ガタン、と大きく鳴る雨戸に抱えた背中もまた小さく震えた。かぜの強い音は時間を経る毎に強さを増し続けている。ひどい雨が窓を叩きつけるように降り続いたせいで庭の花も、窓から見えていた桜の木も、あっという間にその花弁を散らしてしまっていた。それはまるで花が咲いたのを狙ったかのように吹き荒れるそれはあまりにも邪悪で、子供のような無邪気ささえ感じられる。ただ――自分はそんな春先にくる嵐が嫌いではなかった。
「これ、帰れそうかあ?」
腕の中のそれは俺の言葉にほんの少し躊躇いがちに頷いた。その返事がただの強がりだとわかっていたが、だからと言ってもう言葉は要らないはず。きっと数時間後には、彼は彼の兄に今日の帰宅が難しいことを連絡するだろう。腕の中でじっとする男はおそらく、俺が母親に今日の夕食にもう一人ぶんを追加するよう願い出ていることなど知らないだろう。
家に来ないかと誘った時、吉川はきっと断らないんだろう――否、断れないんだろうという確信があった。故に、ずるいやり方だなと自覚はあったが、ずるい自分になってまで手に入れたかったものだったから、手段はもはや選ぶだけの余裕もないのが事実。案の定暫くの空白の後、吉川からは行ってもいいというわかりきった返事が来た。別にこの嵐を狙ったわけではない。事実、今日の天気予報は快晴、とまではいかずともここまで荒れる予定ではなかったのだ。多少、小雨は降るだろうという予想ではあったが、まさか電車のダイヤが乱れるほどの大嵐になるとは思うまい。こちらとしては思わぬ好機である。