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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    お題は「花見」

    終わらなかった無念……

     ずらりと並んだ待ち人の最後尾に並んだ時、自分より前の八組が若い女性の組み合わせか、男女のカップルだけで構成されているのだと気づいてしまった。畠中駅から二駅先、中島に連れられた先が最近できた新しいカフェだと気づいた時には遅かった。そも、今日もまた出不精の吉川がいそいそと外へ出向いているのかといえば、昨日の待ち合わせについての、中島は知らないだろうが吉川の中に生まれた罪滅ぼしのようなもののせいだ。つい、あの何も知らない笑顔に絆され今日もまた会う約束を結んでしまった。だが、問題はその行き先だ。店先に並べられた椅子にちょうど座ることもできず、吉川はもういっそ自分が透明人間になってしまわないだろうかと必死で念じることしかできなかった。
    「へえ、映え重視って感じかと思ったら普通のケーキもあるんや」
     この男は、こんなにも可愛らしい店にどうして自分などを連れてきたのだろう。窓から見える店内は花屋もかくやと言わんばかりの可愛らしい内装で、先に待つ人同様、女性客がほとんどである。ちらほらと所在無げにする男たちはどれも向かいに幸せそうにケーキを頬張る女性を連れており、男だけで店にいる客は残念ながらいなかった。
    「――なんでここ……」
     メニューを覗き込む中島は絶望する吉川のことを気にするそぶりは見せなかったが、吉川の中でこれはもはや一大事である。先に待つ女性のいくらかは、中島の類まれなる人目を引く容姿と、吉川の圧倒的な身長に意識を奪われていた。中島には慣れたことでも、吉川には自分が一瞬でも注目を浴びるのはとても耐えられることではない。
    「なおはどれにする?」
     相変わらず、中島は呑気に何を食べるか選んでいるらしい。差し出されるメニュー表までもが可愛らしく、吉川は目眩さえした。細工の施された目に楽しいケーキから、シンプルなよく見るショートケーキなどもある。普段、吉川が行く二十四時間営業の大型スーパーにはとても見ることはできないラインナップだ。思わず、目移りする吉川が熟考する間、気付けば待つ人は次々に店内へと吸い込まれていく。気付けば、次に席を用意されるのは中島たちである。
    「なお、食いたいの二個選んでええで」
    「――二個も食えないんだけど」
    「半分こしたらええやん」
     そう、簡単に言ってしまう中島だから吉川は強く拒めないでいる。この男が自分勝手で、吉川の神経を逆撫でするようなことばかりする男だったならどれほどよかっただろう。吉川は中島を簡単に恨んで捨てられただろう。吉川の好き勝手に男を利用して、飽きたら捨てることもできた。中島が中島である限り、吉川はこの男を恨むこともできない。ただ、少しでも中島を嫌いになれる場所ばかり探してしまう自分を、醜いやつだと罵ることしか許されない。中島は相変わらず呑気に笑って、ケーキセットにつけるドリンクをコーヒーにするか、紅茶にするかで悩んでいた。
    「この、二つにしたら…… 無難、だけど……」
     吉川は一番人気と記されたシンプルな桃のケーキと、今の時期だけの限定メニューである、食用花の飾りがのったケーキを指差した。
    「お、ええやん」
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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