられている。秋月もかなり顔なじみになっているとはいえ、その呼びかけられる確率の高さは彼の父・秋月崇彦にも負けず劣らずの人気っぷりである。本人は歩く速度を変えることもなく、へらりと気の抜けた挨拶を返すだけで、まっすぐ店に帰る秋月についてきている。昔と同じだ。妙な猫に声を掛けただけでどこまでもついてきてしまったあの時と。三毛縞は相変わらず歩くだけで目立つ。秋月もいくらか声を掛けられたが、いつもよりずっとその声が多かったのはひとえに、三毛縞の隣にいたからだろう。
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    DOODLE三毛縞が黒柳に紅茶を淹れる話

    これで在庫がきれた
    ネヤネ 今日は朝から、照也と業が慌ただしく出かけていった。なんでも朝日奈家の姉妹に、遊びに誘われたらしい。妹・ねむは黒柳邸の子供二人といつも一緒で、いわゆる仲良しグループであり、彼女の姉・らむがそんな三人をまとめて面倒を見てくれると言う。最近公開された話題のアニメ映画を見にいくらしく、暫く迷った挙句に黒柳は、用意した金を姉のらむに渡すよう三毛縞に伝えた。
    「悪いねえ、二人も面倒見させちまって……」
    「いえいえ、私も賑やかだと楽しいですし。それにねむが喜びますから」
     彼女はおっとりとした物事柔らかな性格ながら、やんちゃ盛りの照也と、マイペースな業を二人まとめて相手にしてしまう豪胆な一面もある女性だった。黒柳から受け取った金を彼女に渡しながら、よかったら四人で使って、と伝える。はじめは彼女も遠慮していたが、話し合いの末今ではニコリと笑って受け取ってくれるようになった。黒柳邸の人間としてはそも妹のねむともども預かれるようなことも少なく、返せる礼といえば専ら金程度しかない。とはいえ、三毛縞がこの家に来てからは時折三毛縞も交えて出かけることもあったが。
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    DOODLE全然間に合ってないアドベントカレンダーネタです。
    ネヤネ:ほんのきまぐれ「これ買ぉてやあ」
     くい、とジャンバーを引かれる感覚に、三毛縞はなんとなく眺めていたワインの紹介ポップから力の方へと目線を下ろす。小さな赤と黄色の目が二対、ジッと三毛縞を見上げながら、なんとかこの交渉を成立させようと強い眼差しで訴えかけていた。
    「なァに二人して持ってきたんだよ」
    「これなあ、おかしはいってるねん!」
     ずい、と差し出されたクリスマス仕様の大きな箱は、この店の中でも一番目を引くディスプレイで陳列されていたものだ。三毛縞はもちろんその商品が何であるか知らなかったが、カレンダーじみたデザインになんとなく、どういったものかは理解できた。小さな手に握られた大きな紙箱をぐるりと眺め回し、再び二人に向き直る。この子供たちが、この商品が普段買ってもらっているようなお菓子でないことを正しく理解しているのか確かめておかねばならない。まあ三毛縞は黒柳誠と違い、こういった物事に大らか――黒柳誠曰く、杜撰である。財布の出どころを黒柳誠に頼り切っているとはいえ、たかがお菓子の箱一つずつくらいと言ったところだが、黒柳誠はけしてその限りではない。ケチくさい、というより生真面目なのだろうと三毛縞は思う。やれお菓子を夕飯前に食うなだとか、ルールには従えとか。弁護士としての職業病というより、黒柳誠の性質が弁護士としてちょうど良かった、という方が正しいほど、彼はルールに忠実だった。これで三毛縞が今、ろくな説明もなしに買い与えてしまえば、文句を言われるのは三毛縞当人である。しょうがない、とは思いながら小さな目線を受け止めるため、よいせとしゃがみ込み二人の子供に向き合った。
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